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目隠しの恋

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それ、は唐突にやってきた。
誰の仕業か、なんの作意か。普通の人間であったはずの俺は、どういうわけか平和島静雄にだけ見えない身体になっていた。
俺がおかしくなったのか、それともシズちゃんの方がおかしいのか。
新羅に聞いても、情報網を駆使しても、原因は未だ不明のままだ。
他の人には普通に見えているから性質が悪い。特に変わったこともなく日常だけが過ぎていく。
ただひとつ、池袋に行っても物が降って来なくなった。サングラス越しに皮膚を焼かれるような鋭い視線を浴びることもない。どうやら、声も届かないらしい。
あの平和島静雄と折原臨也が殺し合いをしない、という異常事態は瞬く間に広まった。確認する為に、わざわざ見に来る者も居たほどだ。
だけどそれも、直ぐに治まる。日常とはつまり慣れということだろう。池袋の人々は、標識やゴミ箱が飛び交っていた現象をまるで過去のものとして押しやっている。
果たして俺は、どうしたか。
当然のことながら、このチャンスを活かせないかと画策した。だが静雄が見えないのは俺一人だけ。他の人間では手に負えない。結局自分から動くしかなく、それでも静雄が倒れることはなかった。
本来の勘というやつだろうか。こちらから攻撃すると、恐ろしい確率で応戦してくる。俺の姿が見えないことをどうやらあいつもわかってきたようで、キョロキョロしながら呪いの言葉を吐く。
何度か繰り返すうちに、結局あの化け物を殺すのは無理だということに気が付いた。
ただ見えていないだけで、基本的にはシズちゃんなのだ。刺しても撃っても電撃でも死ななかったような怪物っぷりは、もはやどうにもならない。
ただ、こうしていると今まで見えなかった彼の素顔が見えてくる。当たり前か。今までは俺の姿を見るなり切れていたのだから。
平和島静雄はあまり大げさに表情を変えないが、それでも笑う。怒られればしょげる。誰かを守るときは、脅すだけで本気で切れていないことにすら気が付いた。
くだらない情報だ。こんなものが一体何の役に立つのだろう。
俺は彼に執着するのが馬鹿らしくなった。こうして目の前に立っているというのに、彼には何も見えていないのだ。

「シズちゃん」

自販機の隣に佇む青年は、煙草を吹かしてばかりいる。その横の自販機はとっくに宙を舞っていてもおかしくないのに。

「どうして君だったんだろうね。俺が、君を見ずに済むのなら良かったのに」

シズちゃんは何も答えない。ただゆっくりと煙を吐き続ける。もしかして、わざと見えない振りをしているんじゃないのか。彼にそんな器用な真似が出来るとは思えないけど。
だって、そう思わないとこの感情に説明がつかない。わざとだろう。俺を焦らして遊んでいるんだ。
だってこんな、こんなにも。

(君に気付いてほしいなんて)

知っているのか。君は、今目の前にいる男が、一体どんな顔をしているのかを。
答えてほしい。声を聞かせてほしい。俺を覚えているだろうか。まだ、忘れてやしないだろうか。
手を伸ばせば触れるほど近くにいる。まるで幽霊にでもなった気分だ。
死んだ人間とは、こんな想いを抱えているのだろうか。死んでなお、ずっと。
あぁ嫌だな。そんなことにはなりたくない。こんな想いは、もう十分だ。

「ほんと、むかつくよね」

笑うしかない。俺は顔を覆って笑い続けた。彼が一服を終え、その場から立ち去っても、笑うしかなかった。







「と、いうわけなんだ」

何がというわけなんだ。相変わらず胡散臭い腐れ縁の眼鏡をねめつける。
だいたいこっちはあのむかつく顔を見ずに済んで清々しているのだ。まぁ、直接あいつを殺すことが難しくなったことは残念だが。

「文明の利器は素晴らしいね!表情が見えなくても、言葉なんかなくても通じ合える。僕はこんなものを介さなくてもセルティの考えていることは理解出来るけどね、より綿密な会話が出来るから重宝するよ」

別に俺はあいつと綿密な会話とやらをする気はないのだが。
眉を顰めて黙っていると、新羅が苦笑染みた笑顔をつくった。

「まぁ、登録だけでもしてやってよ。臨也の奴、結構落ち込んでるからさ」

落ち込む?あの殺しても顔だけで笑ってるようなノミ蟲が?
俄かには信じられないが、新羅の言う通り登録だけすれば済む話だろう。最近ではすっかり記憶から消えてしまっているあいつの名前を、三文字、携帯に打ち込んだ。






それから登録したアドレスに音沙汰はなかった。やはりガセだったのか。あのノミ蟲が俺にメールを送るなんて、よほどの天変地異がなければ起きないだろう。
と思っていたのだが、天変地異とは本当にあるらしい。ある日ファーストフード店で朝食をとっていたところ、ポケットに入れっぱなしの携帯が音を立てた。
幽だろうかと開いた画面には、ついこの間打ち込んだ奴の文字が。
驚いて、視線を下に落として本文を読む。そこにはただ一文だけ、綴られていた。

『今日は晴れだね』

果たしてこれは本当に臨也からなのだろうか。訝しみながらも、俺は店の窓から空を仰いだ。
確かに、今日の池袋には陽射しが差している。シェイクを手にしたまま、俺はしばし考え返信ボタンを押した。

『そうだな』

それだけ打って送信する。返事は、直ぐに返ってきた。

『明日は雨だから、傘を持っていくといい』

俺はいよいよもって顔を顰めた。こいつは本当に臨也なのか。あいつは間違ってもこんなことを言う奴じゃないだろう。
それともあれか。おちょくって遊んでいるのか。
あぁそっちの方が奴らしい。馬鹿げていると携帯を閉じかけた瞬間、画面がメール受信に切り替わった。

『君のことだから疑ってるんだろうね。まぁ天気くらい、信じても信じなくても、どっちでもいいけど』

その言い方がとても臨也らしくて、今では懐かしいあいつの声が聞こえた気がした。あのいけ好かない視線すら思い出す。
この送り主は、確かに臨也らしい。
俺はシェイクを啜りながら、もう一度返信ボタンを押した。

『そうだな』

返事はなかった。
次の日、池袋は酷い土砂降りとなった。


作品名:目隠しの恋 作家名:ハゼロ