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【Secretシリーズ 6】 Love&Peace

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その日ハリーは重いからだをひきずるようにして、やっと隠れ家に戻ってきた。

もう時刻は深夜をとっくに過ぎている。
眠っている仲間たちを起こさないように、真っ暗な家の中を杖に灯した明かりだけで、静かに二階へと登っていく。

『ふたりの愛の巣』だと勝手に命名して、ドラコにいつもその名前で呼ぶと怒られてしまう、二人部屋のドアを開けた。

もう深夜だし、彼は寝ているにちがいないと思っていたから、予想に反して部屋に灯りがともっているのに少し驚き、ベッドで本を読んでいるドラコの姿が視界に入ってきて、ハリーは口元を緩める。

相手に気遣って、ひっそりと物音を立てずに部屋に入ったので、ハリーが戻ってきたことにドラコは気づいていない。
リラックスし、ゆったりと手足を伸ばしてベッドに横たわっていた。

ドラコの整った横顔はベッドサイドのほのかなランプに照らされ、本に視線を落としたまま静かに微笑んでいる。

うつむいたままの長めのサラサラとしたプラチナブロンド。
細身だけど手足が長い優美な姿。
少し毛先が伸びた前髪に隠された、色の薄いブルーグレーの涼やかできついまなざしは、ハリーが何よりも愛しているものだ。

出合ったときから射るような視線を向けられ、にらみつけられて、毒舌を吐かれた。
いつもいがみ合い、相容れず、顔が合えば口喧嘩ばかりをしていた、犬猿の仲のふたり。
そのドラコが今、自分の目の前にいて、当たり前のようにくつろいでいる姿を見るだけでハリーは、胸がいっぱいになった。

『部屋にドラコがいる』

ただそれだけで、『自分の帰るべき家に帰ってきたんだ』という安堵感が、じんわりと幸福感を伴ってハリーのからだを包んだ。

それは涙が出そうなほど、心からハリーが求めていたものだった。

しかし、ふたりでいっしょに暮らしだしてもう1年が経つというのに、ハリーは未だにこの状況に慣れなくて、ドラコを目の前にすると、緊張して胸が高まって、落ち着きがなくなり、妙にそわそわてしまう。

同居して1年は本当だが、ふたりでいっしょに過ごした時間は、それよりかなり短いものだった。

オーラーとしての彼の日々は、過酷を極めている。
神出鬼没に現れるデスイーターを追って、ハリーは各地を点々としていた。

戦いに明け暮れ、予断を許さない緊張の連続だ。
少しの油断が命を落とすかもしれないギリギリの攻防にかなりの心労が伴い、いつも胃がキリキリするようなストレスにさらされている。

それでもやはり魔力が強い彼は、どうしても敵に対して一番の矢面に立たなければならなかった。
それに『頼りにされている自分』というものが、実はハリーは好きだった。

どんな苦痛が伴っても、ハリーはいつも率先して仕事を優先していたから、隠れ家に帰って来れるのは、月に半分もあればいいほうだ。
あとは空き家に潜り込んだり、マントに包まって野営テントの日々だった。

今回はやっと二週間ぶりに追っていた事件が一区切りついたので、こうして隠れ家に戻ってくることが出来た。
本当ならばこんな深夜に急いで帰宅しなくても、近場の宿で疲れを癒すために一泊して翌日に帰ればいいものを、ハリーはあえてそうしたことはしない。

仕事さえ片付ければ、ドラコがいるこの部屋に少しでも早く帰ってきたかったからだ。
一分でも一秒でもドラコの傍に居たい。
ふたりで笑って、食事して、たわいのない話がしたかった。

