魔法の国のアリス
美しい女性の姿をしているが、やはり流石この世界の神である。コスモスの声は優しく、言葉もそんなにきついものではないというのに、そこはかとなく醸しだしているオーラが尋常ではなく恐ろしい。普段余り言葉数も多くなく、表情も余り変えないクラウドやスコールでさえも、それを見て顔を青くしている。
「クラウド、説明して貰えますか?」
「散歩に出たティナが迷子になったらしいんだが、どうもその途中で、彼女は偶然にもセフィロスと出くわした様だ」
コスモスの言葉に、ぽつりぽつりとクラウドが口を開く。どうにも口が重いのは仕方が無いのではないだろうか。
「何でだかまでは分からないけど、セフィロスはティナを送ってきてくれたらしいのに、セフィロスの姿を見ただけでクラウドが怒っちゃったからっ」
気が重いクラウドに、まるで追い討ちをかける様にしてオニオンナイトがそう叫ぶ。オニオンナイトは取り分けティナに懐いている為に、彼女が攫われたとなると彼がクラウドを覗く仲間内で一番憤慨するのは目に見えていた事だろう。
「…どうしてそう、彼を目の敵にするのです?」
「どうしてって、それは、」
コスモスの問いにそこまで言って、クラウドは言葉を詰まらせる。いや、理由が無い訳では無いのだ。寧ろ逆にあり過ぎて、何が一番なのかが分からないだけだ。
「…変態、だからだ」
「それでは仕方がありませんね」
((…仕方ないんだ))
クラウドの返答に、コスモスはそう言って笑う。その彼女の言葉に誰もが心中そう呟いたが、誰もそれを声にする事は出来なかった。この恐怖政治を打ち破れる者など、この場には居やしないからだ。
「ならば、次にやらなければならない事は分かっているのでしょう?」
「勿論、ティナを取り戻し行く」
「当たり前です。うら若き少女を、長い間あんな所に置いておく訳にはいかないですからね」
見た目だけならば、あのティナよりは少しばかり上の年齢にしか見えない彼女。だがこんな言葉を聞いていると、そんな幻想も無残に打ち砕かれてしまう。最も、彼女は人間ではなく神なので、年齢も何もあった訳ではないのだけれど。
「さぁ、行くのです!コスモスの戦士達よ!」
「おおっ!」
何だかノリに乗ってしまって、彼女の言葉にその場に居た全員が声を上げてしまった。
(…一体、俺は何をやっているんだ)
だが直ぐその後に我に返ったクラウドは、何だか恥ずかしくなって、一人顔を赤らめた。
一方その頃。遥か遠くの場所では。
「…美味しい」
その言葉と共に、少女の表情が華やぐ。
「あら、貴女はこの味が分かるのですか。ここの男どもはこの味が分からなくて悲しい思いをしていたのですがね」
ティナの言葉に、笑った訳では無いが、それでもアルティミシアの表情が少しばかり和らいだ気がする。カオスの者にはそんな表情を見せた事など無いと言うのに。
「あの魔女とも上手くやっている様であるし、別にこのままでも良いではないか」
その様子を眺めていたセフィロスがぼそりとそう呟くと、彼のコードの襟をゴルベーザがむんずと掴む。
「良い訳が無いだろう!このイカめ…!」