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娘娘カーニバル 第2章(3)

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銀色の髪をなびかせ、孫権ガンダムは森の中を走り続ける。
(尚香に何かあったら…!)
「おい、孫権!」
後方から呼びかけられ、孫権ガンダムは後ろを顧みた。
「劉備!」
(もしかして、力を貸してくれるのか)
しかし、戦友の姿にその期待は裏切られた。
「…嫌がらせなら帰ってくれるか」
「何言ってるんだ!尚香姫になにかあったらどうするんだよ。あっ、桃花大丈夫か?」
「うん、平気」
「それならいいけどさ。孫権、尚香姫を心配なのはお前だけじゃない!」
わめく海に孫権ガンダムは怒りをあらわに、怒鳴り返した。
「それなら、女の人を抱きかかえて追ってくるな!しかも抱きつかれて嬉しそうだな、おい!」
海は桃花を横抱きにしたまま、追いかけていた。海の走りが早いのか桃花は目を閉じ、海の首にしがみついている。胸があたっているからか海の顔は緩み切り、それが孫権ガンダムの怒りを余計に煽った。
「いやぁ、やわらかいし、いい匂いがするからって!今はそんなこと言ってる場合じゃないだろう!?」
「言わせる状況を作ったのはだれだ!」
「そんなことよりも、お前ひとりじゃ危険だ。こっちの世界の俺に張飛、関羽、孔明それから黄忠さんも手伝ってくれるからもっと俺たちを頼れよ」
言葉の通り、海の後ろには愛紗、鈴鈴、紫苑、朱里が追いかけていた。さすがに朱里は武人ではないため海たちの走りについてこれないらしく、愛紗が背負っている。
それでも、海の締りのない顔に怒気は隠せない。
「なんかいいこと言ってごまかそうとするな!」
「それよりも、あれ!」
急に海は表情を引き締め、瞳を険しく細めた。
纏う空気を変えた海に孫権ガンダムも怒りを収め、戦友の視線の先を追う。
そこには黒い鋼鉄の集団が一人の少女を囲っている。黒い集団に共通するのは皆が黒い帯をしていることだ。帯にはでかでかと“黄巾賊”と刺繍されている。
「ぬぅははははは!弱い、弱いぞ。この世界の者は弱すぎる!」
黒い鋼鉄の武人が高笑いを上げる。ほかの者よりも豪華な鎧、頭には飾りまでついている。
その前には荒い息を吐き出し、片膝をつく尚香が黒い鋼鉄の武人を睨み付けていた。傍には細長い包みが転がっている。
「うるさいわよ、大勢じゃないと何もできないだけじゃない」
「なぅわんだと~!小娘、俺さまを黄巾賊の馬元義さまと知らないようだな」
「知らないわよ。大体、自分に“さま”をつけるなんて馬鹿よ、ば~か」
「き、貴様~、殺してやる!」
馬元義は憤怒の顕わに剣を振り上げた。
切っ先が冷たい光を放ち、尚香へと降り注ぐ。
(しゃお、ここで死んじゃうんだ)
少しでも、怖いものから目を背けたい。尚香は拳を握り、ぎゅっと目を瞑った。
しかし、暗闇の中で男性の声が耳朶を打った。
「俺の妹に手を出すな!」
続いて金属のぶつかり合う音が近くで響く。
尚香は恐る恐ると目を開き、飛び込んできた光景に目を丸くした。
白と水色の鋼鉄の武人が馬元義の剣を受け止めている。
「貴様、邪魔をするな」
「言ったはずだ、“俺の妹に手を出すな”って!」
白と水色の鋼鉄の武人は強く踏み出し、馬元義の剣を振り払う。そのまま尚香と包みを抱え、距離を取った。
尚香は自分を駆ける鋼鉄の武人を見上げた。
白と水色の鎧は金色の装甲がつけられ、黒い武人たちよりも立派でありながらすがすがしい印象を受ける。
空とも新緑ともとれる碧眼は険しいというのに優しげにさえ見え、ある人物を思い出させた。
