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【シンジャ】FLOWER TAIL【6月東京シティサンプル】

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序章

 まさかこんな事になってしまうとは思っていなかった。
 限り無く白に近い銀色の髪とそんな髪と対照的に漆黒の闇のような色の瞳をした青年は、己の両足に嵌っている厳つい足枷を見ながら溜息を吐いた。若そうに見えるというのに落ち着いた雰囲気をしたその青年がいるのは、立ち上がる事がどうにか出来るほどの高さと両手をどうにか広げる事が出来る程の広さしか無い頑丈な檻の中である。何故そんな中に入れられているのかというと、これから競りに青年は掛けられる事になっているからである。
 青年が今から掛けられる競りはただの競りでは無い。金と権力を持った選ばれた者しか参加する事が出来無い競りである。決して高いとはいえない鼻の上にあるそばかすが特徴のその青年は、堅い職業に就いていそうではあるが、何処にでもいそうなただの青年にしか見え無い。何故そんな競りに掛けられようとしているのかというと、こう見えても彼が七つの海と迷宮を制覇したシンドバッドが作ったシンドリア王国の若き政務官であるからだ。二十歳前後にしか見え無い外見をしているが、その青年は既に二十五という年齢であった。
 何故、政務官である彼。――ジャーファルがこれから競りに掛けられようとしているのかというと、話しは一月ほど前に戻る。その日ジャーファルは、以前から部下に調べさせていた件について報告する為にシンドバッドの部屋を訪ねていた。
「思っていた通り国外の人間の仕業だったようです」
「そうか。詳しく話しを聞かせて貰おう」
 シンドバッドのその言葉を聞き、先日から国内で起きている若い女性の行方が急に分からなくなってしまう事件の首謀者と、女性を浚った理由について話していった。
 先日から起きている事件の首謀者は、海を渡った先にある治安が良いとはいえ無い国にあるとある組織であった。その組織の者たちが女性を浚った理由は、奴隷として女性を売る為であった事が部下の調べによって分かった。
 人間を売り買いするという行為を認めている国が殆どであるのだが、シンドバッドがその行為を嫌っている為、シンドリアでは奴隷市を開くのも人間を売り買いするのも禁止されている。それは、国内に対してだけで無く国外に対してもである。なので、国外で買った奴隷を国内に持ち込む事が出来ないだけで無く、奴隷として人間を外に売る事もシンドリア国民はできない。
 奴隷という制度を嫌っているシンドバッドは、当然その報告を聞き激怒した。そして、人の国の国民を浚ってしかも売るなどという行為をしたその組織を許す事は出来無いと言って、直ぐにその組織のある国へと抗議の手紙を出した。手っ取り早くその組織を攻撃するという真似をしなかったのは、そんな事をしたらその国との関係が悪化する事になってしまうからである。
 治安の悪いその国は怒らせると面倒な国という訳では無い。国力はこちらの方があるというのにその国との関係が悪化するのを避けたのは、その国との関係が悪化すればその国と友好関係を結んでいる国との関係も悪化してしまうからである。その国と友好関係を結んでいる国の中には、関係が悪化すれば面倒な事になってしまう国も含まれていた。
 シンドバッドが出した手紙への返事は直ぐに来た。その内容は、こちらでその事について調べたのだが、その組織がそんな事を行っている事実は無かったという物であった。その組織がシンドリアの国民を浚い奴隷として他国に売っている事は間違いが無い。それにも拘わらずそんな返事を寄こして来たのには何か理由がある筈だという事になり、早急に部下に再び調べさせた。その結果、その組織とその国の官僚が癒着しているという事が分かった。それが分かる事によって、何故あんな返事を寄こしたのかという事が分かった。
 事実を認めさせ国民を帰して貰うには、その組織が国民を浚い奴隷として売っているという言い逃れできない証拠を掴むしか無い。その証拠を掴むにはどうすれば良いのかという事をシンドバッドと話し合った結果、その組織へと自分が潜入して証拠を掴む事になった。普通、政務官はそんな仕事などしない。普通はしない仕事であるのだが、今まで何度もその類の仕事をしている。
 その類の仕事を自分が今まで何度もしていたのは、シンドバッドに仕える迄は暗殺者として生きていた為、何処かに潜入するのが得意であったからだ。その時暗殺術を仕込まれており暗殺も得意であったが、今は必用な時以外人を殺める事は無い。それは、シンドバッドと如何しても必用な時以外人を殺めないと約束しているからだ。
 準備を整えその国に入り組織に潜入した後、予定通り自国の国民を浚い奴隷市に売り飛ばしているという証拠を掴む事に成功した。身に起きた出来事を証言して貰う為に組織に捕まっている女性を連れ出す必用があったので捕まっている女性と共に組織を逃げ出したのだが、途中一緒に逃げていた女性が罠に引っ掛かってしまい、共に組織の者に捕まる事になってしまった。
 何故女性を連れて逃げようとしたのかという事をその後組織の者たちから詰問される事になったのだが、当然それに答える事はしなかった。しかし、自分が誰であるのかという事を共に捕まった女性が話してしまった事により、自分が誰であるのかという事だけで無く、何故女性を連れ出そうとしたのかという事を知られる事になってしまった。
 言う迄も無く、自分が誰であるのかという事を彼女に話してなどいない。名乗っていないというのに自分がシンドリアの政務官である事を彼女が知っていたのは、国の中では顔が知れた存在で自分があるからだ。
 顔が売れ過ぎてしまっているので、もう以前のように何処かに潜入するのは難しいのかもしれない。これからは何処かに潜入する仕事は別の者に頼んだ方が良いのかもしれない。そう思いながら自分がシンドリアの政務官である事を知った彼らが自分をどうするのかという結論を出すのを待っていると、シンドリアの政務官をこのまま殺すなど勿体無い。競りに掛けるという事を組織の主である男から告げられる事になった。
 こうやって競りに掛けられる事になったのだが、彼らに捕まる事になった原因であると共に、自分が誰であるのかという事を知られる原因になった彼女の事を怨んでいない。それは、彼女が罠に掛かってしまったのは自分の失態でもあると思っていたからだけでは無い。脅される事に慣れていない彼女が、脅され話してしまうのは仕方が無い事であると思っていたからである。
 檻が置かれている部屋の中を見ていきながら、これからどうやって逃げようかという事を考えていく。檻が置かれているのは、自分が入っている物と同じ檻しか無い寒々しい部屋である。薄暗いだけで無く湿気に満ちた部屋の中を見ているうちに、ふと自分を買う人間などいるのだろうかという事を思った。