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夏祭り

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「ぁあー……ったく、あいつが来るの遅いのが悪い。――早く来るようおまじない、してやろっか?」
「え……?」
「都」
 諦観した様子の緋真に対し業を煮やした海燕は、都を呼んで潜めた声で『おまじない』の内容を話した。
 あら、良いの? 朽木さんに怒られるわよ。構やしねえって、ただ都が協力してくれねえとできないからさ。あなたが良いならいいわよ。じゃ、決まりってことで。
 ひそひそと囁かれる言の葉。蚊帳の外に置かれた緋真は、仲の良い二人の様子を眺め遣るのみで、どこか達観とした表情を浮かべていた。話が終わったのであろう、二人同時に緋真の方を向き歩み寄る。
「白哉が早く来るよう『おまじない』」
「緋真さん、こっちを向いて」
「え、……え?」
 両肩にそれぞれの手が置かれた。最初に海燕の方へと視線を向け、次に都の方へと面を向けた。一瞬の内に距離が狭まり、両頬に柔い感触。触れたのみのそれは、すぐに離れていったけれど、何が触れたのかは明白で。頭が理解した瞬間、頬へと熱が集まった。瞬く間に朱色に染まる頬。口を開くが言葉が出ない。

「――何か、云い残す事はあるか」
 その瞬間、絶対零度の冷ややかな言の葉が落とされた。

「……白哉様、あ、あの、その」
「どうするの? 本当に来ちゃったわよ」
「……すげえ、効果覿面にもほどがあんだろ」
 三者三様の台詞を述べ、現れた人物へと視線を遣った。紫紺の地に白や灰や青の縦縞が走る浴衣を纏った白哉がそこに居た。常よりも更に無表情に磨きがかかり、その視線は一点に集中している。
「えと、遅かったな白哉。緋真さん待たすとはいい度きょ……って待てまてマテーーー! それ人に向けるもんじゃねッッぐあァ」
 聞く耳なしと横の屋台の台の上へと手を伸ばした白哉はそこにある何かを掴み取った。海燕にとって不幸だったのは止める者が誰も居なかったことだ。手に持った射的の銃の狙いを前方に定めると、騒ぐ声など聞かずに引き金へと指を添え、躊躇うことなく撃った。
 すぱこーん、と小気味の良い音を立て、弾は見事海燕の頭に命中した。

   ***

 制裁を加えた白哉はもうその存在には目もくれず、緋真の横へと歩み、寄り添うように立った。双眸に映る髪を上げた姿は見慣れぬもので、ほっそりとした白いうなじが覗き数本髪が零れ、ゆらと簪の飾りが揺れる様に僅かに目を見開いた。
「緋真、それは」
「ここへ来る途中、都さんと海燕様が似合うからと見繕って下さいまして。……勝手に申し訳」
「いや、よく、似合っている」
「……! あ、ありがとうございます」
 蒸気した頬は冷めやらないまま、今度は別の意味を持って色を染めた。
「奥方、礼を云う」
「いえ、見惚れてくれたようで何よりです」
「…………」
 図星を指された白哉はしばしの間口を噤んだ。一瞬の眸の揺らめきか、はたまた纏う雰囲気の些末の和らぎか、何が原因で気付かれたかは分からないが、やはりこの奥方は油断ならない人物だと、認識を改めた白哉であった。なぁ、俺に礼の言葉はねーのかよ。といったような雑音が聞こえた気がしたが、綺麗に流した。

