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ヨークアンドランカスター

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 上方から遠く、位置で言うならば東北に在る土地を治めているが為に田舎大将と揶揄されることは多々あるが、その名を冠するには余りある程の趣味を持っていると自讃出来る。
 一概にそういう者を風雅人と世は称す。
 その一人として在る伊達政宗は、囲碁に将棋、野遊びや狩り、果ては歌詠み能に香合わせ、どれも上方に住まう武将に引けを取ることはない。
 確かに政宗には見るもの触れるもの、世に溢れる目新しいものには直ぐに手を出す傾向があった。情勢を見極めるアンテナを広げることは重要だと、また城主に足る教養を身に付けるべく教育をされていた部分もあろう。しかしどれに於いても空気を吸うが如く自然に吸収していただけだ。結果がそれに伴ったに過ぎない。
 そんな政宗の興味を惹いているのが、風呂と香。
 元々湯に浸かる行為は嫌いではない。むしろ好んで温泉などへと出向くきらいがある。今回はその中でも風呂に香料を混ぜるといった行為を楽しんでいる。ここでいわれている香料とは今で言う入浴剤の様なものだ。
 昼日中から湯殿には大量の水が張られ、風呂番によって適温へと沸かされている。
 政務によって作られた身体の凝りを解そうと、政宗は廊下を進んでいた。手に有るのは、先日城に訪れた行商から買い付けた南蛮の粉。薄く茶がかった色をしたそれは薔薇を乾燥させ粉末状にしたものだという。鼻に近付けると微かに馨るそれに顔を綻ばせた。
 湯殿に着き早速湯に放る。じわりと色が染み出たと思うと少しずつ馨りだす。香と違い温めても微かな匂いなのだなと思いつつ、自らも身体を沈めた。寧ろ花弁をそのまま浸すのも面白いかもしれない。今度はそれを試してみようと思案し目を瞑る。
 疲労した身体を優しく湯が包み、意図せず感嘆の声が上がる。
「っあー……It’s paradise……」
 固まった身体を解すように大きく伸びをする。後は酒があれば完璧だな。以前持ち込んだ際には少々呑み過ぎたか、湯船で倒れてしまいその後布団の中で小十郎から散々の苦言を頂戴することと成った。そんな前例が有るので程ほどにしておこうとは思っている。
「政宗様」
「ななななんだっ小十郎!?」
 そうぼんやり思案しているところを急に後ろから声を掛けられ、驚いた身体は湯船を滑り、突っ伏した湯を盛大に飲み込んだ。
 ゲホゲホと噎せた咳をしていると、怪訝そうに小十郎が問いかける。
「……どうなされましたか」
「お、お前がいきなり入ってくるからだろ!?」
「小十郎は何度も声をお掛けいたしましたよ」
「――Yeah, で、何の用だ」
 ばつの悪そい顔をしつつ濡れた髪をかき上げ、小十郎に先を促す。
「真田幸村が来ております。お会いになりますか」
「真田幸村が? Appointmentも無しにとは、はた迷惑な野郎だぜ」
 呆れつつもどこか嬉しそうな声音を奏でる。一つ瞬きをし、いいぜ、会おう。そう小十郎に言い放った。では客間に通しましょうと湯殿を辞退する小十郎に政宗は付け加えた。
「いや、此処へ連れて来い」
 歳に似合わず子供の様な笑顔を見せる政宗を見、またよからぬ事を考えているなと小十郎は小さく溜息を吐いた。