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歪んだ恋の始まり。Ⅱ

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 静雄の手が男の首元に滑り落ちる。男は眉根を歪めるとズボンのポケットから静雄に気づかれないよう携帯を取り出した。素早く操作し、再びズボンの中へ携帯を戻す。
 その数秒後だった。

「お前ら何をしている!」

 それまで静寂を保っていた廊下に、人の声が割り込んできたのは。声は近くの階段の奥から聞こえてきた。
 静雄は突然の乱入者に虚をつかれ、思わず首を絞める手を緩めてしまった。瞬時に男は静雄の腕中から飛び出した。

「手前、また逃げんのか!」

 睨みを効かせる静雄に男は笑みを浮かべると、右手をヒラヒラと振った。

「またね、シズちゃん」
「待ちやがれ!」

 男は踵を返すと走り出した。静雄は追いかけた。が、男が先ほど声が聞こえてきた階段の方へ姿を消した為、途中で諦めた。この惨状を見られ問い詰めらたら面倒だと判断したからだ。
 静雄は舌打ちし、両手をズボンに突っ込んだ。
(胸糞わりぃ…!)
 崩壊している壁を蹴りあげる。たび重なる衝撃に耐えきれなくなった壁は、轟音を立てその場に穴を開けた。戸外と繋がったそこから、風に流れ桜の花弁が舞い込んでくる。

「クソッ!」

 それでも収まらない怒りを抑えながら、静雄はその場を去った。




***




「いやー助かったよ、ドタチン」

 男は顔を現すと、ニコリと笑って向かいに立つ男に言った。ドタチンと呼ばれた男――門田京平は、階段の壁に預けていた上体を正すと、頭に被っている黒のニット帽を強く引っ張り、目元を隠した。

「お前には借りがあるからな、折原」

 折原と名を呼ばれた男――折原臨也はほくそ笑んだ。口元をニヤリと吊り上げる。
 門田は横目で臨也の表情を一瞥すると、鼻を鳴らし、階下へと足を進めた。

「彼、面白いでしょ?」

 はずんだ声で臨也は前を歩く門田へ問いかける。門田は気付かれない程の小さなため息を吐くと、黙した。後ろから心底楽しそうな含み笑いが落ちてくる。
(またこの男の悪い癖が始まったか)
 胸中呟いた。
 この男折原臨也は、一癖も二癖もある男で、関わったら最後、まともに生きていくことは出来ない。味方になるか敵になるか、果ては心身ともに食い尽くされ悲惨な最期を遂げるか、そのどれかの選択肢しかない。そしてその全てを決めるのは、この秋の空のような気まぐれな男の情動だけだ。
 (……まるで神様だな)
 自分で着想し、門田は鼻で笑った。
 そんな男の掌の上で、自分も又、踊らされているのだ。そして今先ほど折原と対峙していた金髪の男もまた、数十人目の犠牲者だった。

「あー楽しいなあ。これからの高校生活、楽しみで仕方ないなぁ」

 ドタチンもそう思うでしょ?声を上ずらせ台詞を吐く臨也に、門田は胸騒ぎを感じた。
(ただならぬ事態にならなければいいが)
 ひっそりと憂慮する。
 そんな門田の心配をよそに、臨也はいつまでも一人笑っていた。




***




「どこに行ってたんだい?急に居なくなったから吃驚仰天したよ」

 静雄が教室に入ると、待ち受けていたのは新羅だった。
(……同じクラスかよ)
 静雄は溜息を吐くと、自分の席へと直行した。新羅は静雄の後をちょこちょこ着いていき、愚痴愚痴と口うるさく話しかけ続けた。静雄は苛立ちそのままに、鞄を机の上へ放り投げると机へ突っ伏した。

「聞いてる?静雄!」

 黙り込んだ静雄に新羅は一つため息を吐く。そして何気なく視線を下ろした。


「!静雄ソレどうしたんだ!?」

 突然声を上げた新羅に、クラス中の視線が集まる。けれど新羅は気にせず静雄のパックリと切られた足をまじまじと見た。鋭利な刃物で切られたのか、薄桃色の肉が見えている。
 新羅は自分の鞄を持ってくると、中から医療バッグを取り出した。消毒液を取り出し、切り口に吹きかける。

「――ッ!」

 痛みに静雄は顔を上げた。新羅は手際良く処置を続けた。その姿は改めて医者の息子なのだと静雄に気付かさせた。
 応急処置が終わり新羅は顔を上げる。

「こんな短時間で何があったのか、ぜひとも聞かせて欲しいね」

 静雄はあからさまに顔を逸らした。話したくないと横顔が語っている。
 新羅は苦笑し、そして内心ほっと溜息を吐いた。
(この様子だと、彼と会ったのかな)
 すっかりある男との約束を忘れセルティに夢中になってしまっていたことに焦りを感じていた新羅だったが、どうやら杞人天憂だったようで安堵した。
 新羅は医療バックを鞄に仕舞い込むと、静雄に向かって言った。

「この後君に会わせたい人物がいるんだ。もちろん会ってくれるよね?」

 静雄は新羅を横目で軽く見ると、再び顔を逸らした。そんなことに興味がないといった感じだった。それよりも今、静雄にとって一番重要なのは、いつあの男を殺ることができるか、だった。頭の中をあの男、折原臨也が支配していた。臨也の嘲笑う表情が、頭にこびり付いて離れなかった。
(――殺す。次は絶対殺す。俺の命をかけてでも!)
 静雄は再び深く心に誓った。
 そしてその数時間後、2人は再会することとなる。



 走り出した時計の歯車は止まらない。
 狂ったように時は落ちていく。

 これは純粋な恋の物語。
 歪んだ恋の物語。