世にも奇妙な物語
エンドマークがテレビ画面に現れても、ふたりは無言だった。
一瞬シンと静まり返った部屋の中、テロップが流れドラマは終わり、何事もなかったように、ノキアの携帯電話のCMが流れ始めた。
軽快な音楽に合わせて牛が踊っているのをぼんやりと見詰めていたドラコは、驚いたように叫ぶ。
「ええーーーーーっ!あれで終わり!まさか?!」
手に持っていたチップスの袋をグシャグシャにしながら、指を画面に突きつけた。
「なぁ、まさかあれで終わりじゃないだろ、ハリー?」
同じソファーに座っていたハリーの肩を容赦なく叩く。
すっかりぬるくなった黒ビールのグラスを持ち上げ飲もうとしていたハリーは、その弾みで泡が自分の鼻にかかり軽く舌打ちした。
いきなり何するんだよと、文句のひとつでも入ってろうとしたけれど、ドラコはハリーの顔など見ていなかった。
ただただ画面を食い入るように見詰めていて、今自分が何をしたのかすら分かっていないようだ。
ハリーは怒るのを諦めると、肩をすくめてため息をつく。
「終わりなんじゃないの。出演者のテロップも流れたし、ちゃんとエンドマークも映っていたんだから」
濡れた鼻先を袖口で拭いながら、グイッと一気に残っていたビールを飲み干す。
ハリーだってついさっきまで展開が分からないドラマに釘付けで、ずっと飲むことを忘れていたからかなり喉が乾いていたからだ。
ドラコは眉をしかめて、砕けて粉々になってしまった袋に手を突っ込み、チップスをバリバリと食べている。
「そんなはずない。きっと続きがあるはずだ」
まるで、イライラとした気分を紛らわそうとしているかのようだ。
すぐひとつのものに夢中になって他のことを忘れてしまうのはドラコの悪い癖だった。
今回はドラマにすっかりのめりこんで、結構大きめのスナック袋の大半を胃に収めてしまっている。
きっと明日は大変な胸焼けになるだろう。
「喉渇いてない?」
缶ビールを差し出すとドラコは画面に釘付けのまま受け取り、一気にあおる。
そしてCMが終わり画面が切り替わり、夜のニュース番組になった途端、ドラコは悲鳴のような声を上げた。
「信じられない!!あれで本当に終わりだったなんて!!―――まさか?立ち尽くして終わりだなんて、全くオチがないじゃないか!なんで主人公が打ちのめされるんだ!あの倒れた自転車の意味は?だったらあの傲慢な主人公の更生の意味は?心を入れ替えたんじゃなかったのか?!」
教えてくれよ、ハリー!とばかりに、隣のハリーに食ってかかる。
首根っこを持って、相手を激しく揺さぶった。
「ちょっ、ちょっと待ってよ、ドラコ。落ち着いて」
ハリーは相手の肩に手を置き、慌ててなだめ始める。
「ええっと……、その……ビールいる?」
「いる!」
プルトップを開けるとブシュッという軽快な音と共に、こんもりとあわ立ったものを相手に差し出した。
それを受け取り、ドラコはまた一気にゴクゴクと飲む。
とても喉が渇いていたのか、それともこのイラつきをどうにかしたかったのか、分からないけれど、きっとそのどっちもだろうと結論付けて、また文句が出る前に新しい缶ビールをドラコの前に置く。
そう炭酸ばかりでは腹にくるらしく、今度は大人しくそれを持ったまま、ハリー相手にくだを巻いて寄りかかってきた。
「でもさ、あのオチはいただけないよ。ひどいよ。最初から謎だらけで、最後まで謎のまま終わるなんて……。ものすごく、ヒドイぞ。胸のさぁ、ここらあたりがモヤモヤする。納得がいかないっていうか、騙されたっていうか、なんだそりゃ?!っていうか……。あー、なんだかヒドイいドラマだった……」
うーっと言いながら、ドラコは首を振った。
「ひどいかもしれないけど、それが普通なんだよ、あの番組は。ちゃんとしたオチとかつけないし、なんだか分からない結末だったり、勝手に尻切れトンボのように終わらせたりするんだ。今のドラコみたいにさ、見ているこっちが納得がいかない終わり方をいつもするんだよ」