 その後四人となった一行は、祭りの賑わいの中、屋台巡りに興じることにした。
 振り向きざま白哉の口の中にたこ焼きを突っ込む海燕。ふわふわのわたあめを幸せそうに食べる緋真。差し出されたそれを一口だけ貰う白哉。イチゴのシロップがかかったカキ氷を掬う都。あーん、と強請る海燕に応え、スプーンに掬ったそれを口元へと運んでやる。
 お面が並んでいるところで狐面を見留めた海燕は、これ市丸のやろーが被りゃあ良いんじゃねーか、と云って笑いを誘った。わなげの景品の可愛らしいグッズを見付けた緋真はそれに目を取られ、それに気付いた白哉と海燕は、何をどうしてそうなったのか、わなげ対決をすることになった。
 緋真は、こういった祭り騒ぎはあまり得意ではないのだろうと思っていた白哉が、意外と馴染んでいる様子に些か驚いた。思わず問うと、
「以前、連れ回されたことがある」
 と返ってきた。誰に、などとは自明の理である。納得した緋真だった。
 祭りもたけなわ、掛け声と共に煌びやかな御輿が運ばれる様を見た一行は、その御輿の上に居てはならない人が居るのを見付けてしまい、余計なことに巻き込まれる前にと大慌てで逃げた。後日現世にて語ったところによると、
「なんで追放された奴がンな目立つところに居たんだよ! そりゃあんたは姫さんだから御輿の上に乗るのにこれ以上の人はいねえけど、いきなりンなとこから出たら驚くでしょーが」
「いやぁ、白哉坊が嫁を貰ったというから、これは一遍見ておかんと思っての。ほれ、高いところから見渡した方が見つけやすいと云うじゃろ。でもま、お楽しみのようじゃったから声は掛けずにおいた」
「……やっぱ見付かってたのか」
「愛いおなごじゃったの」

   ***

 夜空に大輪の華が舞った。
 色鮮やかな光の踊りが空を覆い、見る者を惹き付ける。ほぼ同時に、ど……ーん、と体の奥底に響く音。祭りを締めくくる花火である。四人は人込みを避け、祭りの中心から離れた一軒の屋根の上から咲き誇るそれを眺めていた。
「すごい、綺麗ですね。これが、花火」
「見るのは初めてだったか」
「はい」
 咲いてはすぐに散ってしまう様に、目を逸らすことなど出来ないとばかりに見惚れている。初めて見るそれを目に焼き付けようとしているのか。その視線が不意に隣に座る白哉の方へと向けられた。
「白哉様と一緒に見ることができて、とても幸せです」
「そうか」
「今日は来て下さり、本当にありがとうございます」
「いや、待たせたようで、すまぬ」
「いいえ、来て下さっただけで嬉しいのです。今日は、とても楽しい日を過ごさせて頂きました」
「……些か気に食わぬこともありはしたが」
「え?」
「また、来よう。それと――今度は二人で、どこか出掛けようか」
 白哉が紡いだ身に余るような言葉に、反射的に頭を振ろうとした瞬間、屋根に置いていた緋真の手に白哉のそれが重なった。視線を捉えて離さない白哉。途端頬へと朱が走り、断ることなどできなくなった緋真は、こく、と小さく頷いたのであった。

「いい感じ?」
「いい雰囲気ね」
「成功?」
「緋真さんと朽木さんをいい雰囲気にさせるのが成功なら、ね」
「んじゃ、緋真さん攫って白哉の奴をやきもきさせながら追っかけさせて最終的にいい感じになりやがれ作戦は成功ってことで!」
 こっそりと二人を窺いながら囁き合う海燕と都。それほど離れた位置に座っているわけではないので、こっそり窺うことにあまり意味はなかったりするのだがそこはそれ。
「なぁ都、俺らもいちゃいちゃしねえ?」
 二人の様子に感化されたのか、白哉の所作に対抗心を燃やしたのか、海燕は不意にそう云って顔を寄せた。何かを期待する眼差しに、都は仕方がないわね、といった風な表情を浮かべると、近付いた面の頬へと一つ口付けを落とした。
「さんきゅ。じゃ、お返し」
 破顔して礼を述べた海燕はそのまま身を屈めると、お返しと称して口唇を重ねた。それが自然な流れであるように、瞼を伏せる都。
作品名:夏祭り 作家名:サオト