ロリポップ
そう言うと、予鈴に押し出されるかのように俺は7組をあとにした。
俺のカバンには、水谷用のロリポップキャンディがいつも5本入っている。
今日は1本あげたから、残りは4本。
味は果物系よりも水谷の好みでスイーツ系を多めに取り揃えている。
そんなのばっちり調査済みだ。
授業開始まで、まだ少しだけ時間がある。
なんとなくポケットに入れていた予備のキャンディを手にとってみた。
これも、さっき水谷にあげたものと偶然同じ、プリン味だった。
いつもあげるばかりだったけれど、なんとなく包装を開けて口にしてみる。
「あま…」
梅雨も終盤の暑くなり始めたこの季節にはとても似合いそうにない、甘ったるい味だった。
廊下の窓を全開にしても、そよ風すら入ってこない蒸し暑い日には、喉が余計に渇きそうな味だ。
けれどどこか水谷も、こんな味がするんじゃないかとふと思った。
どんなに求めても、届かない。届かず、身体のどこかが渇くばかり。
だけど、一度求めてしまえば、それは甘く、毎日のように欲してしまう。
『俺はな、栄口。お前が俺みたいな変態になりはしないかと、心配してんだよ、これでも』
阿部の言葉がタイミングよく呼び起される。俺は本当に、阿部の言うとおりどこかおかしいんだろうか?
(にしても、阿部ほどの変なヤツ、なかなかいないんじゃね?)
キャンディを咥えながら教室に戻れば、巣山が「栄口ともあろう奴が……水谷に感化されたのか?」と言ってきた。そんなに俺が棒付きキャンディを食べているのがおかしいのだろうか?それとも俺自身がやはりおかしくなってしまったのだろうか?
(もしやこれが阿部のいう変態…!??いやでもアメ食べるだけで変態になんのかよ)
つまらない思考はすぐに捨てて、次の授業の準備へと切り替えた。
明日は何味のキャンディをあいつにあげようか。