「なんでそんなバカなことをすんだ?」
「んー……、なんでかなぁ。きれいにスッパリと終わらせたり、ちゃんとオチとか付けたりしたら、そこで終わりになっちゃうから、そのせいかもしれないけど……」
「ちゃんと納得がいくオチをつけたほうが断然いいのに、なんで!?」
「ほらきっと今の時間、ドラコみたいにドラマの結末が気に入らないって喚いている人は、きっとテレビの向こうにたくさんいると思うよ。コレが狙いなんだよ、多分。きれいに終わらせたら「ああ、面白かった」で終わるドラマを、こんな納得がいかないオチにしたせいで、見ていた人は「なんで?」と思って、ずっと頭をひねってそのことばかりを考えてしまうから、あえてそうしたんじゃないのかなぁ」
ふーん……と答えたものの、まだドラコは納得がいかない顔をしている。
「納得がいかないんだ?」
ハリーが尋ねると、相手はコクンは素直に頷いた。
その表情が、年齢の割に子供っぼく見えたのか、目を細めて、ドラコの銀色の髪をクシャリと撫でると、ハリーは立ち上がった。
「でも、実際、現実なんてそんなもんだろ?きれいなオチなんかどこにもないじゃないか。あのドラマのほうが、嘘くさいハッピーエンドなんかより、ずっと現実味があるってもんだよ」
もう深夜も近いので、欠伸しながらハリーは、ベッドルームへ向おうとする。
それに続こうとしたドラコをハリーは押しとどめた。
「まず、君はシャワーを浴びてからだ」
「なんで?夕食を食べたあとすぐ浴びたじゃないか!」
「ポテトチップスまみれの相手とベッドに入る趣味はないんだよ、僕は」
「──えっ?」
ドラコは俯き、自分の胸元を見て絶句した。
「わかった。すぐに浴びてくるから、待っててくれ」
そう言うと相手はバスルームに消えていく。
入ったと思ったらすぐに水音が響いてきた。
一瞬シンと静まり返った部屋の中、テロップが流れドラマは終わり、何事もなかったように、ノキアの携帯電話のCMが流れ始めた。
軽快な音楽に合わせて牛が踊っているのをぼんやりと見詰めていたドラコは、驚いたように叫ぶ。
「ええーーーーーっ!あれで終わり!まさか?!」
手に持っていたチップスの袋をグシャグシャにしながら、指を画面に突きつけた。
「なぁ、まさかあれで終わりじゃないだろ、ハリー?」
同じソファーに座っていたハリーの肩を容赦なく叩く。
すっかりぬるくなった黒ビールのグラスを持ち上げ飲もうとしていたハリーは、その弾みで泡が自分の鼻にかかり軽く舌打ちした。
いきなり何するんだよと、文句のひとつでも入ってろうとしたけれど、ドラコはハリーの顔など見ていなかった。
ただただ画面を食い入るように見詰めていて、今自分が何をしたのかすら分かっていないようだ。
ハリーは怒るのを諦めると、肩をすくめてため息をつく。
「終わりなんじゃないの。出演者のテロップも流れたし、ちゃんとエンドマークも映っていたんだから」
濡れた鼻先を袖口で拭いながら、グイッと一気に残っていたビールを飲み干す。
ハリーだってついさっきまで展開が分からないドラマに釘付けで、ずっと飲むことを忘れていたからかなり喉が乾いていたからだ。
ドラコは眉をしかめて、砕けて粉々になってしまった袋に手を突っ込み、チップスをバリバリと食べている。
「そんなはずない。きっと続きがあるはずだ」
まるで、イライラとした気分を紛らわそうとしているかのようだ。
すぐひとつのものに夢中になって他のことを忘れてしまうのはドラコの悪い癖だった。
今回はドラマにすっかりのめりこんで、結構大きめのスナック袋の大半を胃に収めてしまっている。
きっと明日は大変な胸焼けになるだろう。
「喉渇いてない?」