その瞳は尚香を見た途端に、剣呑さをなくし穏やかに細められた。
「大丈夫か、尚香?」
「もしかして、あんた蒼月なの?」
「あぁ、この姿を見せるのは初めてだったよな」
にこりと笑い、孫権ガンダムは尚香をそっと木の陰に降ろした。
「孫権、早く加勢してくれ。こいつら、三璃紗のころよりも強くなってる!」
敵を退けながら、少女からガンダムの姿へと変わった劉備ガンダムが叫んだ。
「分かった、すぐ行く。じゃあ、尚香はここに隠れてろよ」
孫権ガンダムは黒い武人と戦う戦友のもとへと歩みを踏み出した。
しかし、
「ちょっと、待ってよ!」
尚香に呼び止められ孫権ガンダムは歩みを止めた。
「どうした?あっ、俺に触れられても体が硬くなるなんてことないぞ」
「だれもそんなこと気にしてないわよ、ねえ、どうしてしゃおを助けたの?姉さまたちに嫌われたくないから?それとも…」
尚香は俯き、小さい体を震わせる。
その姿に孫権ガンダムはそっと嘆息を漏らした。小さい頭にそっと手を乗せ、やわらかい髪を撫でる。
「言っただろ“俺の妹に手を出すな”って。俺は尚香を実の妹のように思ってる。だから、守った。妹を、家族を守るのに理由なんていらない、そうだろ?」
話は終わりと尚香の頭から手を離すと、孫権ガンダムは戦友のもとへと走り出した。
尚香はその背を見つめるが、姿がぼやけてきてしまう。
蒼月が来てから、姉たちは蒼月にばかり構っている気がした。だから、初めはちょっとした意地悪をして叱るでも何でもいいから姉たちに構ってほしかった。でも、姉たちは自分よりも蒼月に話しかけていったから意地悪を繰り返した。そしたら引っ込みがつかなくなってしまった。そうすればますます姉たちは構ってくれなくて、蒼月が嫌いになっていった。
でも、本当は自分も蒼月にいろいろな話を聞きたかった。
同じ名前の三璃紗の尚香のこと、三璃紗の江東のこと。
本当は仲良くしたかった。
でも、意地悪をしてしまったから、蒼月には嫌われていると思っていたのに。
蒼月は妹だと言ってくれた、守るのに理由はいらないと言ってくれた。
尚香は強引に目をぬぐい、大きく息を吸った。
「家出したり、避けたりしてごめんなさい!しゃお、姉さまたちを取られたように思ったから。あとでしゃおのこと真名で呼ばしてあげるから、蒼月姉さま許してくれる!?」
精一杯の声に孫権ガンダムは一瞬だけ目を丸くした。しかし、すぐさま笑顔を向ける。
「許すもなにも俺は怒ってないよ」
再び背を向けて走り出す孫権ガンダムに尚香も笑顔を向けた。


劉備ガンダムは黄巾賊の一人を蹴り倒した。
「くそっ、倒してもきりがない!」
悪態をつきながらも劉備ガンダムは龍帝剣を横へと払い、また敵を倒す。
愛紗も獲物を低く振い、黄巾賊の足を掬っていく。
「ああ、まったくだ。海、後ろ!」
愛紗の一声に劉備ガンダムは後ろを振り返った。そこには別の黄巾賊の一人が正に背中に剣を振り降ろそうとしている。
(これは、かわせない)
とっさに腕で受け止めようと構えたが、ある武者の影が間に入ってきた。
「蒼洸壁!」
やわらかい蒼い光が広がり、黄巾賊をはねのける。
「大丈夫か、劉備」
逆光でもわかる戦友に劉備ガンダムは余裕の笑みを浮かべた。
「遅いぞ、孫権」
「悪い、尚香を安全な場所に移してたんだ。それよりも、これを受け取ってくれ」
差し出されたのは尚香が持っていた包みだ。
「これなんだ?」
「開ければわかるさ。劉備の大切なもの」
包みの布をはぎ取り、現れた姿に劉備ガンダムは息をのんだ。
青い刀身に龍の文様。
「これって、爪龍刀!」
「それがあったほうが便利だろ」
「あぁ!」
劉備ガンダムは二降り愛刀を構えた。
孫権ガンダムは戦友の構えを眼の端に捉え、蒼光壁を解いた。