ハガレン短編集【ロイエド前提】
唇
空気が乾燥しているせいで、何だか顔がカサカサする。
妙に違和感を感じて落ち着かない。
「兄さん、さっきからどうしたの?」
眉間に皺を寄せながら本のページを捲っていると、向かいに居たアルが不思議そうに声を掛けた。
「何か顔がぱしぱしするんだ。」
「顔?」
アルがエドの顔を覗き込む。
「あー…かさかさしてるねぇ…ホークアイ中尉に薬か何か貰ったら?」
「んー…」
どうしようかと一瞬思ったが、余りにも気になるのでアルの言う通り薬でも貰って来ようと席を立った。
図書室を出ると、ひやりとした空気が頬を撫でた。
何だか唇までぱしぱししてきた気がする。
階段を上ると、丁度ホークアイ中尉が前を歩いているのが見えた。
「ホークアイ中尉。」
エドが声を掛けるとホークアイ中尉は振り返り、エドを認め笑みを浮かべた。
「どうしたの?調べ物は終わったの?」
「んー…それはまだなんだけど…あのさ、何か乾燥してるみたいで顔がぱしぱしするんだ。薬か何か無い?」
ホークアイ中尉はエドの顔を観ると、そうね、と、呟いた。
「その位なら薬じゃなくても私が使ってるクリームで大丈夫よ。貸してあげるからいらっしゃい。」
エドはホークアイ中尉に促され、更衣室へと付いて行った。
「ねぇ、ここって女子更衣室じゃないの?」
エドはドアの前のプレートを観て、ドアの数歩前で足を止めた。
「大丈夫よ。この時間は誰も居ないし、このドアのすぐ向こうにはカーテンが掛かっているから奥は見えないの。
手前に化粧台があるからそこで待っていてちょうだい。」
エドは仕方無くホークアイ中尉の言う通りに手前の化粧台の椅子に腰掛けた。
何だか甘い香りがする。
それが気恥ずかしくて、誰も居ないのにエドは俯いた。
「お待たせ。」
じきにホークアイ中尉が顔を出し、エドの前にしゃがみ込んだ。
「じっとしててね。」
そう言うと、ホークアイ中尉は小さな入れ物からクリームを掬い、エドの頬に薄く塗り始めた。
何だかくすぐったくて、思わず肩を竦める。
「唇も荒れているわね。ついでだからリップクリームも塗っておいてあげるわね。」
「リップクリーム?」
ホークアイ中尉がポーチから小指程のスティックを出し、エドの唇に当てた。
すいっ、と、唇をなぞられ、慣れない感触に眉を寄せる。
「はい、出来たわ。」
ホークアイ中尉は身体を起こすとリップクリームをポーチにしまった。
「拭っては駄目よ。潤わせないといけないから。」
「あ・・・うん・・・」
何だか今度はぺたぺたするような気がする・・・
でも拭うなって言われたからなぁ・・・
ホークアイ中尉に礼を言い、更衣室を後にすると、エドは再び図書室に向かって歩き出した。
慣れない所為か、擦れ違う者が皆エドを観て笑っているように見えて、何だか落ち着かない。
「鋼の。」
突然後ろから声を掛けられ、それがロイだと把握して、エドは笑みを浮かべて振り返った。
「大佐!」
ロイの姿を認めたと思った瞬間、ロイが自分を観て驚いたような表情を浮かべた。
「は・・・鋼の・・・??」
え・・・何・・・?
訳が解らず、エドは唯ロイの様子を観るばかり。
「来なさい。」
ぐいっ、と、ロイに腕を引っ張られ、エドは執務室に連れて行かれた。
「何なんだよ?!」
エドが声を上げると、ロイはエドに鏡を差し出した。
「それはこちらの台詞だ。」
そう言われて。
エドは鏡を受け取り覗き込んだ。
「何だこれっっっ!!!!」
エドの唇は、濡れたようにきらきらと光っており、それは触るとぷるぷると震えそうだった。
「何でグロスなんか塗っているのだね?」
「グロス??お・・・俺・・・ホークアイ中尉にリップクリーム塗って貰っただけだぜ??」
動揺しながら、慌ててエドは声を上げた。
「まぁ落ち着きなさい。」
ロイはエドを制すると、エドに顔を上げさせた。
「な・・・何・・・?」
ロイは笑みを浮かべると、エドの頬をすぅっ、となぞった。
「こう言うのも中々そそるものだね。」
「え・・・?」
ロイはゆっくりとエドに顔を近付けると、エドの唇を啄ばんだ。
「んっ・・・」
じん、と、身体が痺れたような感覚に陥る。
濡れたような音を立て、ロイは名残惜しげにエドから唇を離した。
「たまにはこんな艶っぽいのもいい物だが・・・出来れば私の前だけにして欲しいね。」
かぁっ、と、顔が熱くなる。
「そ・・・そんなの・・・っ・・・」
ロイの顔が観られなくて、思わず俯く。
「あ・・・当たり前・・・だろっ・・・///」
一生懸命、何とか言葉を紡いで、ちらりとロイを観る。
ロイはエドの顔を上げさせて、再び唇を重ねた。
何だか・・・甘い・・・
いつもと違うキスに、エドは酔いしれた。
Fin.
作品名:ハガレン短編集【ロイエド前提】 作家名:ゆの