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魔法の国のアリス

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誰よりも先に口を開いたのはフリオニール。だがそれよりも大きな声だったのは、言うまでも無く、
「セフィロス、どうして貴様がっ!!」
そう、言うまでも無く、クラウドだった。彼等の目の前には、カオス側の人間であるセフィロスの姿。そしてその姿を見て、誰よりも顔色が変わったのはクラウドである。慌てて背負っている大剣の柄を掴むと、素早く鞘から抜き出し構えた。
「心配するな、別に貴様等と戦いに来た訳では無い」
「何を言っているんだ!」
「そう熱り立つな。私の後ろに居る少女がどうなっても良いと言うならば、話は別だがな」
「…後ろの、何だって?」
総毛立った猫の様に、分かり易い程に怒りを露にしているクラウドに対して、セフィロスは鼻で笑った。それに対してクラウドの怒りは更に増してしまいそうだったが、まだ少しばかりの理性が残っていた様で、それよりも先に彼の目線は男の後ろへと向けられる。するとそこには、考えても居なかった光景があった。いや、もっと正確に言うならば、考えても居なかった『者が居た』、だ。
「ティナ…っ!」
本来ならば、クラウド達はティナを探しに行こうと腰を上げたところだったのだ。勿論、セフィロスに会う為などではない。だがその男の後ろには、探すべき彼女の姿が在る。周りに居る者達は、その光景が理解出来ずに目を丸くするばかり。最も、それは至極当然の事であろう。
「あ、あのね。私、散歩中に迷子になっちゃったんだけど、この親切な人がここまで送ってくれたの」
「セフィロスの奴が、ティナをここまで送ってきた…だと?」
どうやら迷子になっていたティナと偶然であろうが出会ってしまったセフィロスが、彼女をここまで連れてきたという事なのだろう。まさかの出来事に、クラウドは眩暈に襲われる。
(もう今度からは、散歩に行く時は絶対に俺が付いて行くからな)
その時、彼がそんな事を勝手に決めていたなど、ティナは知る由などない。
「ティナ、こっちに来いっ!」
「え、あ、…うん」
クラウドの声にティナは何がなんだか分からずに頷くと、セフィロスの横を通り、クラウドの方へと歩き出した。だが、その足も直ぐに止まってしまった。何故ならば、セフィロスがティナの腕を掴んだからだ。
「どうしたの、セフィロス」
「…気が変わった」
「え?」
腕を捕まれセフィロスに引き寄せられると、彼女の体はすっぽりと彼の腕の中へ。瞬時の出来事に、状況がいまいち掴めず、彼女は目をぱちくりとさせるだけ。
「セフィロスっ!貴様っ!!」
「折角迷子を送り届けてやったというのに。クラウド、私は貴様の態度が気に食わん。それならばこの少女は私が預かる事にしよう」
「『それならば』が一体どこにかかってるんだ!貴様の言っている事は意味が分からないっ!」
セフィロスの言葉に、クラウド怒りは遂に頂点に達してしまった。昔から彼の言動や行動がいまいち理解出来ないとは思っていたが、今のそれが、過去のどんな言動よりも一番理解に苦しむものだった。
「ティナを返せ…っ!」
「取り返せるものならばやってみるが良い。貴様に、それが可能かどうかはまた別の話だがな」
「セフィロースっ!!」
セフィロスの言葉に、遂に頭の中で何かが切れてしまったクラウドは、その場から飛び上がると彼に向かって大きく斬りかかっていった。
「待て、クラウドっ!早まるんじゃないっ!!」
フリオニールのその言葉など、その時は既に遅い。
「はっはっは、底の浅い奴だっ」
「きゃっ」
セフィロスがコートを翻すと、彼の姿はティナごとその場から消えてしまった。斬りかかっていったクラウドがセフィロスが居た場所に降り立つ頃には、その場には人の姿など跡形も無かった。
「あーっ、ティナが!!」
そう叫んだのはオニオンナイト。そして呆然とするフリオニールに、その後ろにはしかめっ面をして明らかに機嫌の悪そうなウォーリア・オブ・ライトの姿。
「セフィロスーーっ!!」
そしてその場にはもう一人、自分が想いを寄せている少女ごと消え去ってしまった男に対して、怒りを露にするクラウドの姿が在った。


    ******


「一体どういう事だ」
「どういう事も何も、ただの気紛れだ」
カオス陣営に帰ったセフィロスは、たった今、ゴルベーザに詰問されているところである。大きな黒い鎧に長身の男が怒られているこの光景を、可笑しいという以外に何と形容すれば良いのだろうか。
「人様の所の子を、了承も無しに勝手に連れ去ってくるんじゃない!お前はどうしていつもそんな突飛な行動ばかりするんだっ!」
流石、元々は大きな組織の頂点であった事だけはある。面倒見が良いと言うか、怒る姿が様になっていると言うか。だがそんな事をゴルベーザに言えば、更に怒られる事は目に見えている。
「きっと彼女の仲間達が心配しているに違いない。直ぐに彼女をコスモスの所に返して来い!」
「それは出来ない相談だ」
ゴルベーザの言葉を、今まで聞いていたのか聞いていないのか分からなかったセフィロスが、その言葉だけははっきりと口にした。それに更に、ゴルベーザのこめかみに青筋が浮かびそうだった。鎧を着ているので、そんなものが浮かんでも見えやしないのに、何となく見えてきそうなのは彼の苛々している態度の所為だろうか。
「クラウドの態度が気に入らんのでな、彼女を此処に招待したというだけの話だ。クラウドにはそう言ってあるし、彼女を直ぐに返す訳にはいかない」
「~~~っ!!」
まるで母親と聞き分けの無い子供の会話の様だ。ゴルベーザには、セフィロスの言葉が全く理解出来ない。これでは全く会話が成立していない。
そんな中、ふっ、とティナがセフィロスの後ろで笑いかけたが、ここで笑ってしまっては何だかゴルベーザに申し訳が無く、彼女は必死で堪えた。
「すまない。…確か、ティナ、だったか」
「え、えぇ。…はい」
「少しばかり、ここで辛抱して貰えないだろうか。セフィロスの馬鹿者が、自分の我侭で君をこんなところまで連れて来てしまった様だ。直ぐに仲間達の元に返せる様に手配しよう」
「…はい」
大きな黒い甲冑で、見た目は恐ろしいのだが、その声は何とも優しいもの。ゴルベーザの言葉にティナはにこりと笑うと、差し出された椅子にちょこんと座った。
「アルティミシアは居ないか?」
隣の部屋の扉を開けると、ゴルベーザが何やら誰かを読んでいる。恐らくそれもカオス側の誰かなのだろうが、その名前にティナは聞き覚えは無い。
 暫くするとゴルベーザの声に応えるかの様に、一人の女が姿を現した。
「何ですか?騒々しいですわね」
「確か貴殿は、紅茶を好んでいたと思うのだが。急な客人でな、葉を少しばかり分けて貰えないだろうかと思ったのだが」
「…客人、ですか」
アルティミシアがゴルベーザの後ろを除き見ると、確かに見覚えの無い少女の姿がある。経緯は知らないが、客人とは彼女の事であろう。
「まぁ、良いでしょう。丁度私も暇を持て余していたところでしたし、私が煎れて差し上げましょう」


「一体どういう事なのです」
「どういう事も何も、全部クラウドの所為だろっ!」
コスモス陣営に戻った四人は、現在仲間達とコスモスから詰問を受けているところだ。
作品名:魔法の国のアリス 作家名:とうじ