大きな姫と小さな王子(仮)
- 2 -
至って真面目な理由でロイを姫として公表した国王夫妻であったが、大層な美丈夫に成長した我が子を見るに付け不憫を感じない訳ではなかった。
王宮の奥で隠れる様に過ごす日々、姫としてだけでなく身を守る為の護身術と言うには些か実戦的過ぎる武術を学ばせ、帝王学も身に付けさせたのは、偏に何かの折には次代の王として民衆の前に立つ日も来るのではないかという希望の為。
幽閉されているが如く暮らすロイのストレス発散に役立った武術指導は、彼に遠目にも姫とは言い辛い、素晴らしく均整の取れた筋肉を与えてしまったのだ。
その点、案外どこか放任主義で茫洋としたキングは息子の心の負荷をどうにか軽くしてやろうと、今年18になった息子へ気楽に一つの道を提示した。
「姫、お前表に出てみるかい?…まあ姫としての公務はある程度して貰わないといけないんだがね、王妃の旧姓のマスタングでも使って、一人の男として。」
「父上…。」
願っても無い申し出にロイは希望を見出し、そして優雅な仕草でドレスの裾を少し上げ礼の型を取った。
「願っても無いお話です。ならば…。」
「ふむ。」
男らしく締まった精悍な頬を引き締め、ただ王を見る一直線な瞳に、キングもまた背筋を正し、予てから思い描いていた夢を口にする。
「私はアメストリス国軍の軍人になりたい。国家錬金術師の資格試験と、士官学校に入学させて頂けませんか?」
迷いなど一切なく紡ぎ出されたその望みは、姫という立場のロイには最も許されない場所で。
キングは困ったように口元の黒い髭を指先で撫でた。
「姫…極端すぎやしないかね?お前が戦争に駆り出されてしまったら誰がこの国の跡を継ぐんだ…。」
別段驚いた風でも無く、声にも深刻さは無い。
いつもと変わらない父王の様子に逆に驚きはしたが、それはそれと話を進める。
「それでも私は…約束を守りたいんです。」
何かを思い出したのか、優しく目を細め笑みを浮かべた青年に、キングは黙って頷くと長いマントを翻して玉座の間を辞したのだった。
本当は誰と、いつしたのかさえ記憶にないのだけれど、鮮烈に心に刻まれたその『約束』を守る為に。
作品名:大きな姫と小さな王子(仮) 作家名:pana