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プラネット・ブルー

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ジョミーは屋上に居た。

授業の開始を告げるお決まりのチャイムの音が、高らかに鳴りひびく。もちろんジョミーも生徒である以上、今は教室の自分の席に畏まって座っていなければならないはずだった。
だが、ジョミーはフェンスにもたれかかるようにして、空を見つめていた。耳にすれば誰もが焦燥をかきたてられるそのチャイムも、彼の心に何らかの情動をもよおすことは、できないのだ。

「授業、いいの?」

唐突な問いかけに、ジョミーは少しだけ驚いた。いつもこの場所にいるのは、ジョミーだけだった。学校にいる生徒はみな莫迦みたいに従順で、ジョミーのように平然と、学校が定めた枠組みから抜け出す生徒などいない。少なくとも、ジョミーはずっとそう思ってきた。
訝りながら振り返ると、一人の少年が立っていた。
ジョミーよりも色の薄い金髪が、はたはたと風に揺れている。時折、長めの前髪に遮られはするものの、その下にある無表情がちな顔は、けれど驚くほど整ったものだ。しかしジョミーは、そんなことよりもただ目の前に現れた少年の、瞳に見入っていた。
澄んだ蒼が、美しく瞬く。
と、少年の目が細められ、面白がるような色を呈したことに気付き、ジョミーは我に返った。
誰かに、それどころか何かに気をとられたのは、彼にとって初めてのことだった。それを新鮮だと感じかけて、すぐに思い直した。
「別に。あんな退屈なもの、受けなくたって。」
ジョミーは、自分が異質な人間だということを理解していた。
生まれてきたときには、まっさらであるはずの命。ちょうど真っ白な紙に、少しずつさまざまな色が染み込んでゆくように子どもは世界に触れ、世界を識り、大人になっていく。けれど、ジョミーは違うのだ。
「そっちこそ、どうなんだよ、」
ジョミーと同じ、白いシャツと、濃灰色のズボンに身を包んだ少年は、明らかにこの学校の生徒である。彼もまた、今は、教室と云う名の檻の中に粛然と収まっているべき身分のはずだった。自身も授業の始まりを無視している少年は、口もとだけで、うっすらと笑った。
「まぁ、ぼくも君と同じような理由かな。」
ジョミーはその言葉に、強く反発心を覚えた。まるで、彼を苛立たせないものは無いと思えるほどに、彼はいつでも世界に反発し、憤り、そして失望している。
「同じだって?君にぼくの何が判るって云うんだ、」
そう云い捨てたジョミーの表情は、彼の14歳という年齢にはおよそ不釣合いなほど諦観に満ちたものだった。声だけは苛立ちを顕わにしているものの、無自覚なのか、フェンスを掴んだままの彼の手のひらは、静かに震えてしまっている。
悲しく、ジョミーは怒っていた。
唇が弧を描いていても、ジョミーの目には、少年は変わらず無表情らしく映った。瞳だけが、生き生きと光っている。ジョミーが自分にはもう持ち得ないと知っている、希望に似た輝きだった。それ以上見ていられなくて、ジョミーは瞼を伏せる。嫉妬を覚えるのにも、疲れた、と思った。それを少年は、不思議に落ち着いて、見ていた。
「……ねぇ。君は、世界が嫌いなの?」
「嫌いだ。人間と、人間が生み出す何もかも、みんな、嫌いだ。」
いささか突飛すぎる少年の質問に、けれどジョミーは即答した。それはいつだって、彼の内側で溢れている気持ちだったからだ。
ジョミーには、現在の自分とは違う、もうひとつの自分の記憶が在る。それは、前世の記憶だとか、そういう風に呼ぶべきものらしかった。それが特異なことであると自覚したのは、物心ついて、随分経ってからだ。
ジョミーは生まれた時から既に、何もかもを識ってしまっていた。その不思議な記憶は決して鮮明なものでは無かったけれど、今の彼が生まれ落ちた世界から新鮮さを奪うには、充分すぎるものだった。
喜びや悲しみや怒りや憂い。そんな感情たちや、随分たくさん学んだ多種多様な知識。どうやら以前の彼は、ひどく特別で、激しい生を全うしたらしい。不可解な所も多い記憶だったけれど、ジョミーが授業をほとんど受けないのに成績が良いのは、そのおかげだった。そして大人びた欲望さえ、ジョミーは、はじめから識ってしまっていたのだ。
可愛げのない、気持ち悪いくらいに冷めた子ども。気が付くと、そう周囲から評価を下されていた。しかしその評価もあながち間違いではない、むしろそれでいいと、ジョミーは思っていた。
見た目が少年なだけなのだ、ジョミーの心は老獪した賢者のように、すでに浮世に絶望し、荒みきっている。
彼にとってこの世界とは、終わったものたちが積み重なっただけのものだ。一度生ききった世界を、どうして再び享受することなど、出来ようか。何も知らないで、新しいものだけを受け取れるクラスメイトたちが、どうしようもなく羨ましいと思った。そしてそう思うのにも、飽きていた。
ただ、誰からも何からも放っておいて欲しい。ジョミーの感情の退廃は、誰にも理解されないのだから。
作品名:プラネット・ブルー 作家名:ぺあ