お兄様が良く出来た弟に物申すぜ
ドイツの伸びて来た腕にプロイセンは反射的に身を捩るが、現役と元現役では体力に差が有りすぎる。ふわりと新しいシーツの匂いが鼻を掠め、プロイセンは焦るがここで怯んではなし崩しになってしまう。是が非でも今後の我が身のためにも主導権は握らなければ、この先、お先真っ暗だ。…プロイセンは自分を叱咤し、敢えてニヤリと不適な笑いを浮かべ、目を細める。娼婦が客を誘うような仕草でドイツの頬を撫で、耳元、唇を寄せた。
「ロシア領カリーニングラード」
ついでに息をふっと吹きかけてやる。その言葉に服を剥がしにかかっていたドイツの指先はぴたりと止まった。
「ロシア、俺のこと大好きだからな。未だに、僕のものになってよ。なんて、会うたびに言いやがるしな。あいつ、あれで大型犬だと思えば可愛いし、もふもふしてて触り心地悪くねぇし、アイツのもんになるのも悪くねぇかもな。お前みたいに俺に無体なことはしねぇだろうし?」
ロシアが自分に向ける感情は純粋な家族愛的な何かで、ちっとも疚しくない。姉、妹に挟まれて育った所為か、おっとりとしているし、まあ時々恐ろしいこともあるが、国の問題が絡まなければ怖がる程でもない。…別にロシアのものになったって自分は構わないのだ。心臓はそこにあるのだから。でも、ドイツが自分を好きだと必要だと言うから、ここにいるだけに過ぎない。好きだから抱きたいと言われて、覚悟までした。だが、ドイツの趣味嗜好に付き合うのとそれとはまったくの別問題だ。…するっとすべらかな頬を指先でひと撫でし、固まってしまったドイツをプロイセンは見上げる。最後の切り札を切った。これで主導権が握られなければ、ロシアに行くか、なし崩しになるかだ。…さて、弟はどうするか?
「…な、」
ドイツは絶句し、青ざめた顔でプロイセンを見下ろした。
「別にお前とセックスするのが嫌だって、俺は言ってるんじゃないぜ?…お前の趣味嗜好にとやかくいうつもりもない。ただ、俺は普通がいいんだよ。…ま、俺とお前は男だから、ちょっと普通じゃないけど、それに更に普通じゃないものは俺の要領を超える。突っ込まれて痛いのはお前のだけで結構。それ以上、我慢しねぇし、お前が無理強い働くってんなら、ロシアに行くか、最悪、消えてやる。さあ、選べ。弟よ、嗜好を取るのか、お兄様を選ぶのか?どっちだ?」
「…………に、兄さん、だ。……もう、馬鹿なことは言わない。だから、ロシアに行くとか、消えるととか言わないでくれ…」
どうにかこうにか、プロイセンを失うことより、自分の性癖を抑制することにしたらしい瞳を潤ませたドイツがプロイセンの胸に縋り付いて来る。…ああ、我ながら、この辺の躾は良く出来たな…と、自分で自分を誉めると、プロイセンは笑みを浮かべ窺うように上がったドイツの目尻を拭った。
「愛してるぜ、ルッツ。お前は俺を選ぶと信じていた!明日は幸い、ゴミの日だったよな?…捨てろよ?」
念を押すのをプロイセンは忘れない。
「………捨てなければ、駄目か?」
躊躇うような素振りを見せるドイツにプロイセンは目を眇め、口端を引き上げる。
「…ロシア領カリーニングラード」
「解った!捨てる、捨てるから、それだけは絶対にやめてくれ!!」
こうして、何とか弟の性癖から逃れることに成功したお兄様だった…。
オワレ!
作品名:お兄様が良く出来た弟に物申すぜ 作家名:冬故