Rainy day
ドラコの胸に顔をうずめて泣いていると、それも気持ちよくて、また涙が出てくる。
ボロボロ泣いて、恋人のシャツをかなり濡らしてしまった。
だけど、別に不愉快な素振りもみせず、「しょうがないなー」と言いながら、ドラコにしては結構やさしい手つきで、僕の背中を労わるように何度も撫でてくれる。
「いつも勝手に突っ走って、周りが見えなくて、君に迷惑をかけているのは、十分に自分でも分かっているんだ。この部屋に、毎週泊まってくれるのも、僕が拝み倒した末だし、キスを許してくれたのも、僕が死にそうなほど切羽詰まっていたからだってことも、よく知っている。いつも、いっぱいわがままを言って、君を困らせてばかりだ。だから……、だから……、いつかドラコに愛想をつかされたら、僕は生きていけない!」
そう言って、ドラコの胸で泣きじゃくった。
「涙まみれでそんなことを言うなんて、まったく、なんてひどい愛の告白なんだ」
ドラコは呆れたように、ため息をつく。
僕は慌てて顔を上げた。
「ドラコ、君のことがいっぱい好きすぎて、本当にごめ……」
最後の言葉はドラコからのキスによって、飲み込まれてしまった。
「もう、黙ってろ。うるさいから……」
唇を離すと、少し顔を赤らめて、ぶっきらぼうにドラコがつぶやく。
めったなことで、ドラコからキスなんかしてくれないので、僕は嬉しくてたまらなくなって、思わずニヤケてしまった。
それを見て、ドラコはむっとした顔で、僕のほっぺたをつねった。
「痛いよ。痛いけど気持ちいい」
「このバカ!」
「ああ、そうですよ。僕はバカですよ。ドラコの前じゃ、いつだってバカだ」
そうしてふたりで、弾けるように笑い転げた。
「──お昼はどうする?」
「あっ、おいしいランチの店を見つけたんだ。この学校から近い、マグルの店で──」
僕の答えに、ドラコは驚いて顔を上げる。
「まさか、また勝手に学校を抜け出して、マグル界に出かけていたのか?」
「だって、勉強や魔法ばかりじゃあ、ストレスがたまって。それに、元から僕はマグル出身なんだし、あっちのほうが落ち着くというか……」
「今度、見つかったら退学だぞ!」
「そんなヘマはしないよ。安心して」
「安心できるかっ!」
ドラコはため息をついて、頭を振った。
「そこに君といっしょに食べに行きたいんだけど」
「──僕も、いっしょに退学にさせるつもりか?」
じろりとにらみつけてくる。
「大丈夫だよ!もしドラコが見つかっても初犯なんだし、謹慎ぐらいだから安心して。それより僕のほうは、もう何度も見つかってしまって、あとがないから、本当にヤバイかなぁ……」
「子供たちのヒーローが、校則破って退学だなんて、みんなの夢を壊すな!」
「だから、見つからないように、そっと秘密の出口を見つけたから、そこから抜け出して──」
「まったく、これだから、トラブルメーカーは……」
などと、ぶつぶつ言いながらも、ドラコは自分のシャツを手に取り、袖を通し出す。
誘っているハリーより先に、さっさと身支度を始め出した。
そんな姿にハリーは小さく苦笑した。
彼自身は気づいていないかもしれないけれども、ドラコは恋人にとことん甘い。
どんなに怒っていても、とんでもないわがままを言ったとしても、結局彼は許してくれる。
(──まぁ、それにつけ込んで、甘えている僕も、相当性格が悪いのかもしれないな)
などとハリーは、自分だけの特権に、ひどく嬉しくなってしまう。
「そのランチのおいしいレストランは、どうやって行くんだ?」
「フルーパウダーは使えないよ。ここから歩いていくんだ。あの裏の樫の林を抜けていくと、すぐだよ。歩いて30分ぐらいで、着くはずだから」
「外は雨が降っているから、歩くのは面倒だな……」
「大丈夫さ。ここに傘がある」
部屋の隅にある傘を差し出す。
「一本しかないぞ」
「ふたりで一本で十分だよ。魔法をかけてあるから、この傘の下は絶対に濡れないよ」
「──つまり、君の傘にいっしょに入れと?」
「そうそう、2本より1本のほうが、目立たないし」
はぁーっとドラコは深いため息をついたが、もう反論するのに疲れたのか、ただハリーの言葉に頷いただけだ。
「お腹が減ったから、早く行こう」
「ああ、そうだね」
そうして、寮を抜け出すと、一本の傘でふもとの町へと歩いていく。
ぬかるみを避けながら、濡れないようにと傘の中でからだを寄せ合った。
ふたりして新緑の中を、たわいのない会話をして、坂を下っていく。
途中でドラコの肩に手を伸ばしたり、キスをしたり、抱きしめたりしていたので、結局、レストランにたどりついたのは、ランチが終るギリギリの時間になってしまった。
急いで、今日のオススメのランチを頼むことにする。
きっと、この雨は食事が終わった後も降り続いているだろう。
──うっとおしい雨の日も、そう悪くないと思ってしまうのは、きっと、恋人といるせいだなよなと、曇った空を窓越しに見上げて、ハリーはそっとほほ笑んだのだった。
■END■