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梅雨の晴れ間に

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なぜ、あんなにも怒ったのか、全く原因が分からなかったけど、翌朝になって、彼が怒った意味をやっと理解した。


からだにぴったりと張り付いた制服を、ドラコは窮屈そうに着ていたからだ。
多分、一回りは小さくなっているに違いない。

「君のお節介のせいで、こうなってしまったじゃないか。いったいどうしてくれるんだ!」
ぷりぷりと小声で文句を言った。

ここは食堂から廊下へと続く階段のすみの、タペストリーがかかっている裏側だ。
僕たちの近くを、何人もの生徒が大きな声を上げて、元気に通り過ぎているので、その中にこっそりと二人して隠れているのは、なんだか、ちょっとしたスリル感があった。

肩がぶつかりそうなほど身近にいるドラコは、ネクタイをするのも、少し苦しそうだ。
「ぴったりすぎて、肌に貼りついているから、空気も入らないんだぞ。真夏も近いっていうのに、蒸れて暑いし、動きにくいし、腰も肩もピチピチで、気をつけないと破れそうだ。──ああ、まったく!」
イライラと舌打ちもをする。

「君のせいだ」と何度も文句を言った。
僕は「ごめんね」と素直に謝る。
ドラコは何ひとつ反論もせずに、真摯な態度で頭を下げる僕の態度に、少しだけ機嫌を直したようだ。

「──まあ、別にいい。一週間だけ我慢したら、また新しい制服が家から届くはずだから」
「じゃあ、それまでこの制服を?」
「仕方ないけどな」
僕がじっと相手の姿を見つめ続けているので、ドラコは何か別の意味と勘違いしたらしい。

ドラコはゴホン!と、取ってつけたような咳をして、僕の肩に両手を置いた。
「そんなに気にするな、ハリー。失敗は別にしても、君の親切な気持ちが嬉しかったのは、本当だからな」
柄にもなく、僕を元気付けるように慰めてくれる。

僕が笑うと、相手も同じ笑みが返ってきた。

いつものように、ドラコの背中に腕を伸ばすと、ぎゅっと抱きしめたまま、形のいい相手の唇に軽めのキスをする。
寮が別々の僕たちはこうして、どこかで落ち合い、毎朝キスをすることが、今では当たり前の慣習になっていた。

──これは、ふたりだけの秘密だ。

ドラコは自分から身を離すと、僕の手を一度ギュッと握ったまま、「また、あとで」とかすれた声で耳元で囁くと、タペストリーの影から出ていく。

さわやかな初夏の風の中、食堂へ向かうドラコを、僕はうっとりと見送った。



彼の後ろ姿はいつもより優美で、ぴったりとした制服に包まれて、細身でバランスのいい体のラインを強調している。
歩き去る姿に見惚れていたとき、ハッとあるひらめきが頭に浮かんで顔を上げた。

ドラコの新しい制服が届く一週間のあいだ、ちょっとした悪戯をしてみようかな?

彼の窮屈な制服の上から、刺激したらきっと、ドラコは溜まらないだろうな。
授業中とかに。

ああ、それならスネイプ教授のときがいいだろう。
ドラコはあいつのことを尊敬しているようだし。

隣に座って手を伸ばして、ズボンの上から何度も撫でてあげよう。
振り払う手をうまくかわしてボタンを開けて、ジッパーを降ろして刺激するのもいいな。

──で、途中でやめる。

ドラコは半勃ちしたものをどうやって、自分のぴったりとしたズボンに戻すつもりなんだろう?
きっともう中に収まらないよ。

そうして「バカ」とか僕に悪態をついているけど、もうあと5分で授業が終わりそうになって、きっとドラコは焦るに決まっている。

「ハリー……」とか上目遣いで、悔しそうににらんできたりして──
そしたら僕が、ドラコのそばにもっと近寄って……
手を相手の机の下に伸ばして……

―――それから……


僕は自分の素晴らしい思いつきに頷き、ニヤニヤとした黒い笑みを噛み殺すと、タペストリーから抜け出した。

そうして、邪気な仮面を被ると、ロンやハーマイオニーが待っている食堂へと、鼻歌を歌いながら、ゆっくりと歩いていったのだった。


                         ■END■

作品名:梅雨の晴れ間に 作家名:sabure