だから深夜の見通しが悪く、事故も多い危険な飛行移動でも帰宅を急いだ。
疲れてヘトヘトのはずなのにドラコを見ただけで、そんなことは呆気なく一気に吹き飛んでしまう。

自分はもう本当に、好きすぎてどうにしかなってしまうんじゃないだろうかと思うほど、ドラコのことが大好きだった。

ハリーは嬉しくて、―――本当に嬉しくてたまらなくなり、我慢できずに、久しぶりの恋人との再会に焦って、ダッと勢いのままジャンプしてベッドの上へと飛び込んだ。
「ドラコーっ!!会いたかったよっ!」
ベッドがハリーの重みで軋みドサリと音を立ててドラコの横に着地すると、ひしと相手を抱きしめて、そのほほにほほを摺り寄せてくる。

「―――いっ、いったい何?何なんだ?!!」
後先考えないハリーのいきなりのダイビングアタックに、ドラコはまるでトランポリンの上にいるように、上下にバウンドさせてからだを浮かせた。

あまりにも突然すぎる出来事に、今自分に何が起こったのかすら分からず、ドラコは驚き慌てたようにからだをすくませ、少し震えてぎゅっと目をつぶる。
怖いときは身構えて目を閉じてしまう癖は、子どものときから抜けないものだ。

「本当にドラコは臆病者だね。でもそこがとてもかわいいけど……」
ドラコの幼い仕草にクスクス笑って、彼の耳元にささやいた。
「―――ただいま、ドラコ」
ハリー独特の低くて少し響く声にドラコもやっと視線を上に向けると、見慣れた黒髪に縁取られた、人懐っこい満面の笑みがそこにあった。

「………ああ、ハリー。こんな深夜に驚かさないでくれ。誰かと思ったぞ」
「えーっ、誰かって、僕以外に誰がこの部屋に入り込むっていうんだよ。それとも夜寂しくて、誰かを招き入れているんじゃないよね?」
「時々はそういうこともしているけど、みんなには秘密だぞ」
悪戯っぽくドラコはフフフと笑う。

「……ょっ、ちょっと待ってくれよ、ドラコ!僕は冗談でそう言っただけで、まさか本当だなんてっ!そんなーっ!!」
ハリーは悲鳴のような声を上げた。

くすくすと笑いながら、目の前にいるハリーに腕を伸ばし抱きしめ返す。
「ハーマイオニーにはナイショにしてくれ。彼女はああ見えても、とても嫉妬深いからな。あれは僕たちだけの秘密だから……」
抱きつかれてうっとりとしながら、それでも、気が気じゃないハリーの様子が、ドラコにはおかしくてしょうがない。

「オイオイ、笑うか困るか、どっちかにしたらどうだ、ハリー?なに心配するな。僕の相手は彼女のクルックシャンクスだ。気難しいものは、やはり気難しいものと、とても気が合うみたいで、ときどき遊びに来てくれるよ。長い尻尾を振りながら、入ってくるんだ」
「そっ、そうなんだ。あー、よかったぁー……」
ハリーが心底ほっとした顔になるのを見て、ドラコは少し機嫌が悪くなった。

「なんだよ、その顔は。お前は僕のことを信じられないのか?」
むっとした顔で相手を、少し冗談っぽくにらみつける。
「――信じられないっていうか、キミが魅力的すぎるのが悪いのかな?」
恥ずかしいセリフをぬけぬけと言って、唇にふわりとキスをするとドラコは、それを受けてきつい瞳を緩るめて、ゆっくりと微笑んだ。

「―――お帰り、ハリー」
その心からの言葉に、じんと胸の奥が熱くなる。

相手の背中に腕を回し抱きあったたままで、互いの無事を確かめるための、帰宅のキスを何度もする。
「留守のあいだ、変わりなかった?」
ほほにキス。

「何もないさ」
「からだは壊さなかった?」
まぶたのキス。

「少し前に軽い風邪を引いたぐらいだ。すぐ治ったから心配するな」
「心配するよ。今はもういいの?」
額にキスを。

「ああ、ハーマイオニーの調合してくれる薬を飲んだからな。すぐ治ったよ」