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Truffle

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薄々は気付いていたのだけれど、ドラコは結構なグルメな美食家に違いなかった。



雪が降りそうな冬のある日、ドラコはマグル界に住んでいるハリーの元を訪れた。
それはホグワーツを卒業してからの久しぶりの再会だった。

ドラコは上質なカシミアのコートの下に黒のスーツ姿で、ぎこちなく挨拶をした。
雑踏の中に立つ彼はいささかフォーマルすぎて、きっと魔法界とコチラとの違いのさじ加減が分からず、そんな格好をしてきたのだろう。
ドラコはその正装に近い服装のせいで、道行く人にじろじろと無遠慮に眺められて、居心地が悪そうに見えた。

ハリーは予想もしなかった相手の、すらりとした立ち姿に、一瞬で目を奪われてしまう。
背が伸びて、成長していたけれど、整った顔立ちはむかしのままだ。

癖のない銀色に近いブロンド。
少し伸ばし気味の前髪から、ほとんどシルバーに近い瞳がじっとこちらを見ている。

卒業と同時にこちらの世界に住むようになって数年がたち、魔法界はもう自分には遠い存在で、日々の忙しさに忘れかけていた。
もちろんドラコのことなど、今まで思い出しもしない存在だったはずだ。

「マグルのビジネスのことで、君に尋ねたいことがある。すまないが、少し時間をいただけないだろうか?」
そう問いかけてくる声は滑らかで、心地よく耳に響いてくる。
丁寧な口調で尋ねる相手からは、自分との過去の確執の片鱗はどこにもなかった。

(断られるかもしれない)という不安気に揺れる瞳は、冬の空と同じくらいに青い光を冴え冴えと映している。
プライドが高く気が強いくせに、どこか気弱なところが見え隠れするのが、いかにも彼らしかった。

ハリーは気付かれないように、ふっと小さな笑みを漏らす。
自分の目の前に立つ相手がとても好ましく映ったからだ。

「ああ、別にかまわないけど」
笑みを浮かべ了解の言葉を口にすると、緊張が解かれたようにドラコも柔らかな笑みを浮かべる。

再会の意味で手を差し出すと、ドラコは躊躇なくそれを握った。
触れると長く形のいい指は思ったより柔らかくすべすべして触り心地がよかった。

心臓が倍速に跳ね上がるのを感じる。
ひどく焦り耳まで真っ赤になりそうなのを必死で押しとどめ、普段どおりの何気ない表情を作ると、相手の話を聞くために手近な喫茶店へ案内したのが最初だった。



それからもドラコはマグル界を相手にしたビジネスについてアドバイスを貰うために、ハリーの元へと度々訪れるようになった。
訪れる回数が徐々に増え、ビジネス以外の話をするようになり、ハリーとの間柄が親密になるにつれて、合わせるように彼もマグルのカジュアルな洋服を身に着けるようになっていった。

近頃ではジーンズにありきたりのジャケットをという、お互いがラフな格好で肩を並べて歩いている。
しかし、いくら普段着で雑踏の中にいてもドラコは、どこか普通の人とは違っていた。
意識せずにドアを開けたりする動作や、フォークの上げ下ろし、物を持ったりするほんのちょっとした仕草から、洗練された育ちのよさがにじみ出ていて、ハリーはそんな上質で優美なドラコの姿を見るのがとても好きだった。

申し合わせた訳でもないけれど、近頃は仕事帰りに待ち合わせて、手近な店に入って夕食を食べるのが恒例になっていた。
お互いの近況を語り合い、ビジネスの話などを絡めて、ディナーを取ることが幾度も重なったけれども、一度もドラコはハリーの誘いを断ったことがない。

ハリーにはそれが嬉しかった。




いつものようにカジュアルなレストランで向かい合い、ハリーはご機嫌に食事を楽しんでいた。
ドラコは店構えが違っていても、内容は同じようなメニューから選んだハギスの皿はやはり代わり映えがない同じような味で、気乗りしないままつつきながら、ポツリとこぼした。

「──トリュフが食べたい」

切り取った肉をフォークで口に運ぼうとしていたハリーは一瞬動きが止まる。

ドラコはホグワーツの頃と違い、成長して、とても思慮深い性格になっていたのに、それでも度重なる同じような『イギリス流の味付け』に少々うんざりし、思わず本音が出てしまったようだ。

ドラコはこの国の保守的で変化に富んだものは受け付けないベーシックな国民性をまったく理解できなかった。
不味いと思ってたらなぜそれに手を加えようとしないのか、なぜ同じような味付けのままずっと同じものを食べ続けることが出来るのか、それが続いて飽きないのかなど、ドラコには数々の出来事が理解不能だった。
彼は美味しいものを探求するのに手間も時間もお金もかけていいと思っているタイプだったからだ。

そんなドラコに対してハリーは逆に、食べ物に文句を言ったことは生まれてから一度だって言ったことがない。
朝昼晩と同じメニューが続いたとしても、味付けが微妙でも、不平は漏らさなかった。
幼い頃叔母の家でかなり制限された食事事情だったため、ハリーは「食べ物だったら、何でも大歓迎」という、雑食主義のスタンスになってしまった。

自分と相手との食の隔たりやっと気付いたハリーは慌ててしまう。
もしかしたらドラコはマンネリ気味なメニューのせいで飽きられて、自分と食事をしてくれなくなるかもしれない。

大変だ!

ハリーはドラコとのディナーをとても楽しみにしていたので非常に焦った。
テーブル越しの相手を見詰めてハリーは、次回の食事のときは必ず彼の望みを叶えようと心に誓ったのだった。


作品名:Truffle 作家名:sabure