ネクタイ印
「シッダールタ、あなたも随分、下世話な物言いをするようになった。
私が“萎えた”ままで困るのは、あなたの方だと思いますが」
さっきのとは違い、心からの笑い声でドアを閉める。
閉じた向こうから「すぐに鍵をかけなさい、シッダールタ。物騒ですからね!」
また大きな声がして階段を下りる音が遠ざかって行った。
ブッダはひとつ大きな溜息をつくと、投げたジーンズを玄関前の床から
拾い上げた。
カギを閉めるように、などと言われたって、こんな見た目、いい歳をした
成人男子に一体、何が起こるはずもない。
「あの人にも困ったものです」
ブッダはそう独りごち、イエスが帰ったら締め切りの修羅場でもなく
皺だらけのTシャツの言い訳を、何としようか、と考えた