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会縁雨縁

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叫び声が聞こえてくる。作戦が始まった。
一つの城が落ちて行くのを彼はぼんやりと見ていた。

「・・・卿かね、魔王お抱えの妖術師というのは」

そう言われて“かれ”はゆっくりと振り返った。目の中に感情は無い。
そこにいたのは白と黒の戦装束をまとった中年の男性だった。誰だろう、と“かれ”は
頭の中の人物目録をぱらぱらめくる。・・・わからん。
そばにいた兵士にでも聞こうかとそっちを見れば、そいつはとっくの昔に斬り殺されていた。
どうやらさっき、雨が降りだしたのに驚いている隙を狙って殺されたらしい。顔に驚きの表情を浮かべている。そこでようやく、“かれ”は男が血まみれの両刃の剣を持っていることに気がついた。
他に武器になりそうなものも無かったので、“かれ”は扇を構えて相手のが来るのを待った。鉄製の骨なので刃は防げるだろうが、時間稼ぎくらいにしかならないだろうな、と思う。
驚いたことに男は笑って剣を鞘に納めた。

「おやおや、私は卿と戦うつもりは無いのだよ」
「ならば、なぜ兵を斬り殺した?」
「卿とゆっくり話をするのに邪魔だったからね。・・・見事なものだ、難攻不落と名高い
あの城が、みるみるうちに落ちて行く。私はあの城に援軍として来たのだが、どうやら
無駄足だった様だな。卿がこの嵐にもかかわらず城に攻め入らせたのは、この湿気で
あの城にある最新兵器が動かなくなることを知っていたからかね」

その通りである。あの城にある兵器は南蛮渡来の石火矢だが、わずかな湿気ならば
ともかく、すさまじい豪雨となると火種がしけてしまって動かない。もし石火矢が動けるとなると不利なのはこちら側だったが、そのときはそのときでまた別の作戦を“かれ”は用意していた。忍びを使ってあの城の主が、手に入れたばかりの最新兵器の致命的な弱点をまだ知らないということを知ると、後は天候と地形、城の構造を調べて作戦を立てれば良かった。
ざあざあと音を立てて雨は容赦なく地面に降り注いだ。どうやらあの城の誰かが、愚かにも
石火矢を動かそうと頑張ったらしい。派手な爆発音がして城の一角から煙が上がった。火が一瞬見えたが、雨によってみるみるうちに消えて行く。

「苛烈苛烈。卿には良いものを見せてもらったな」
「何を言っているんだ。あの城が落ちればお前が組する軍は負けたも同然だぞ」

この戦国の世は弱肉強食だ。負ければ喰われるし、勝っても油断はならない。命が助かるのはまだ良い方で、下手すればとてつもなく残酷なやり方で処刑されるのは間違いない。

「ふふ。私は信長公の元に降りようと思っているのでね。かまわないよ」
「なんだってェ?」

この男は何を言うんだと“かれ”は驚いた。同盟していた大名をあっさり裏切り、被害が及ばぬうちに敵の元へ下るという。戦国大名に情けは無用だが、ここまで淡々としているといっそ危険に思えてくる。となると自分の雇い主はまた火種を背負い込むことになるのかと“かれ”は自分の主を気の毒に思った。

「卿は何が欲しい?見たところ武器を持たず、戦装束のだけの様だが、命は惜しくないのかね」
「惜しくはないな。お前がいま斬り殺した兵士は、もし作戦が失敗して信忠様に何かあったら、私を殺す様にとの命令を信忠様から受けていたんだ。・・・あの方は城攻めくらい一人でできるのに、お父上が私を付けたことにいらついているのさ。そんなにも自分は信用無いのかとな」
「信長公が卿を付けたのは、確実にあの城を落としたかったからだろう。現に卿は、あの城を含めてもう四つもの城を落としている。どれも難攻不落との評判が名高い城ばかりだ」
「誉めても何も出ないぞ」
「それなのに卿は、信長公の集めた書物の管理をして平時は過ごしているのだろう?
卿は欲しくないのかね?地位や富が」
「欲しいと思ったことは無い。・・・モノに執着するなんて面倒だからな」

本は別だが、と“かれ”は付け加えた。

「・・・ふふふ、卿が執着するのは“情報”か・・・しかも、それは卿が本当に欲しいものではないな。
・・・次に会う時を楽しみにしているよ」

破裂音とともにもうもうと煙が上がり____________次の瞬間、その男はどこにもいなかった。


「・・・もう少し、話をしてみたかったな」

“かれ”はそう呟いた。心の底に生まれたこの感情は、疑問に包まれていて正体はさっぱり分からないが、それでも自分が初めて持つ“感情”には違いなかった。
城で勝ちどきの声がする。ようやく完璧に落ちたようだ。


そういえばお互い名前を名乗りあっていない。
“かれ”がそれに気づいたのは次に信長に謁見したとき、彼の傍らにあの白と黒の男を発見し、そして男の名が“松永弾正久秀”というのだと知った時のことである。


作品名:会縁雨縁 作家名:taikoyaki