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ぐらろく 光の帳で隠して

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交通事故で記憶喪失になった俺を、それ以前から恋人だったグラハムが、引き取って世話してくれた。それについては、感謝しているのだが、どうも気になることがある。
 普通、この年なら、俺には働いていた会社とか友人とかあったはずだが、グラハムが言うには 、専業主夫をしていたから、友人とも疎遠だったというのだ。
「私が仕事の都合で転勤ばかりしているから、姫は、なかなか友達に恵まれなく
て寂しい思いをさせていたんだ。」
 転勤族の主夫なんて・・・・そういうこともあるんだろーか、と、それは、とりあえず、納得したのだが、それよりも、気になるのは、グラハムの仕事だ。ごく普通に、スーツで出勤していくのだが、昨日、なんだか、不思議な衣装で帰って来た。
「会社の歓送迎会の余興で、武士を演じてみたのだが、気に入らないかね? 姫。」
「・・・いや・・・そのままで、よく帰って来れたな?」
「送ってもらったのだ。」
 余興で、極東の騎士の装束に、仮面までつけて、それで、何をやらかしていたか、よくわからない。まあ、あれで登場してカラオケでも歌えば受けることは受けるだろうか。



 しかし、余興ごときで、あの衣装を作るグラハムがすごいといえば、すごい。どんな仕事なのか、尋ねたら、「掃除屋さん。」 と、笑って答えてくれたけど、掃除している割りに汚れて帰ってくるということがないし、たまに、出張とか夜勤とかで留守にもする。そんな掃除屋なんてあるのだろうか。だいたい、作業服の仕事じゃないのか? それは・・・・と、思うのだが、営業だったら、スーツで、あちこち出向いているのかもしれないと、思い直す。
 さらに気になるのは、グラハムが、俺の名前を呼ばないことだ。いつも、姫と呼ぶ。
「きみに先入観を持たせない為、あえて、きみの真実の名前は呼ばない。それが
わかるまで、きみのことは、姫と呼ぶ。」
 だから、記憶喪失の俺は、自分の本名さえわからない。長いこと意識が戻らず寝ていたので、ずっと、「眠り姫」 と、グラハムは呼びかけていたそうだ。その名残で、姫と呼んでいるらしい。
 さて、俺は、なんて名前なんだろう? 思い出そうとするが、ちっとも思い浮かばない。





 たまには、外で食事をしようと、休みの日に連れ出された。友人も一緒だけど、と、言われて緊張したものの、相手が、カタギリさんだとわかって、解けた。何度か顔を合わしている人で、俺も少し慣れている相手だ。レストランのウェイティングで、待ち合わせた。

「やあ、グラハムのお姫様。相変わらず、美人だねぇー。・・・・ああ、こちらは、僕の知り合いで、クジョーくんと言うんだ。同席させてもらうけど、仲良くしてね。」

 カタギリさんも彼女を連れていて、その顔合わせも兼ねていたらしい。相手の女性は、俺の呼び名にびっくりした顔をしていた。

「すいません、俺、事故で記憶がなくて・・・・・本名がわからないんです。」

「姫、その言い方はおかしいだろ? 私は、きみの本名を知っているが、きみが、記憶をちゃんと取り戻す妨げにならないように教えていないだけだ。ミス・クジョー、それは、ご理解ください。」

 グラハムが、俺の足りない言葉を補って、クジョーさんに説明すると、ちょっと困った顔をして、クジョーさんは、俺を見た。

「・・・あっあの・・・・記憶って・・・全部? 」

「ええ、すっかり。なにせ、姫は、恋人だった私の名前すら思い出せない。実に嘆かわしいことだ。」

 俺が答えるより先に、グラハムが答えると、クジョーさんは、俺の手を握って、「そのうち思い出すわよ。」 と、親身になって心配してくれた。

「ありがとうございます。」

 ちょうど、俺がお礼を言う頃に、ウェイターが案内にやってきた。

「とりあえず、紹介も終わったことだし、食事にしようよ? グラハム。」

「そうだな、姫、行こう。」

 グラハムにエスコートされて、レストランの席についた。それほど堅苦しい席ではないので、終始、和やかだったが、なぜか、クジョーさんは、困ったような、悲しいような複雑な視線を、俺に、時たま、向けていた。それほど、記憶喪失って、憐れまれるものなんだろうか。

「また、逢いたいわ、姫。」

「俺は、ずっと専業主夫ですから、連絡してくだされば大丈夫ですよ。」

「おや、珍しいね、クジョーくんが、そういう反応をするのは。」

「ビリー、私だって、相性っていうのがあるのよ。お姫様とは、話が合いそうだと感じているの。」

「ミス・クジョー、姫は、私のものだから強奪はしないでくれ。姫がいないと、私は絶望してしまうからね。」

「あら、熱烈なんですねぇーグラハムさん。ええ、強奪はしませんよ。ただ、お友達にはなりたいです。」

「もちろん、姫の友人ということなら大歓迎だ。私が仕事で留守がちなので、どうぞ、うちへ訪ねてやってください。姫も喜びます。」

 じゃあ、今度、訪問させていただきます、と、クジョーさんは、約束して別れた。だが、なんだか、あの視線は、意味が違うような気がする。けど、どう説明していいのか、よくわからなくて、だんまりを決め込んだ。

 すると、グラハムは、俺の肩を抱き寄せて、「イヤなのかい? 」 と、耳元で囁いた。

「何が? 」

「ミス・クジョーが、訪問するのは気乗りがしないのかい? 姫。」

「いや、そういうんじゃなくてさ。・・・・記憶が無いのって、それほど可哀想なことなのかな? なんか、そういう感じだったからな。」

「ああ、そういうことか。別に私は可哀想だとは思わない。確かに、それまでの姫と私の過去は消えてしまったが・・・・・もう一度、その過程を楽しめるからね。姫には、初めてだが、私には二度目だ。だから、焦らず、ゆっくりと口説くつもりだ。」

「まだ口説くつもりか? 」

 すでに、口説くとか、そう言う段階ではない。ちゃんと、夜の生活だってあるし、口説かなくても、いいだろうと、俺は思う。さらに、口説いて何をさせるつもりだよ? と、疑問に思ってしまう。

「まだ、姫の心すべては、手に入れていないからね。すべてを手に入れるまで口説くつもりだ。」

「・・・あー・・・・そう・・・・・」

 すべてって・・・・記憶がないんだから、全部かっ攫っていったと思うんだけど、まだ、何か残っているんだろうか。たまに、グラハムの言動は、よくわからない。





 その頃、立ち上がりつつあったカタロンでは、小さな喧嘩が、勃発していた。ネタ元は、シーリンだが、それを聞いたクラウスは激怒して、ライルを呼び出した。

「おまえなー、シーリンと浮気するとか言うなら、俺は黙っている。だがな、敵の幹部と手を繋いでいちゃいちゃデートしてるって、どーいう節操のなさだ?」

「はあ? おいおい、クラウス、誰と誰が、いちゃいちゃ? 」

 呼び出されたライルは、身に覚えが無い。まったくない。ここのところ、カタロンの立ち上げで、ドタバタしていたのは、みんな、同じはずだ。

「ちょっと、クラウス。どーして、あたしが、ライルと浮気? 勝手に三角関係にしないでくれる? 」
作品名:ぐらろく 光の帳で隠して 作家名:篠義