缶ビールを差し出すとドラコは画面に釘付けのまま受け取り、一気にあおる。
そしてCMが終わり画面が切り替わり、夜のニュース番組になった途端、ドラコは悲鳴のような声を上げた。
「信じられない!!あれで本当に終わりだったなんて!!―――まさか?立ち尽くして終わりだなんて、全くオチがないじゃないか!なんで主人公が打ちのめされるんだ!あの倒れた自転車の意味は?だったらあの傲慢な主人公の更生の意味は?心を入れ替えたんじゃなかったのか?!」
教えてくれよ、ハリー!とばかりに、隣のハリーに食ってかかる。
首根っこを持って、相手を激しく揺さぶった。
「ちょっ、ちょっと待ってよ、ドラコ。落ち着いて」
ハリーは相手の肩に手を置き、慌ててなだめ始める。
「ええっと……、その……ビールいる?」
「いる!」
プルトップを開けるとブシュッという軽快な音と共に、こんもりとあわ立ったものを相手に差し出した。
それを受け取り、ドラコはまた一気にゴクゴクと飲む。
とても喉が渇いていたのか、それともこのイラつきをどうにかしたかったのか、分からないけれど、きっとそのどっちもだろうと結論付けて、また文句が出る前に新しい缶ビールをドラコの前に置く。
そう炭酸ばかりでは腹にくるらしく、今度は大人しくそれを持ったまま、ハリー相手にくだを巻いて寄りかかってきた。
「でもさ、あのオチはいただけないよ。ひどいよ。最初から謎だらけで、最後まで謎のまま終わるなんて……。ものすごく、ヒドイぞ。胸のさぁ、ここらあたりがモヤモヤする。納得がいかないっていうか、騙されたっていうか、なんだそりゃ?!っていうか……。あー、なんだかヒドイいドラマだった……」
うーっと言いながら、ドラコは首を振った。
「ひどいかもしれないけど、それが普通なんだよ、あの番組は。ちゃんとしたオチとかつけないし、なんだか分からない結末だったり、勝手に尻切れトンボのように終わらせたりするんだ。今のドラコみたいにさ、見ているこっちが納得がいかない終わり方をいつもするんだよ」
「なんでそんなバカなことをすんだ?」
「んー……、なんでかなぁ。きれいにスッパリと終わらせたり、ちゃんとオチとか付けたりしたら、そこで終わりになっちゃうから、そのせいかもしれないけど……」
「ちゃんと納得がいくオチをつけたほうが断然いいのに、なんで!?」
「ほらきっと今の時間、ドラコみたいにドラマの結末が気に入らないって喚いている人は、きっとテレビの向こうにたくさんいると思うよ。コレが狙いなんだよ、多分。きれいに終わらせたら「ああ、面白かった」で終わるドラマを、こんな納得がいかないオチにしたせいで、見ていた人は「なんで?」と思って、ずっと頭をひねってそのことばかりを考えてしまうから、あえてそうしたんじゃないのかなぁ」
ふーん……と答えたものの、まだドラコは納得がいかない顔をしている。
「納得がいかないんだ?」
ハリーが尋ねると、相手はコクンは素直に頷いた。
その表情が、年齢の割に子供っぼく見えたのか、目を細めて、ドラコの銀色の髪をクシャリと撫でると、ハリーは立ち上がった。
「でも、実際、現実なんてそんなもんだろ?きれいなオチなんかどこにもないじゃないか。あのドラマのほうが、嘘くさいハッピーエンドなんかより、ずっと現実味があるってもんだよ」
もう深夜も近いので、欠伸しながらハリーは、ベッドルームへ向おうとする。
それに続こうとしたドラコをハリーは押しとどめた。
「まず、君はシャワーを浴びてからだ」
「なんで?夕食を食べたあとすぐ浴びたじゃないか!」
「ポテトチップスまみれの相手とベッドに入る趣味はないんだよ、僕は」
「──えっ?」
ドラコは俯き、自分の胸元を見て絶句した。
「わかった。すぐに浴びてくるから、待っててくれ」
そう言うと相手はバスルームに消えていく。
入ったと思ったらすぐに水音が響いてきた。