ながいともだち
「あ~はっはっはっは~~っ」
ヴィジョンの向こうでヤマト爆神がひっくり返って笑っていた。ので、今、こちらからは、彼の、もしゃもしゃしたレッグウォーマーに包まれたすねから足先しか見えていない。
傍らのストライクエンジェルも、はじめの方こそ、
「いけませんの、ヤマト爆神さん、聖遊男ジャックさんに失礼ですの~」
などとヤマトをたしなめていたものの、途中で我慢出来なくなって、画面の端で涙を浮かべて爆笑している。
(……やれやれ)
だから、コイツに言うのは嫌だったんだ。
聖遊男ジャックは、心の中でため息をついた。
それでも、特別にスーパーゼウス様が開いてくれた回線で次動ネブラのヤマト爆神に連絡を取ったのは、今回の事件(?)で分かったことーーーパワーアップと髪との関連性についてぜひ伝えるように、と、スーパーゼウス様やアンドロココ様から言いつかったからだった。
やっと笑いの発作から解放されたヤマトが、ヴィジョンの前に顔を見せた。
「……それにしてもよく元にもどったよねえ、聖遊男ジャック」
感心したように男ジャックの髪を見つめる。
男ジャックは、更に苦虫を噛み潰したような表情になった。
「3日目の朝、起きたら元に戻ってたんだよ」
そう、男ジャックは、シャーマンカーン様から元に戻す方法が分からないと言われた日から、次の日の一日中までを、何もせずベットの上で過ごした。
夜、寝るまでは何の変化もなかった。今から考えれば、まるで引き込まれるように深い眠りに落ちたことが、予兆ではあったのかもしれない。
朝、妙に晴れやかな気分で目が覚めて、気が付くと髪が元に戻っていた。あのやたら多くて波打って、先が飾りのように房になっているーーー。
様子を見にきた海母精が、驚きの声を上げた。
「……元に戻ったのですね!」
それから、体の調子やら理力の量やら、一通りの検査を受けた。
結果、異常無し。
カルテを抱えたヘブンシティの院長が首を傾げながらも説明してくれたところによると、多分、一定の理力の供給をうけて回復してきた体が、一気にバランスを取り戻そうと働いたのではないか、ということであった。
「……でも、はっきりしたことは、分からない。『たぶん』ってことさ」
目が覚めてから、猛烈に腹が減ってヘブンシティ中の食料を食べ尽くして帰ってきたことまでは言わなくていいだろう、と、男ジャックは、自分に言い聞かせた。
ヤマトは、不機嫌な男ジャックの顔を面白そうに眺めながら話を聞いていたが、一段落したところで、ちょっと真面目な表情になって言った。
「……まあ、でも、聖遊男ジャックの気持ちも分かるよ、うん」
「……え?!」
男ジャックは、目を丸くした。
「ほら、僕も爆神になったら、急に量が増えて、髪質も変わっちゃっただろ?広がるしまとわりつくし、朝起きたら爆発しちゃってるし」
ヤマトの言葉を、男ジャックは、ある種の感動に包まれながら、聴いていた。
そうか、同志はここにいたのか、こんなところにいたのか……と。
ヤマトは、出会ったころーーーつまり若神子の時から、みずらに結った長い髪がトレードマークだった。ので、髪が伸びてそんなに苦労しているとは、夢にも思わなかった……。
そんなことを考えながら、男ジャックは、青く豊かなヤマトの髪を見ていたーーーそして、ふと、気が付いた。
「お前、苦労してる割には、髪、けっこうまとまってるな」
「……ええ?!」
なぜか顔を赤らめる、ヤマト。
「なあ、ヤマト爆神。コツがあるなら教えてくれよ~。な?いいだろ?」
な?な?と、男ジャックは、勢い込んでヴィジョンの向こうのヤマトに詰め寄った。
「い、いやあ~、これはあ~」
対照的に、急に歯切れが悪くなるヤマト。
そこに、ストライクエンジェルがひょこっと顔を出した。
「そ~なんですの!ヤマト爆神さんの髪は、朝起きると、右に跳ねたり左に跳ねたり、タイヘンなんですの~!」
おいストライクエンジェル、と、ヤマトが止めても、エンジェルは一向に気にしない。
「ーーーですから、毎朝、起きたら、私が、ヤマト爆神さんの髪をセットしてあげてますのよ!」
「……いや~、実はそうなんだよ~。いつもありがとう、ストライクエンジェル!」
「! や~ですの~!私、ヤマト爆神さんの為なら、これくらい、なんでもないですのよ!」
でれでれでれでれ。
ヴィジョン越しに大きなのハートマークを飛ばし始めた二人から目をそらした男ジャックは、大きなため息を、ひとつ、ついた。
「……やれやれ」