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アムネジア

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「一時的な記憶障害でしょう。」


鋼のの様子を観た医師が、言った。


「治るんですよね?ね?ね?」


泣きそうな声で弟が声を上げる。


「ええ、一時的な物ですから…」

「良かったぁぁぁ…」


がばっ、と鋼のを抱き締める弟に軽く嫉妬を覚え、鋼のの顔を観る。

鋼のは自分を抱き締める弟に少々怯えたように、身を堅くしていた。


「しかしまぁ、他に怪我が無くて良かったじゃねぇか。」


ぽんぽんと、鋼のの肩を叩き、言ったのはヒューズ。


「なぁに、心配すんなアル。記憶なんざすぐに戻るさ。なぁロイ?」


そう続け、私を観てヒューズは片目を瞑って見せた。

心配させないよう、配慮しろと言うように。


「ああ。鋼のの事だ。すぐに元通りになるさ。」


自分に言い聞かせているようだ、と、言葉を紡ぎながら思った。


「きっと一晩眠れば思い出すさ。」


そうしてその日は、鋼のを安静にさせてやろうと言う事になり、弟を病室に残し
早々に病院を後にした。




すぐに鋼のの記憶は戻るだろう。

皆がそう、思っていた。

が。

一週間経っても、鋼のの記憶は戻らなかった。

他に外傷は無かったので、取りあえず退院して慣れ親しんだ場所で過ごした方が
良いだろうと言う事になり、鋼のの身柄は東方司令部預かりとなった。


「しばらくこっちに居るから俺が面倒観てやるよ。」


いやそれなら私が鋼のを預かると言いかけたが、私が口を開く前に「アルが離れねぇ
だろうから俺が預かる方が都合がいいだろう」と言われてしまい、私は頷くしか
無くなってしまった。


「心配しなくても日中は司令部に居させてやるから。」


そう言って、ヒューズはひらひらと手を振った。

次の日から、鋼のの記憶を戻す為に、東方司令部の面々は入れ替わり立ち代り鋼のに
あらゆる事を教えた。

その大半は、珍しい物観たさだったのだが、敢えてそれに関しては目を瞑る事にした。

それで鋼のの記憶が戻るかも知れない。

そう、思ったからだ。

勿論、執務室にも鋼のは顔を出した。

私はその度に色々な話をしてやった。

私と鋼のの出会いや国家錬金術師試験の事、鋼のにとって辛かった事も。

鋼のは黙って、素直に私の話を聞いていた。

回を重ねる毎に、鋼のは段々と私にも慣れて来たようで、笑顔を見せるようにもなって行った。

唯やはり、私と鋼のの関係だけは、余計に混乱させるのではないかと思い話す事が出来なかった。

鋼のがこのまま記憶を取り戻さなかったらどうしようか。

ふと、そんな事も考えるようにもなり、段々不安になって来る。

その要因の一つとして、鋼のがイーストシティに居るのにも関わらず、一人きりの夜を過ごさ
なければならないと言う状況。

鋼のがヒューズの元に帰って行くのを観ながら、その度に深く息を付き、きっと明日はと考えるのだ。

そして当たり前の事ながら、勿論、朝も一人きりで。

目覚めた時に、隣に鋼のの姿が無い。

それがこんなにも物足りない物だったとは。

まるで今迄の事の方が全て夢だったのかも知れないとさえ、思いそうになる。

今頃まだ眠っているのだろうなと、いつもなら鋼のが居るはずの広く空いたベッドのスペースを眺め、
私はぼんやりと考えた。




作品名:アムネジア 作家名:ゆの