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歪んだ恋の始まり。Ⅱ

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「まさかまた君と同じ学校へ通うことになるとはね、僕は嬉しいよ!」

 背後をちょこちょことついてくる男に、静雄は辟易した。
 来神高校入学式当日。おろしたての制服に袖を通し、これから始まる新生活に心躍らせていた静雄は、直ぐに奈落の底へと付き落とされた。来神高校までの道のりの途中、この男――岸谷新羅に出会ってしまったからだ。
(…最悪だ)
 新羅は静雄と同じ小学校に通っていた。この男は大層な変わり者で、医者の父親に影響を受けたのか、静雄が暴力沙汰を起こす度に「解剖させて欲しい」と目を輝かせ静雄に迫ってきたのだ。静雄は新羅に一種の不気味さを感じていた。周りの人間は静雄が暴力を振り回す度に静雄から離れて行った。けれどこの男は違った。離れるどころか、静雄を好奇の目で見てきたのだ。まるでモルモットを観察する研究者のように。――そんな男が同じ高校へ進学するという。
 静雄は目元を抑えた。
 出来るだけ穏便に高校生活を送ろうと思っていた矢先、早速その願いを壊された気分だった。

「君の噂は僕の中学まで届いてたよ、ますます腕を上げたようだね。どう?一度僕にその
身体を解剖させてくれないかな。僕はこの再会を運命だと思うんだよね!」

 つらつら述べる新羅に、静雄はだんまりを決め込んだ。悪い意味で全く変わっていない新羅に、この先が思いやられたのだ。兎に角出来るだけ深く関わらないでおこうと歩みを速めた時、突然目の前に黒いバイクが現れた。
 驚いた。そのバイクからは全く気配を感じ取れなかったからだ。
 衝突しそうになり、静雄は慌てて足を止めた。

「セルティ!」

 叫んだのは新羅だった。知り合いなのか、満面の笑みを浮かべ走り寄る。
 セルティと呼ばれたバイク乗りは、静雄を見ると申し訳なさそうに頭を下げた。どうやら謝っているようだった。
 静雄は目を丸くしていた。バイク乗りからは全くといっていいほど実在感がなかったからだ。バイクも同様、エンジン音さえも聞こえてこない。
(何者だ、こいつ)

「紹介するよ。彼女は僕と同棲中のセルティだ」

 セルティは間髪いれず新羅の頭を殴った。PDAに「同棲じゃない、同居だ!」と打ち込み抗議する。

「ごめんごめんセルティ、そんな照れないでくれよ」

 セルティは肩を震わせると、烈火のごとくPDAを早打ちした。新羅はそんなセルティを愛しそうに見つめている。
 静雄は2人のやり取りを神妙な面持ちで見ていた。なによりあの新羅がセルティという人物に、一方ならず心を開いていることが何より不思議で堪らなかった。――新羅は他の人間とは分かり合うことは出来ない、こちら側の人間だと勝手に思い込んでいたからだ。

「……」

 静雄は舌打ちすると、踵を返して学校へと歩みを再開した。気付いたセルティが慌てて新羅の袖を引っ張る。が、セルティに夢中になっている今、新羅にとって他事は全く目に入らなくなっていた。そう――あの男との約束さえも、すっかり頭の片隅に追いやられていた。




***




『来神高校入学式』
 門に立てかけてある看板を一瞥し、静雄は学校敷地内へと歩みを進めた。校舎を取り囲む満開に咲いた桜の木々が、静雄を歓迎している。少し前までは喜んで受け入れていただろうその情景も、今は受け入れがたかった。脳裏には、あのパン屋の、あの人の姿がちらついていた。
(なんで今更あの時のことを――…)
 拳を強く握りしめる。その時だった。風が吹き荒れ、視界が桜の花弁で支配された。右腕で花弁を遮り、視線を上げた。
 偶然だった、頭上を見上げたのは。
 花弁の隙間から、ある人物が見えた。校舎の二階のベランダ。そこにその男は立っていた。不敵な笑みを浮かべ、こちらを見ていた。
 見覚えのある男だった。

