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神柱と補佐官と大時計

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世界の中心にあって、宇宙を構成する大時計。
見る物によってその形、大きさ、作りまでもが変化する神の創造物。
時計の針が動けば世界の時間が動く。
昼と夜を管理し、歴史を紡ぎ、時代を作ってきた。
そして時計があるのは白亜の神殿。誰にも穢されたことのない純白の社。
その神殿を守護するのが、神柱。
真っ白な衣を着こなす人の身でありながら神に最も近く、
ただ時計を見守ることしか許されない憐れな人身御供。
願えることはただ一つ、大時計を正常に動かすことだけ。
その神柱を補佐するのもまた人間。
白亜にありながら異質の漆黒を纏うことを義務づけられた存在。
神柱と補佐官、共に永い永い永久なる時を駆け抜ける者。

「まーたこんな所で油を売っていたんですか?臨也さん」

「ん?帝人く・・ん・・・?」

心地よい木漏れ日が漏れる大木の根元であくびを噛みしめている臨也に、
帝人はこれ見よがしにため息を吐いて見せた。

「ほら、起きてください。お仕事してくれないと僕が困るんですから」

「あー。ごめんごめん。つい暇で」

あはは、と笑う臨也に帝人はまたため息を吐くと、すぐにくすっと笑みを浮かべた。
そして、真っ白な袖からほっそりとした腕が伸びて臨也に差し出す。

「ほら、行きますよ」

「はーい」

臨也は差し出された帝人の腕を掴むと、黒い衣をなびかせて立ち上がる。
2人は掴んだ手を離すことなく、白亜の宮殿の最奥へと足を伸ばしていった。

「今日は東の島国を覗いてみます・・・今あそこは戦の真っ最中ですから・・・」

「あぁ。また始めたの?好きだよねー人間って戦うことが」

「そうですね・・・。ばかばかしいくらいに同じ事の繰り返しだ」

帝人はだんだんと心が俯いていくのが分かった。同時に顔も俯いていく。
自分がいかに無力化と言うことをこの神殿は思い知らしめてくる。
分かっていながら、知りながら見ていることしかできない自分。
非力で脆弱で、もどかしさだけがどんどんつもっていく。

(僕は人を見殺しにしている・・・)

神の御遣いと言われてた遙か昔。
こんなどうしようもないただの凡人でも何か出来ることがあるのかと心躍らせていた。
結果はどうだ。ただの見殺しをしているだけではないか。

(・・・僕は・・・僕は・・・)

泥沼の思考にはずるずる足を沈みかけていたその時、ぎゅっと痛いくらいに手を捕まれた。

「っ」

その痛さに帝人は顔を歪め、そういえば臨也と手を繋いでいたということを思い出す。
臨也の方を見れば案の定、彼は怒った顔をしていた。

「帝人くん、また馬鹿なこと考えてたでしょ」

「いざやさ・・・」

「あのねぇ。俺たちがもしもだよ?もし、介入できたとしても、人間って者は争いが大好きなの。
 競いたいの。頂点に立ちたいの。そういう生き物なの。だから俺たちがいくら何をしても結局は無駄」

「それは・・・」

臨也の言葉に、帝人は口を閉ざすしかない。
繋がれている手の力を臨也は少し緩めると、今度は帝人の両手をぎゅっと握りしめた。

「帝人くん。帝人くんは優しすぎるよ。それだといつか壊れてしまう。
 ・・・歴代の神柱達も心を壊して自害していった」

「ぁ」

臨也の瞳をよく見れば、赤い瞳は悲しみに揺れていた。
そう、彼は怒ってなどいなかった。ただ、憂えていたのだ、帝人自身のことを。
臨也は、帝人で3人目の神柱に仕えている補佐官だった。
誰よりも近くで、神柱と共にあった人。

「神柱は老いる事がないのだから死ぬこともない。そして、大時計の事しか望んではいけない」

臨也はそっと帝人の頬に手を当てた。耳に掛かる髪の毛を撫で、耳朶の輪郭を指先で追う。

「ある神柱はその遙かなる時に壊れ、またある者は残してきた恋人を思い・・・神に殺された」

「っ」

「俺はね帝人くん・・・もう、嫌なんだ。君たち神柱が壊れていく様を見るのは・・・辛い」

「臨也さん・・・」

帝人は臨也の表情になぜか胸がざわめき、締め付けられるかのようなしびれを感じた。

「それに君はどことなく・・・」

臨也は一旦言葉を区切ると、緩く頭を振る。そのまま華奢な帝人の身体を、その腕で抱きしめた。

「どうか君は・・・君だけは・・・生きて」

「臨也さん・・・」

帝人の腕が臨也の背中に縋ろうとした瞬間、彼はすぐに帝人から身体を離して、また手を繋いで歩き出してしまう。
帝人の腕はその目的も果たせぬまま、臨也に手を繋がれ宙に浮く。
急に腕を引っ張られる形になった帝人はつんのめりそうになったがなんとか耐え忍んだ。

「ちょっ!臨也さん危ない!」

「ほーら。しんみりなんて俺たちには似合わないからとっとと仕事終わらせて昼寝でもしようか~」

「お昼寝したいのは臨也さんですよね!?僕別に眠たくないですからっ」

「あはは~きこえなーい」

「臨也さん!」

臨也は帝人の方を振り返ると、いつもの飄々とした笑みを口元に浮かべながら赤い瞳を細めた。

「がんばりましょうね?神柱様」

臨也が茶化しているのがありありと分かる帝人は、ため息を吐いて臨也に笑い返した。

「そうですね。光速で終わらせますよ補佐官」



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