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お守り

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あの男は私をなんだと思っているんだ。
そう愚痴りながらメフィストは雨の中、目に痛い傘を差しながらとある教会へと向かう。
自慢の靴に泥が跳ねたのを視界の先でとらえると、すぐに呪文でその汚れを消してしまう。

(人を呼び出しておきながら迎えもよこさないとは良い度胸です)

頬を引きつらせながら、漸く目的地の場所へと到着した。
その協会の門は固く閉ざされており、メフィストの目から見ても強固な結界が張ってあった。
傘を差しながら思い切り肩を落としてため息を吐く。
そして徐に携帯をどこからともなく取り出すと、ある男を呼び出した。
数コール目に漸く出てきた男の声に、苛つきを隠しもせずその男にぶつける。

「藤本、お前いい加減にしなさい。この私が来る時間帯くらい把握して結界を緩めておけよ。
 入れないだろうがこの野郎」

だんだんと酷くなっていく雨に、苛つきが最高潮に達しそうだとメフィスト自身が思う。
そんなメフィストの心理を知ってか知らずか、多分後者だろうが、明るい陽気な藤本の声が携帯から響いた。

『いやぁすまんすまん!何せ子供達が離してくれないもんでな!っと、よし!入って良いぞ~』

次の瞬間、あれほど強固だった結界が破れ、屈強な協会の扉が誰が開けるでもなく開いた。
メフィストは携帯を切り懐にしまうと、協会の中へと足を踏み入れる。

(あぁ、毎回思いますがはやり私にとって居心地の良いところではありませんねぇ~)

自分が悪魔の所為なのか、はたまた趣味が違いすぎるのか分からないが、
ここの協会はメフィストにとってあまり気分が良いところではなかった。

(まぁ、他の神父達の目線っていうのもあるのでしょうが・・・)

藤本の所まで案内をしてくれるらしい神父や、自分たちを遠巻きに見ている神父達からは歓迎の気がない。
寧ろ、警戒という名がふさわしいほどのぴりぴりとした視線を肌で感じている。

「ここの部屋で神父がお待ちです。メフィスト・フェレス卿」

「ご苦労様でした」

神父が数度その部屋の扉をノックすると、中から勢いよく扉が開く。

「おぉ!来てくれたか!!良かった、助かったぜ!」

この場にそぐわぬ明るい笑みと声に、メフィストの頬がまた引きつった。
煩いと一蹴してやろうとも思ったが、話すことも億劫だと感じた。

(・・・相も変わらず騒々しい男だな、お前)

一礼をして去っていく神父に、笑顔を貼り付けたままメフィストは会釈をし、藤本は手を振っている。
そして、漸く二人して部屋に入った。扉が閉められた途端、メフィストは藤本の鼻先に傘の先を突きつける。

「で?いったいどういう用件で私を呼びつけた藤本」

メフィストの口角があがる。けれど、目は笑っていない。形ばかりの微笑。
けれどそんなメフィストの表情にも、また鋭い傘の先が目の前にあるというのに、
全く動じた様子を見せない藤本は照れくさそうに笑って頬をかいた。

「それがよぉー燐と雪男の保護者会が明後日あるんだけどよー」

藤本はパンッと音を鳴らして両手を合わせ、メフィストに勢いよく頭を下げた。

「頼むメフィスト!その保護者会の時まで燐の面倒を見てくれないか!」

「はぁ?」

藤本の言葉にメフィストは突きつけていた傘を下ろした。
途端に襲ってきた目眩に、傘に体重をかけながら目元を押さえる。

「なんで私に言うんだお前・・・」

「いや、燐のこと頼めるのお前しか思いつかなくて・・・。ここの神父達と雪男は連れて行くだが・・・」

合わせた手から申し訳なさそうなから笑いを見せている親友に、怒りよりも先に呆れが勝った。
この男と教会の神父総出で出なければならない仕事。
近頃メフィストの耳にも入った大物悪魔の討伐に大方呼ばれているのだろう。

(確か雪男とかいうのは・・・祓悪師志望でしたっけ・・・)

聞きたくもないのにペラペラと話してくる親ばかな親友のおかげで、
奥村兄弟の知識だけはメフィストは持っていた。

「藤本、確かそれは大物悪魔討伐ですよね?良いんですか、『明後日』までの猶予で」

にたり、と嫌みを込めて笑みを浮かべてみたが、
藤本は一瞬きょとんとした顔を浮かべておう、と言いながら笑い返してきた。

「それくらいあれば俺たちには十分だ。よっしゃ!引き受けてくれるのか!ありがとなメフィスト!」

良かった良かった、と言いながらぱしぱしとメフィストの肩を叩いてくる藤本の手を払うわけでもなく、
メフィストはため息を吐きながら呟いた。

「いえ私は別に了承した訳じゃないんですけど」

「ありがとなー!」

人の話を聞かない所は相も変わらずだ、とメフィストはまたため息を零した。


作品名:お守り 作家名:霜月(しー)