ハガレン短編集【ロイエド前提】
本気
ぱさり、と。
手にしていた書類をデスクに置いて、伸びをする。
後少しで終わるなと、残った書類を眺めて考えながら、デスクの向こうのソファーに視線を移す。
こくり、こくり、と。
クッションを抱き抱えたまま、鋼のが、船を漕いでいた。
終わるまで待っていると言って、先程まで本を読んでいたのだが、それも最後まで読んでしまったらしく、
暇を持て余しているうちに眠ってしまったようだ。
クッションに顔を半分埋めた姿が、愛らしい。
このままその姿を眺めているのもいいな、と思った時、不意にドアがノックされた。
「失礼します。」
カップの乗ったトレイを持って現れたのは、ホークアイ中尉だった。
「大佐・・・」
口を開きかけたホークアイ中尉を、軽く挙げた手で制し、その手をゆっくりと口元に移動させ、
人差し指を立てて見せる。
ホークアイ中尉は私の視線を追ってソファーに視線を移すと、納得したように笑みを見せた。
音を立てないように私の傍に移動したホークアイ中尉は、そっとトレイの上のカップを
デスクの上に置いて、私の顔の位置まで身を屈め、静かに言葉を紡いだ。
「やっぱり、寝顔は無邪気ですね。」
「可愛いだろう?」
くす、と、ホークアイ中尉が、微笑った。
「恋人自慢ですか?」
「いけないかね?」
いえ、と、言葉を紡いで。
「ヒューズ中佐の事を言えませんよ、大佐。」
「よりにもよってヒューズと来たか。」
声を潜めながら交わされている、軽い会話に気付いたのか、ぴくり、と、鋼のの身体が動いた。
「起こしてしまったかな?」
ホークアイ中尉と、鋼のの様子を観ていると、鋼のはゆっくりと顔を上げた。
ぼうっ、と一点を見つめ、そうしてこちらに視線を向ける。
視界に私の姿を捉え、ふんわりと微笑って見せた鋼のは、ゆらりと傾いだかと思うと
クッションを抱き抱えたまま、どさりとソファーに倒れ込んだ。
再び規則正しい寝息が聞こえ始める。
「可愛いですね。」
くすくすと笑いながら、ホークアイ中尉が、言った。
「だろう?」
デスクに置かれたカップに手を伸ばし、口に運ぶ。
こくり、と一口飲んで、再び口を開く。
「あれは、私の事が好きなのだそうだ。」
「それは羨ましいですね。」
「私の一番の宝物だよ。」
「ええ、知ってます。」
「本気で、心から護ってやりたいと思っているのだ。」
「あんな風に微笑まれたら、大佐で無くても思いますよ。」
短い言葉のやり取りをして。
ホークアイ中尉は「それでは」と軽く頭を下げ執務室を後にした。
暫らく鋼のの様子を見つめて。
そうして再び私は書類に目を通し始めた。
「・・・鋼の。」
視線は、書類に落としたままで。
ほんの少し間を置いて。
「・・・・・・何で、解ったんだよ・・・・・・?」
やはり、起きていたか。
ゆっくりと、身体を起こした鋼のが、こちらを観る。
私は視線を上げ、鋼のを観た。
頬を紅色に染めている。
「私を侮るのでは無いよ。」
ちぇ、と、小さく口を開いて。
「なぁ、大佐。」
「何だね?」
少々口ごもるように、鋼のが言葉を続ける。
「さっきの、本気なの?」
「何がだね?」
「だからっ・・・宝物とか・・・心から護ってやりたい・・・とか・・・///」
本当にこの子ときたら。
私は立ち上がると、ソファーの横に移動し、鋼のの前にしゃがみ込んだ。
「嘘だと、思ったのかね?」
「違っ・・・」
鋼のの瞳が、私を見上げた。
私はゆっくりと顔を近付け、そっと鋼のの唇を啄ばんだ。
「ん・・・っ・・・」
鋼のが、声を漏らす。
そうしてゆっくりと顔を離し、私は優しく言葉を紡いだ。
「本気に、決まっているだろう?」
その言葉に鋼のは、嬉しそうに笑みを浮かべ、私の首に腕を回した。
柔らかく、耳元で言葉が囁かれる。
「大好き・・・」
Fin.
作品名:ハガレン短編集【ロイエド前提】 作家名:ゆの