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Rainy day

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窓をたたく雨音で目が覚めた。

「ああ……、仕方がないな」と僕は呟く。
外は厚い雲に覆われていて、今日は多分一日中、雨だろう。

僕のとなりで寝ていたドラコが少し身動きする。
「──どうかしたのか?」
いつも朝は目覚めが悪いのに、今日ははっきりとした声で呼びかけてきた。

「雨が降っているから、森の向こうにある湖に行けなくなっちゃった。せっかくの日曜日なのに。あの場所は静かできれいだから、きっと君も気に入ると思ったのにな」
ため息をつく。

「そこで、いったい何をするつもりだったんだ?」
ドラコは怒ったような顔でにらんできた。

「──えっ?君は本を読むのが好きだから、本を持って読書に……」
「本当に読書かどうだか!」
ふいと横を向いて、寝返りを打って、布団にもぐりこんでしまった。
僕はそんな相手の様子を見て、かなり焦ってくる。

──やっぱり、悪戯をしすぎてしまったみたいだ。

実はこの一週間、ずっと彼の後を追いかけ回して、からかってばかりいたからだ。

最初のほうはドラコも、ずっと我慢していたみたいだったけれども、3日目くらいになると、もう僕の顔を見ただけで、回れ右をして逃げ出すことのほうが多くなってきた。

それでも、懲りずに僕が悪戯をしかけてくるので、最後には「しつこいっ!」と怒って、授業以外は部屋から、すっかり出なくなってしまった。
移動中のどんな場所にも、クラップとゴイルを伴って、自分がひとりになることがないようににするほどの、徹底ぶりだ。

それでも、真夜中に未練たらしく部屋に忍び込んだら、狭い部屋にベッドを運び入れて、3つも並べてがっちりと、護衛のふたりに挟まれて、あまりの窮屈さに「うん、うん」うなされながら、寝ている恋人の姿を見たら、何もできなくなってしまった。

──どうやら僕は、そこまで彼を追い詰めてしまっていたらしい。

それで、やっときのうから僕は彼に悪戯するのをやめたら、心底ホッとしたのか、なんとかドラコの機嫌も少しはよくなり、昨晩から食堂にも顔を出すようになった。
しかし、もちろん、その原因を作った僕とは、一切顔を合わせようとはしない。
怒った顔で横を向いてばかりだ。

僕はドラコのことが好きすぎて暴走してしまい、いつも失敗ばかりしてしまうんだ……

土曜の夜、彼はここのところ毎週、僕の部屋に泊まりにきてくれていた。
さすがにきのうは来ないだろうなと、諦めてしたら、当たり前のようにドラコはやって来た。

ドアから入ってきた彼の姿を見て僕は、心底ほっとしたんだ。
「怒っている?」とは聞かなかった。
もうそのきつい瞳を見ただけで、十分に気持ちが読み取れたからだ。

ドラコは会話をかわすことなく、ムッとした顔でベッドに潜り込んでくる。
そして、自分のとなりの枕をポンポンとたたいた。

──僕に『来い』というジェスチャーなのだろうか?

恐る恐るベッドに入ると、僕のパジャマの襟元を引きつかみ、手繰り寄せて、そのまま、ものの1分とたたないあいだに、僕の胸に頭を擦り寄せて、寝息をたて始めた。

まるで、これじゃあ、自分が枕になったみたいだ。
しかし僕は苦笑して、そのまま恋人の枕になって、大人しく眠ることにした。

あしたは彼が気に入りそうな場所を見つけたので、それで機嫌を直してもらおうと思っていたのに、朝起きたら雨だなんて……

『ハァー』とため息をついて、雨降り模様の曇り空を見上げた。

「僕といると退屈なのか?」
「えっ、なんで?」
「さっきから、ため息をついてばかりいるから」
「そんなことはないよ」
(むしろ幸せだよ)と言葉を続けようとしたが、やめた。
恋人はそんな甘ったるい言葉が、大嫌いだったからだ。

