アムネジア
それは、ある冬の日の事。
もうそろそろ昼食時と言う頃、フュリーが息を切らして慌ただしく執務室に駆け込んで来た。
「たっ、大変です大佐!」
「どうしたのだ騒々しい。少しは落ち着きたまえ。」
書類に視線を落としたたまま、口を開く。
「一体どうしたと言うのだ?」
フュリーはぜえぜえと荒い息をしながら、言葉を紡いだ。
「エ…エドワードくんが…」
私は紡がれた鋼のの名に、思わず顔を上げた。
「鋼のが、どうかしたのかね?」
どうにか呼吸を整えたフュリーは、慌てた様子で口を開いた。
「ア…アームストロング少佐の下敷きになって意識不明で病院に…っ…」
何だと?!
「どう言う事だ?!」
「エドワードくん、アルフォンスくんと雪かきしてたんです…そしたらたまたま
ヒューズ中佐とアームストロング少佐が来て、雪かきをしているエドワードくん達を
観てアームストロング少佐が自分も手伝うと言って屋根に上ったんです…そこまでは
良かったんですけど、アームストロング少佐、足を滑らせて屋根から落ちてしまって…
運悪くエドワードくんの上に…」
ちょっと待て!そんな状況でアームストロング少佐の下敷きなんかになったら只では
済まないぞ?!
ましてや鋼のなんか潰れてしまう。
私は立上がり、外套を羽織った。
「病院に行くぞ。」
「はっ、はい!」
そうして私はフュリーと共に、病院へ向かった。
階段を上がり、廊下を曲がると、十数メートル先に数人の軍部の人間が居るのが見えた。
一目でそこが鋼のの病室だと、把握する。
ふと、その中に居たヒューズが私に気付き、軽く手を上げた。
「よぉロイ。」
いつものように軽い口調で。
「鋼のは?」
「頭を打ったらしくてな。まだ目を醒まさない。」
頭か…何事も無ければいいのだが…
「申し訳ありません大佐ー!」
突然目の前に涙塗れのアームストロングが現れ、声を上げた。
「まさか下に鋼の錬金術師が居るとは思わずぅぅぅぅっっ!」
ぶわっ、と、アームストロングの目から更に涙が溢れる。
「…あぁ…気にするな少佐…済んでしまったものは仕方がない…」
号泣するアームストロングを制し、何とかその場を回避する。
どうも彼は心臓に悪い。
「弟の姿が見えないようだが…」
辺りを見回しそう口を開くと、ハボックが「あぁ、中ですよ」と病室を指した。
丁度、その時。
「兄さん!!」
病室の中から弟の方の声が上がった。
廊下に居た全ての者達が弾かれたように病室へなだれ込む。
「エド!」
「大丈夫か?!」
「無事か、エド!」
「エドワードくん!」
「エドワード・エルリック!」
それぞれが口々に鋼のの名を呼びながら、鋼のの回りに詰め掛ける。
鋼のは、ベッドの上に体を起こし、きょとんとしたように私達を見回した。
「え…と…」
皆の勢いに押されたように小さく口を開いた鋼のは、ゆっくりと言葉を紡いだ。
「あの…皆さん…どなたですか…?」
途端に皆が凍り付き、水を打ったようにその場が静まり返った。
「またまたぁ。騙そうったってそうは行かねぇぜ?」
ハボックが鋼のの頭を小突きながら、言った。
「え・・・いや・・・あの・・・ほんとに解んないんだけど・・・」
心底困ったように、おずおずと紡がれた言葉に、どうやら本当に鋼のに何らかの
歪みが生じたのだと、その場に居た者全員が理解した。
もうそろそろ昼食時と言う頃、フュリーが息を切らして慌ただしく執務室に駆け込んで来た。
「たっ、大変です大佐!」
「どうしたのだ騒々しい。少しは落ち着きたまえ。」
書類に視線を落としたたまま、口を開く。
「一体どうしたと言うのだ?」
フュリーはぜえぜえと荒い息をしながら、言葉を紡いだ。
「エ…エドワードくんが…」
私は紡がれた鋼のの名に、思わず顔を上げた。
「鋼のが、どうかしたのかね?」
どうにか呼吸を整えたフュリーは、慌てた様子で口を開いた。
「ア…アームストロング少佐の下敷きになって意識不明で病院に…っ…」
何だと?!
「どう言う事だ?!」
「エドワードくん、アルフォンスくんと雪かきしてたんです…そしたらたまたま
ヒューズ中佐とアームストロング少佐が来て、雪かきをしているエドワードくん達を
観てアームストロング少佐が自分も手伝うと言って屋根に上ったんです…そこまでは
良かったんですけど、アームストロング少佐、足を滑らせて屋根から落ちてしまって…
運悪くエドワードくんの上に…」
ちょっと待て!そんな状況でアームストロング少佐の下敷きなんかになったら只では
済まないぞ?!
ましてや鋼のなんか潰れてしまう。
私は立上がり、外套を羽織った。
「病院に行くぞ。」
「はっ、はい!」
そうして私はフュリーと共に、病院へ向かった。
階段を上がり、廊下を曲がると、十数メートル先に数人の軍部の人間が居るのが見えた。
一目でそこが鋼のの病室だと、把握する。
ふと、その中に居たヒューズが私に気付き、軽く手を上げた。
「よぉロイ。」
いつものように軽い口調で。
「鋼のは?」
「頭を打ったらしくてな。まだ目を醒まさない。」
頭か…何事も無ければいいのだが…
「申し訳ありません大佐ー!」
突然目の前に涙塗れのアームストロングが現れ、声を上げた。
「まさか下に鋼の錬金術師が居るとは思わずぅぅぅぅっっ!」
ぶわっ、と、アームストロングの目から更に涙が溢れる。
「…あぁ…気にするな少佐…済んでしまったものは仕方がない…」
号泣するアームストロングを制し、何とかその場を回避する。
どうも彼は心臓に悪い。
「弟の姿が見えないようだが…」
辺りを見回しそう口を開くと、ハボックが「あぁ、中ですよ」と病室を指した。
丁度、その時。
「兄さん!!」
病室の中から弟の方の声が上がった。
廊下に居た全ての者達が弾かれたように病室へなだれ込む。
「エド!」
「大丈夫か?!」
「無事か、エド!」
「エドワードくん!」
「エドワード・エルリック!」
それぞれが口々に鋼のの名を呼びながら、鋼のの回りに詰め掛ける。
鋼のは、ベッドの上に体を起こし、きょとんとしたように私達を見回した。
「え…と…」
皆の勢いに押されたように小さく口を開いた鋼のは、ゆっくりと言葉を紡いだ。
「あの…皆さん…どなたですか…?」
途端に皆が凍り付き、水を打ったようにその場が静まり返った。
「またまたぁ。騙そうったってそうは行かねぇぜ?」
ハボックが鋼のの頭を小突きながら、言った。
「え・・・いや・・・あの・・・ほんとに解んないんだけど・・・」
心底困ったように、おずおずと紡がれた言葉に、どうやら本当に鋼のに何らかの
歪みが生じたのだと、その場に居た者全員が理解した。