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龍吉@プロフご一読下さい
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novelistID. 27579
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マトリョーシカ

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公孫勝の腰帯が抜き取られた。添え木を固定するのに使うらしい。背中に腰帯が回されると、林冲は公孫勝を引き離した。呆然と林冲の顔を見つめたまま、仰向けに横たえられる。腰帯が胸の前できつく結ばれる。
「これでいいか」
林冲は、一仕事終えた風に言った。
しばらくの無言の間の後、林冲が公孫勝の肩に触れてきた。形を確かめるように肩を、二の腕を掴み、鎖骨や脇腹、骨盤、太腿から膝を撫で回していく。
「なんだ、気色悪い」
「お前、割と抱き易そうな大きさだよな」
「は?」
「いや、ほら」
林冲が身を乗り出して来る。さっきの手当のままの姿勢だから、公孫勝の脚は大きく割り開かれている。そこに、林冲の腰があたる。逃げようとした顔の真横に手が置かれる。林冲の余った右手が、公孫勝の顎を捉えた。
「挿れたままでも口づけができる」
「ふざけるのも、大概にしろ」
腹が立って、公孫勝は林冲の鳩尾に蹴りを入れた。
「二回も抱いておいて今更何を抜かしているっ」
「今まではお前の顔と肌を味わうので精一杯だったからな」
恥ずかしげもなく、言い切った。
「それに、今は素面だ」
林冲の顔が降りて来る。
「やめろ。お前が嫌いだと言うのが、分からないのか」
「ああ、分からないな。俺はお前に嫌われている気がしない」
林冲の吐息が肌に触れる。おぞましくて、林冲の顔を手で抑えて押し返した。
指の間から見える林冲の目が、少し不機嫌そうに細められた。すると、林冲は顔を抑える公孫勝の手にいきなり舌を這わせた。
「っひ」
思わず手を離すと、その手を地面に押さえつけられた。水浸しの地面に触れて、じとりと背中が濡れる。
「気持ち悪い、離せっ」
「あ?」
「気持ち悪いって、ん」
悪態を吐こうとした唇を、林冲の唇が押し包んだ。目の前がくらりと揺れる。飲み込まれそうになる感覚に抗って、林冲に向かって歯を剥く。目の前の睫毛がそれにぴくりと震えてゆっくり開くと、公孫勝ほどではないにせよ鳶色の鋭い眼差しが公孫勝を捉えた。
対抗するように、林冲も歯を剥く。お互いに歯に歯を立て合い、乱暴な口付けを繰り返す。
しばらく繰り返した後、林冲が片手を解放し、空いた手で公孫勝の顎を掴んだ。深く口付けられる。
腰から痺れが這い上がってくる。腰が跳ねるのを、抑えられない。
「っ……ふ……」
腰帯を抜き取られた直衣は頼りなくはだけていく。
「触る、なっ……私は、お前なんかに触られる、などっ……んぐ」
林冲が公孫勝の瞳を覗き込んできた。その瞳は、浮ついた色はなく、なぜか悲しそうな色をしていた。
「一言だ。俺を、認めてくれよ」
「寝言なら、自分の部屋で寝ながら言え」
「俺は、お前にだけはありのままで触れ合いたいんだ」
躰をよじって逃げようとするが、添え木のせいで自由に動けない。
「お前の、ありのままの心に触れたい」
「心など、ない。私の心は、あの暗闇に置いてきた」
「囚われているだけだ。お前の殻と、暗闇の牢獄に。それを、俺は解き放ちたい」
頬に、雫が落ちてきた。
雨が降ってきたらしい。額や肩に雨がかかるが、おおよそは林冲によって遮られている。
「お前は、そうやって生きてきたんだよな」
呟くように、林冲が言う。
「そうしないと、生きてこられなかったんだよな」
「何の話だ」
「心を奥底に仕舞い込んで闇で覆って見えなくしなけりゃ、生きられなかったよな」
林冲が唇を噛みしめるのが分かった。
「その時は仕方なかったにしても、お前は多分、未だに自分のために、とか、泣いてやれてないんだろう」
林冲が公孫勝の頬に触れた。
「そんな鎧は、もう要らない」
すくいあげるように、林冲が公孫勝を上向かせた。
「俺が、お前を守ってやる。だから、お前はそんな独房みたいな鎧を捨てちまえよ」
「お前に、貴様なんかに何がわかるって言うんだ……あの絶望の、何がお前にわかるって言うんだ!!」
「わからないさ。わからないけど、お前がそこで泣いてるのはわかる。孤独と絶望にまだ囚われているのはわかる。救われたくて、掬われたくなくて、檻と鎧の中で苦しんでいるのはわかるから。……だから、そこから出してやりたいと思うことは、俺の傲慢だとわかっている。だけど、お前にはもう、苦しんで欲しくない」
ぎし、と胸が軋む音がした。胸のあたりから、躰が熱くなる。
無意識に、林冲の腕を掴んでいた。
「知った風な口を、聞くな……お前が私に、何をできるっていうんだよ……あの時に戻って、あの暗闇から俺を、救ってくれるって言うのか!!」
声が荒だつのを抑えられなかった。思考が纏まらない。胸が痛い。
「そうか、済まなかったな。俺は、お前が一番必要としている時に、側にいてやれなかった」
「見たことか。他人を真に救うことなんか、出来はしない。救われたくない。俺は、この地獄の底から、亡き者たちの屍に埋もれながら、光に生きる者たちを見上げるだけでいい」
「それでも空を仰ぐのは、救われたいからじゃないのか」
ああ、何でなんだ。
一番弱みを握られたくないこいつが、俺が一番欲しい言葉をくれるんだ。
「り、ん……冲」
声が震える。
「俺が過去のお前を救うことは出来なくとも、いまのお前をそこから連れだしてやることはできる」
ああ。
きっとこいつなのだろう。
閉じ込めた心を救い出してくれるのは。
暗闇に落ちた俺を救うのは、限りなく近い暗闇に落ちた真逆のこいつしかいないのだろう。
「林冲」
林冲の衣服に縋り、声を振り絞った。




「たすけて」


どうか、どうか。
誰も気が付かないでくれ。
身に纏ったこの分厚い鎧に。

どうか、どうか。
この空っぽな私の存在を。
気が付いたなら壊してくれ。

いっそのこと。
引き裂いて。
引き剥がして。
身を守る鎧に閉じ込められた、
閉じこもったちっぽけな俺を。

掬わないで、救ってくれ。

ここから出してくれ、
マトリョーシカ。