「確かに雨振りだと、気分がうっとおしいからな」
窓の外を見て、ポツリと彼が言った。

その言葉を聞いた途端、言い知れない不安で胸がいっぱいになり、思わず相手の傍に近寄ってしまう。

「ごめん、ドラコ。ごめんなさい!」
「──えっ?」
振り返る彼のグレーの瞳が、驚いたように見開かれる。

僕はぎゅっと目を閉じて、何度も謝りの言葉を繰り返した。
「うっとおしくて、ごめん。悪戯ばかりして、ごめん。追っかけまわして、ごめん。お節介で、ごめん。みんな、みんな、ごめんなさい……」
言っているそばから悲しくなってきて、涙がにじんできた。

「なにを突然に……」
ドラコのうろたえた声がする。

「最初に列車の中で出会ったときに、君の手を取らなくて、ごめん。傷ついた君の心をずっと気づかずにいて、ごめん。ひとりにして、ごめん。──そして、君のことを大好きすぎて、ごめんなさい!」
言っている側から、不安が頭をもたげてきて、ボロボロと涙がこぼれてきて、止めようとしても、どうすることもできなかった。

「ハリー?」
ドラコが慌てたように、泣いている僕の手をとった。

「今日が雨で、ごめん。もっとキスしたくてたまらないのを我慢してて、ごめん。君のことが世界で一番大好きだと言いながら、本当はクィディッチのことも、君と同じぐらいに大好きで、ごめん。君がなくしたと思っていたお気に入りの羽ペン、僕が持っていて、ごめん。みんなみんな、ごめんなさい!」

「……ハリー、言っていることが、みんなバラバラだぞ」
「だから、ごめんって、謝っているじゃないか──」
涙で顔がぐしゃぐしゃになる。
ドラコはそんな僕の顔を見て笑った。
「今、本当に君はとてもひどい顔してるぞ」

「不細工で、ごめんね。ドラコはこんなに綺麗なのに……。僕の髪型がどうしようもなくて、ごめん。近眼でごめん。実はナイショで身長が伸びるように、通信販売で怪しいクスリを買って、毎日飲んでいるのに、ちっとも身長が伸びなくて、ごめん。本当は犬のほうが好きなのに、君が猫が好きだって言うから、僕も好きだと、嘘ついてごめんなさい!」
いつの間にか、僕の謝って言葉が横滑りをして、情けない懺悔をしていることに気付いて、ドラコの肩がかすかに笑いで震えていることに、僕は気づかない。

「君の言うことは、いちいち大げさすぎる。まるで次の瞬間、この世界が破滅しそうなほどの勢いで、謝ったりして。──ハリー、君は伝説の魔法使いなんだろ?」
ドラコが僕の肩に手をかけて、語りかけてくる。

「しかも、ちびっ子のヒーローだ。みんな、君のことを憧れているぞ。おまけに、グリフィンドールの歴代の名シーカーだ。──少しは自信を持てよ!」
「自信なんかないよ!ドラコがどこかへ行ったら。僕を捨てたら……、ううーっ」
たまらず号泣して、ドラコにすがりついた。

ドラコは僕の重さが受け止められずに、ふたりしてボスンとベッドにひっくり返ってしまう。
天井を見上げたまま、ドラコは「まったく!」とため息をついた。

「ハリー……、君は謝ってぱかりだな。いつでも、切羽詰まったら、『ごめん、ごめん』としか言わなくなる。ボキャブラリーが少なすぎるぞ。君から最初の告白を受けたときも、「ごめんなさい!」で結局、最後まで押し切られたし……。何がなんだか……」
「ごめん。もう謝らないから、ごめんなさい!」
「また、謝っているし……」
呆れた声を出しているけど、相手は別に怒ってはいないみたいだ。
作品名:Rainy day 作家名:sabure