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ヨークアンドランカスター

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 チャプン。水を切る音が小さく響く。
 足を伸ばし悠々と浸かっている政宗のその先で、幸村は所在なさげに小さく纏まっていた。
「Hey, 真田幸村。何でそんなに小さくなってるんだよ。折角の風呂だぜ? もっと楽しめよ」
「そ、そうは申されましても……」
 そわそわと落ち着き無く幸村は応える。視線は空をさ迷い、顔半分まで湯につかったまま身動きが取れない。
 訪問していきなり風呂に通されるなどと、普通なら有り得ないことだ。否、聞いたことが無い。しかも無理矢理入らされてから直ぐに、汚ねぇなと政宗の手自ら髪やら身体やらを磨かれた。同じ湯を使うことすら前例を見ない事態であるのに、将軍手ずからなどと下手をしたら首が飛びかねない。それ以外にも思うところあって、何度も止めてくれと顔を赤くしながら幸村は懇願したが、当の政宗は偶にはこんな趣向もいいじゃねぇかと意にも介さずただ楽しんでいた風体だ。
 幸村と違い元々何でも器用にこなす政宗のことだ、身の回りの事も自分でやってしまうきらいがあるのだろう。それ故に手慣れ、上に立つもの故の面倒見が出ているのかもしれない。
 最後の方には全てを諦め大人しく政宗のやる事を享受する様は、さながら水を嫌う犬が身体を洗われることに抵抗をし尽くした末の諦めの態度そのままだった。
 湯に浸かり、政宗に言われた通りに少し落ち着いてみれば、微かに馨る変わった匂いが幸村の鼻を掠める。
「これは……?」
「気が付いたか」
「ええ、今までに嗅いだことのない匂いにござる」
 何か不思議な香りでありますな。先程の緊張もどこへやら、顔を緩め目を瞑る幸村の姿に満足そうに口を開くは政宗である。
「rose, 薔薇(そうび)だよ。日の本にも昔からあるけどな、折角だから南蛮の物を取り寄せてみた。ヨークアンドランカスターってやつらしい」
「よーくあんど……?」
「ああ、白地に薄紅が刺す面白い華だと聞く。今度は苗を輸入してみたいと思ってる」
 遠く海の向こうで起こった争いが由来だというその名前。時や場所が違えど人間やることは同じだなと政宗は苦笑する。なんと罪深い生物か。そしてとても軽い命である。しかしそれがこの様なものを生み出すのだから、運命はどう転ぶか分からないのがまた面白いとも思う。
 そう楽しそうに語る政宗の肌は、長く湯に浸かった為か薄く紅に染まり始めていた。それをじっと見詰めていた幸村がポツリと呟く。
「……まるで政宗殿のようですなぁ」
 一瞬の沈黙の後、どういう意味だと低く問う。発言した幸村本人はハッとした顔をしたかと思うと瞬時に頬を染め目を伏せ押し黙った。その態度に少し政宗の機嫌が悪くなる。
「人が聞いてるのに何だその態度」
「ご、誤解にござる!! 某はただ政宗殿の白い肌が薄紅に色づいていくのを見てそのよーくあんど何とかと申す花もその様な色合いなのでしょうなと思っただけにござりまして、決して、決して政宗殿の機嫌を損ねようなどとは露ほども考えては……む、むしろ某はその様が美しいと……!」
 傍目からでもそれが分かる慌て振りに政宗の怒りは薄れ変わり呆れた。千切れ飛ぶのではないかと思える程に勢いよく左右に振られるのは首と顔の前に翳した両手で、その動きに跳ね上がる水飛沫が政宗の顔に掛かる。それを手で払い心底呆れた様な声音で応える。
「風呂で身体が温まれば当然だろうが。そういうのは女に言ってやるんだな」
「お、女子になどと、破廉恥な!!」
「今のアンタが一番破廉恥だろ……」
 政宗は大きく溜息を吐き会話を終了させる。淵に頭を凭れかかると湯に身を任せ目を閉じた。
 鳥の鳴き声や風の音に交じり遠く聞こえてくる喧噪は、人々が無事に生活を営んでいる現われだ。いつもは城下を見渡せる丘の先に赴き、所々に立ち上る飯炊きの煙を眺め過ごしていた。こうして落ち着く場所が増えたことは正直嬉しいことでもあった。
 政宗が押し黙ってしまったことにより静けさを増した湯殿では、水を切る小さな音しかしない。
「――で、アンタは一体何してるんだ? 真田幸村」
 突如開かれた目に射抜かれ幸村の動きが止まる。先程までは対角線上に居た筈の幸村が、いつの間にか政宗の目の前まで移動していたのだ。
「あの、これは、その……」
 言い淀み左右に泳いでいた目が、意を決した様に政宗へと真っ直ぐ向けられる。
「某、以前から政宗殿に懸想をしておりました……!! こ、このようにいいいきなりの裸の付き合いなどと某の滾る心よもや身体が抑えきれませぬうううううう!!」
「Haaaaaaaaaaaaaaaaaa!?」
 電光石火の告白に面を喰らったのも束の間、そのまま縋り付いてこようとする幸村を力任せに引き剥がす。尚も近づく幸村の様相に恐ろしさを覚え鉄拳を加え始めるも、日々教育的指導である鉄拳を信玄より食らっている幸村にそれは効きもしなかった。
「バカかテメェは! 盛ってんじゃねぇ!! ヒッ、その当たってるモノを如何にかしやがれ気色悪い!!」
「ま、政宗殿のせいでござるうおおおおおおお!! 某、当ててんでござるよ!!」
「Kick your ass……今すぐ此処で首を取られたいようだな真田幸村ァ!!」
 普段余り見せることの無い慌てた様を政宗は取り繕うことも出来ず幸村の手から逃げる。加えて大の大人が力任せに繰り返す攻防でばしゃばしゃと湯が溢れていく。その様子を視界にとらえ、ふっと頭が冷静になる。同時に一体何をやっているのかという怒りを覚えた政宗は、瞬間幸村の頬を引っ叩いていた。 肌を打つ音が大きく響く。
「……A-hole, 糞ったれが。テメーはずっとそうしてろ」
 呆然とする幸村を余所に、気分を害したと言い捨て政宗は湯殿を上がる。その政宗の姿を見送りながら、一人残された幸村は、少しずつ冷え始めていた湯にズルズルと沈んだ。
「…痛い……」
 叩かれた頬を擦りながら小さく呟いた。