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ロリポップ

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今日は俺の友達で、最近やけに気になって仕方がないヤツのことを話そうと思う。

そいつは、そいつにまとわりついているオーラが、どうもほかの人間とは異なっている気がしてならない。
誰にも真似できそうにない、独特の雰囲気がある。俺はああいう人種をこれまで見たことがない。

特段、顔つきがズバ抜けてカッコイイとか、背がめちゃくちゃ高いとか、そういうのではない。
顔つきでいえば、悪くもないが、だれもがうらやむような顔つきでもない。中の上ぐらいか。
背丈でいえば、俺よりは高いが、これもだれもがうらやむほどの高さでもない。
なのに女子にはモテる。お手頃商品なのだろうか。そう言われれば納得がいく。
たとえば俺が女だったとして、俺みたいな奴かあいつか、どちらかを選べと言われれば、間違いなくあいつを選ぶだろう。そう話せばあいつは決まってこう言う。

「そうかな〜?オレは栄口みたいなひと、だいすきだけどな〜」

相手の喜ぶことをぴったり当ててくるうえに、それを何の恥ずかしげもなくさらりと言ってしまうところなんかも、女子にモテる理由なのかもしれない。本能で感じ取っているのだろうか。だとしたらとんでもない奴だ。だけど何の計算もなく言ってくるから厭味がない。だから言われた相手も素直にうれしい。
同性である俺ですら照れてしまうほどだ。俺が異性だとしたら、悔しいけれど好きになっているかもしれない。


野球部の中での話をしよう。あいつと俺は同じ野球部で、部内でも特によく一緒にいるほうだから、部活中のあいつのことなら俺が一番よく知っている。一番というところに、おそらく思いあがりはないとおもう。

あいつは俺の守備位置からみて、右斜めうしろらへんにいる。しかしこれもまた、現時点では特段上手いわけでもない。
下手というわけでもないが、凡ミスが多い。よってヤツの最近目下の課題は、凡ミスを減らすことと、レギュラーの座を奪われないことらしい。たしかにあの位置は西浦でもっともポジション争いが激しいが、それでも俺に言わせれば、集中力に欠けているだけなのだと思う。
打席も俺より下位打線にいる。これも俺に言わせれば、基礎練を怠けずにやっていれば、下半身も鍛えられて今よりも打率は上がるんじゃないかと思う。
要はもっと練習に真面目に励めさえすれば、まだまだ伸びるんじゃないかと、俺は個人としては考えている。とはいえ本人がどう考えているかは、わかったものではないが。

なのに女子にはモテる。べつにあいつがモテることに苛立ちを覚えているわけじゃない。わけじゃないが、練習試合のときは、時々こいつ目当ての女子が応援にやって来る。羨ましい。
特段上手いわけでもないが、大事なときに、いいタイミングで打撃が好調だったり、ファインプレーをしでかしたりする。ますます羨ましい。

コツコツ型タイプの俺にしてみれば、本当にいい性格というか、いい星の生まれというか、とにかくあいつは羨望の対象だ。波のない、着実な人生を、さもそれしか選択肢がなく当たり前のように送ろうとする俺と比べて、どれだけ華やかな人生を送れることだろう。波はよせては引き、そのくりかえしで、穏やかな日々は少ないかもしれない。しかしそのぶん楽しいはずだ。そうにちがいない。しかし楽しそうだと想像することはできても、実際にその選択肢を選ぶ勇気が俺にはない。
あいつとこれからも一緒にいれば、あいつの楽しさの半分だけでも、いやわずか10%だけでも、味わうことはできるのだろうか。


次にクラスでの話をしよう。けれど俺はあいつとクラスが違うから、あいにく詳しくはわからない。来年こそは同じクラスになれたらいいなと思う。
ただ同じクラスではないものの、きまって俺のクラスにやってくるから、もうほとんど同じクラスだと言っていいのかもしれない。1日に1回はきまってやってくる。距離にしてあいつと俺の間には、依然として6クラス分の隔たりがある。遠い。同じ学校、同じ学年、同じ野球部。この偶然性にしてこの距離はけっこう遠い。なのに用もないのにやってくるときすらある。一度、どうしてそんなに来るのかと訊いてみれば、なんの悪びれもなく「栄口に会いたいからだよ」と返ってきた。これには同性の俺ですら卒倒しそうだった。あいつにもし彼女ができたら、きっとあいつの彼女は常備薬を服用するかのように、1日3回かならず卒倒してしまうだろう。

あいつには友達が多い。俺のクラスにも頻繁に来るものだから、すっかりウチにも馴染んでしまっている。あまりに来るものだから「今日は来ねえの?」と俺に聞いてくる人間でさえ現れた。
廊下をあいつと歩いているときも、必ずといっていいほど誰からか声をかけられている。時には上級生にも話しかけられていることもある。あの歌は冗談だ不可能だと思っていたが、こいつなら本当に友達を100人作ってしまうかもしれない。
やはりすべてにおいて「並」の俺は、あいつにはとうてい及びそうにない。そして正直言って理解しがたい。

理解しがたいといえば、あいつはきまって500mlのペットボトルに入ったミルクティーと、棒つきキャンディーを常備している。今はまだいいとして、野球部を引退した際には絶対太るにちがいないので、そのときは友人代表として厳重に注意しようと考えている。

「あれ?栄口じゃん!今日はオレんとこ?」
「あ、うん、阿部と花井と話すことがあってさ」

今日も相変わらずいつものミルクティーを手にもっていた。先日味見をしたら想像以上に甘ったるかった。そのミルクティーだった。今日はめずらしく、日々糖分過多のあいつが俺のクラスに来る前に俺があいつのクラスにお邪魔している。昼休み、花井と阿部と部のことで話し合いを予定していたからだ。部をまとめていくには何かと話し合う時間が必要で、とはいえまとまった時間を見繕うのも困難で、そういうわけで俺は花井と阿部と昼飯を共にすることが多い。

「ああ、首脳会議ね」

なお他の部員はこの主将と副主将の集まるミーティングを、「首脳会議」と呼んで注視しているらしい。そんなたいそうなものではないと思うのだが、実際この首脳会議で決定する事項も多く、部員の言うとおりそれなりに重要なのかもしれない。

「ちょ、お前またかよ!お前入ってくると話進まねえんだよ。くれぐれも邪魔すんじゃねえぞ」
「ああもうそうやってすぐに人を邪見にする!ソレ、阿部クンの悪いクセよぉ〜?」

首脳会議ね、というわりには容赦なく割り込んでくる。阿部にぎゃあぎゃあと言われようともまるで気にも留めていない様子だ。俺なら阿部にここまで邪魔だと言われてしまえば、若干へこんで大人しく自分のクラスに戻ってしまうと思うのだが、こいつはもうすでに慣れているのか、もしくは麻痺してしまっているのか、いつもの調子で俺のとなりに椅子を持って来ては腰かけた。

「もうあまり時間もねえんだからホントお前、絶対黙ってろよ」
「はいはい、阿部クンは今日も怖いね〜。ね、さかえぐち?」
「ああ、ウン、そう、ね……」
作品名:ロリポップ 作家名:矢野