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ダーチャにて 7

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ダーチャにて 7


 長いこと使ってないから、と独り言のように言いながら、ロシアが掘建小屋の錠に鍵を挿す。扉の取っ手にぐるぐる巻かれた鎖を結んでいる、錆の浮いた南京錠が、硬そうな音を立てた。
 開いた扉から中を覗き込むと、なかなかに広い。母屋と同じく靴を脱いで入る。入ってすぐは控え室のようになっている。棚と丸テーブル、そして椅子が数脚置かれていた。ここで食事をしたりもするのだとロシアが言う。
 横の小部屋は脱衣所だった。
 奥の部屋は内側は全面板張りで、デザインも大きさもばらばらの椅子が4つ、5つ、無造作に置いてある。部屋の隅に炉が組まれ、焦げた石が幾つも入っていた。
 サウナである。ロシア式のそれは、バーニャと言うらしい。
 懐かしいな、と言いながらプロイセンも首を突っ込んできた。
「結構埃が溜まってるから、まずは大掃除からだね……アメリカ君、ほんとに使うの?」
ちょっと困ったようにロシアが眉尻を下げた。その顔にはありありと、面倒くさい、と書いてある。
「勿論使うんだぞ!」
ロシアが後ろを振り返って、今度はフランスを見る。何らかアメリカへの反対を求めたのだろうが、フランスは笑って肩を竦めるばかりだ。仕方ないなあ、と呟きながら、ロシアが前室の棚を開いて、何かを取り出した。
「じゃあ、はい」
当然だよね、と首を傾げて、彼が渡してきたのは、バケツとモップと雑巾だった。


 4人で3時間かかって大方掃除し終えると、ロシアが今度は薪を割らなければならないと言い出した。掃除よりはそっちの方が得意だからと、うんざりする雑巾を手斧と交換し、アメリカは一人で裏庭に回った。冬用の薪をストックしている小屋から、割らずに保管されている乾いた原木を幾つも持ち出す。
 薪割りにはこつがある。縁に手斧の歯を少しだけ噛ませて、噛んだら振りあげて地面や薪割り台に叩きつける。昔はよくやったな、と懐かしさを感じながら、一山分の薪を割り続けていると、ひょっこりサウナ小屋の陰からロシアが顔を出した。
「わ、たくさん作ったんだね」
「そっちはもう終わったかい」
「うん、あとは火を入れて石を焼いて、その間に白樺の枝を用意すれば完了かな」
「白樺の枝?」
「まあ、入れば解るよ」
「おーい、薪はできたか?」
手押し車を押しながらプロイセンもやってきた。
「できてるんだぞ!」
「じゃあ積んでいくか」
「僕、白樺を取ってくるね」
アメリカから手斧を受け取り、ロシアは庭の裏道から雑木林の方へ行ってしまった。その後ろ姿をぽかんと眺めていると、プロイセンからぼこっと薪で一発殴られてしまったので、渋々薪の積み込み作業を手伝う。手伝うほどの量ではないと思うのだが、言い合いをするのもだるかった。

 プロイセンはロシア式サウナの仕組みをよく知っているようで、ロシアがいなくとも次々と準備を進めていく。炉で薪をぼうぼう燃やして、アメリカに指示を出し、炉内の石に水をかけさせる。室内にもうもうと蒸気が満ちていく。サウナを体験するには、もうこれで十分な気がしているが、なかなかプロイセンからお許しが出ない。
 その間にフランスが、中でつまむのだという食べ物や飲み物を用意していて、掃除と薪割り労働後の胃に、おいしそうな匂いがたまらなかった。

 プロイセンが良しを出したのは、ロシアが帰ってきてからだ。ロシアは、確かに白樺の葉が青々と繁った枝を四振り、手にして戻ってきた。大きなバケツに水を張り、そこへじゃぶんと葉を先にして枝を浸ける。
「ほんと、久しぶりだな」
懐かしそうに目を細めるロシアに、プロイセンがやれやれと肩を竦めて、俺は二度と入る気はなかったがな、と憎まれ口を叩く。
「じゃあ外で待ってる?」
「おま、誰が蒸気立ててやったと」
「僕頼んだ覚えないなー」
「はいはいはーいお兄さん一番乗り行きまーす!」
今にも口争いを始めようとしたロシアとプロイセンを制するように、フランスが脱衣室から勢い良くサウナの中に飛び込んで行った。
「あ、ちょっと忘れ物だよ!」
慌てたようにロシアも脱衣室に駆け込み、すぐに出てきてバケツを抱え、サウナの中に駆け込んでいく。その様子を幾らか呆れたように眺めていたプロイセンが、ちらりとアメリカを伺い見て、脱衣室に入っていった。
 着いて入った脱衣室では、プロイセンが全裸になっている。
「し、下着まで脱ぐのかい!? せめてタオルを巻くとか」
「そうしたきゃすればいいだろ。でもフランスも全裸だったぜ」
 前を隠しもせず、プロイセンはニヤリと笑いながら扉の向こうへ消えていく。奥からは、フランスのけたたましい笑い声と、随分楽しそうなロシアの、もうやめてよーと言う声が漏れ聞こえてきて、仕方なくアメリカも大急ぎで着ていた服を脱ぎ、恐る恐る扉に手をかけた。

作品名:ダーチャにて 7 作家名:東一口