「――あいつッ!」

 瞬間、静雄は走り出していた。前を歩く生徒を押しのけ、我武者羅に走る。下履きのまま校舎に入り、すれ違った教師の怒声が聞こえてきた。
 目的の場所に辿り着き、力の限り引き戸を開ける。扉は轟音を立て、彼方へと飛んで行った。

「はあ、はあ、はあ!」

 荒い息そのままに、ベランダへ視線を送った。
 しかしそこには誰も居なかった。

「――くっそ!…くっそくっそくっそぉ!」

 地団太を踏む思いで、室内を歩き周る。とめどなく溢れ出る怒りが、身体を侵食した。飢餓感だけが募っていく。
(見間違えるはずはねぇ!あの男は確かにここに居た!)
 静雄の脳裏には一ヶ月前の記憶が呼び覚まされていた。
 その男は突然静雄の前に現れた。線の細い優男だった。その男は静雄の名前を呼び、静雄の暴力に怯えるどころか愉しんでいた。
 初めてだった。静雄と真っ向から勝負し、余裕の態度を崩さなかった人間は。そしてあそこまで不快だと思う人間は。
 あの時は運悪く仕留めることが出来なかったが、あれ以来、静雄にとってあの男は忘れられない存在となっていた。
(今度会った時は、必ず殺す!)
 そう心に誓ってきた。けれどその後男と会うことはなかった。しかし今、そのチャンスが訪れたのだ。なのに――。
(幻覚だったのか?いやそんな筈はねぇ!)
 室内を歩きまわりながら、静雄は考え込んだ。兎に角あの男をぶっ飛ばしたい、その気持ちだけが先走る。この渦巻く怒りを抑えるすべは、それしかなかった。

「随分苛立ってるみたいだね」

 静雄は即座に振り向いた。この青空から落ちてきたような、憎たらしいほど透き通った声。聞き間違える筈はなかった。
 扉がなくなった入口の前に、その男は立っていた。
 「あの」男だった。
 男は壁に身体を預け、微笑を顔に湛えていた。
 静雄は男に向かって走り出した。右の拳を振りおろす。男は軽く左に交わした。静雄は直ぐに左の拳を振りおろした。男は上体を下げる。
 (――今だ!)
 間髪入れず、静雄は男の頭目掛けて踵落としを落とした。
 (これは避けられねぇ!)
 その時だった。男の袖口が光った瞬間、足に痛みが走ったのは。

「!!」

 男はニヤリと笑みを浮かべ、背後の廊下へと飛びのいた。いつの間に仕込んでいたのか、右手にバタフライナイフを持っている。刃に付着した血をペロリと舐めると、目を細めた。
 静雄は自分の太ももを見た。見事にパックリと切られている。

「俺にも一応学習能力はあるんだよ、平和島静雄くん?」

 語尾を上げたバカにしたような口調に、カッと血が上った。
 静雄は廊下に出た男へ数歩で近づくと、目を血走らせたまま、軍神の力を込め拳を振り下ろした。爆撃音を立て、男の後ろの壁が崩壊する。コンクリートの破片がガラガラと音を立て飛び散った。半径1メートル先までヒビが入っている。
 男はハトが豆鉄砲を食らったような表情になった。

「手前よぉ、一々苛つくんだよぉ」

 ドスの効いた声で静雄は静かに言った。正気は失っていた。ただ怒りという感情が、身体を侵略していた。

「や、やだなあ。本気になりすぎじゃないの?」

 流石の男にも笑みが消え、焦りが浮かぶ。

「殺す!てめえは絶対に殺すッ!生かして帰しはしねぇッ!!」

 静雄から発される殺意に、男は息を呑んだ。珍しく身体が戦慄いているのが分かる。
(これはヤバイなぁ…)