軽挙妄動
そのうちのひとつが、自分の横に居る子供の物だと把握し、再びハボックは子供に視線を移した。
眉間に深い縦皺を刻み、自分を見上げて。
小さな口が、開かれる。
「私が解らんのか。馬鹿者。」
「へ?」
ハボックの目が、点になる。
「自分の上司がどんな姿になってもちゃんと気付け。」
「・・・は??」
暫しの、間。
そうして。
漸くハボックの思考回路が、繋がった。
「ええええええええっっっっっっ?!!!!」
ハボックの声が、司令部内に響き渡った。
エドから経緯を聞いたハボックは、言葉を失ったように「はぁ…」と言葉を漏らした。
「しかし…ずっとこのままって訳にもなぁ…」
黙って腕を組むロイを見つめ、煙草の煙を吐き出して。
「まぁ取り敢えず、ホークアイ中尉の書類だけでも片付けて貰うとして、元に戻る手段はその間に
考える事にしましょうや。」
なぁ?と、ハボックは、ソファーに背を預けているエドに視線を移して言った。
「うん…」
複雑そうに浅く頷き、エドは小さく息を付いた。
恐らくは。
ロイが小さくなった時のように、エドが錬成するしか、無いのだと。
エドは思っていた。
だが、再び上手く行くとも思えない。
これだって、立派な人体錬成なのだ。
もしも失敗したらと考えると、どうしても気が進まない。
膝の上に置いた両手を、ゆるりと開く。
もっと、気を遣うべきだった。
この手は、普通の手じゃ、無い。
解っていたのに。
ふと。
エドの膝に、小さな手が添えられた。
はっと視線をほんの少し上げると、ロイが自分を見上げていた。
「鋼の・・・?」
そう、心配そうに言葉が紡がれる。
恐らく、エドの表情を読んだのだろう。
うっすらと笑みを見せ、エドはロイの両手を取った。
被害を受けたのは、ロイの筈なのに。
なのにロイは、自分の心配をしてくれている。
きゅ、と、胸が痛くなった。
「大佐・・・」
小さく呟けば、ロイはソファーによじ登り、エドの膝にちょこんと腰を落ち着けた。
そうして両手を伸ばし、エドの頬をぱちんと叩いた。
「そんな顔をするな。」
エドを見上げながら、ロイが言葉を紡ぐ。
二人の様子に、ハボックが気遣うようにそっと執務室を出て行った。
「私は、君のそんな顔を観たくは無い。」
「大佐・・・」
ぽそっ、と。
ロイがエドの胸に抱き付くように顔を埋めた。
「た・・・大佐・・・?」
「悔しいな・・・」
そう、呟かれた言葉に。
ふと、エドは耳を傾ける。
「君が落ち込んでいると言うのに・・・私はこの胸に君を抱いてやる事も出来ない・・・」
「・・・ごめん・・・」
「こら。」
再びロイの両手が、エドの頬を打つ。
「私は君を責めている訳では無い。」
「・・・うん・・・」
ロイは小さく息を付き、こつん、とエドの胸に頭を預けた。
「まさか、君の胸にこうして身体を預けるなんてな。初めて君の胸が広いと感じたよ。」
ふ、と柔らかな笑みを漏らし、エドはロイを抱き締めた。
「俺も・・・まさか大佐を俺の胸の中に抱けるなんて思ってもみなかったよ・・・」
温かな、温もりが伝わって来る。
それが、心地良くてほっとする。
「俺・・・頑張るから・・・」
エドはロイの耳元で、そう、言葉を紡いだ。