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まあこんな理由で古臭い呪歌は子供のころから死ぬほど叩き込まれてきたし、お家芸のようなものだったが、リクトがここでヘタに歌うのは問題があった。
「3年前にもお願いしたんですがね、ミスター・カークランドは素晴らしく朗々たる歌を歌ってくださいました」
その言葉に思わずぎょっとした。リクトには3つ年上の兄がいる。リクトとは違い、優秀で賢くイケメンの兄は分家筋の喧しいおっさんやおばさんにも一目おかれるような完璧な人間だった。そのまま兄のことを延々と語りだしそうな先生の雰囲気に白けた表情を浮かべると、隣に座っていたエドガーが痺れを切らせたのかリクトを教室の前に突き出した。この野郎あとで覚えてろ。この時たまたまリクトの表情を見てしまった運の悪いグリフィンドールの生徒がひっと声を上げた。
さてどうしよう。歌なんて数年ぶりである。(正しくは6歳以降、親にもう歌わなくてもいいといわれた)祭り上げられたのはしょうがないが下手なことはできないし、結局リクトは昔聞きかじった花の蕾が満開に開くとかいう需要があるのか無いのか微妙な歌を適当に歌ってみた。教室に花はないし、大して魔力も込めなかったので何の効果も出まいと高を括っていたといっていい。
結果を言うと、歌の効果は抜群だった。植物はなかったから蕾がいっせいに花開くという幻想的な光景は見られなかったが、代わりに前のほうでぼうっとしていたグリフィンドールの頭に花が咲いた。比喩じゃなく物理的な意味で。
いやまさかありえない嘘だろ。というかこれは僕のせいなのか?なんだ新手のどっきりか。それにしたって無理があるだろこの展開。先生さえ唖然としている。いやグリフィンドールなんて元々頭に花が咲き乱れてるような奴らばっかりなんだから誰も気にしやしな「ってポッタアアアァァァァ!何してる抜くな!」
リクトが現実逃避に走っている最中グリフィンドールの頭に咲いた花に興味津々で手を伸ばすポッター。視界の端に映ったエドガーなんか机を叩いて大爆笑している。ほんとにお前あとで覚えとけよ。
独白(主人公視点)
リクトの一族は美形一族だ。いや、少し語弊があったかもしれない。本家筋に近づくほど美形率が上がる。ここにもカークランドのご先祖の呪われた血が関係していた。そもそもカークランド家の呪いは数百年前の当主がセイレーンと結婚したとかいう訳のわからない伝承が発端だった。セイレーンとは元来その美しい容姿と甚大魔力で人々を惑わせ連れ去ってしまうという魔物である。その血を継ぐカークランド家の子孫は先祖返りが激しいほど魔力が高い。つまりセイレーンのようにびっくりするような美しさを持った子孫は大抵魔力の保有量も大きい。もっと簡単に言うと、美形=有能。
失礼な話だがカークランド家の集まりでは殆どの場合顔で力量が知れる。リクトの父、つまり現カークランド家当主は文句なしのイケメンで、兄もそうだった。家族で唯一妖艶なセイレーンとはかけ離れた少女少女した容姿の母と、その母にそっくりなリクト。一族で誰よりも魔力の強い母は何故かいつまでも十代の小娘のように若々しかった。もはや38でティーンエージャーと間違えられる母に化け物じみたものさえ感じる。リクトは自分の未来の行く末を案じて戦慄した。
親戚や鼻の効く純血一族の連中はことあるごとに女顔で発育の遅いリクトを馬鹿にし、兄や父におべっかを使った。分家でもそこそこ力のあるものは居て、そういった奴らは必ずリクトを目の敵にしていた。そういったわけで数年来、リクトは狡猾で手段を択ばないスリザリンらしく分厚い猫を被った疑り深い人間に成長した。つまり、何が言いたいかというと、イケメンと金持ちとリア充は爆発すればいいのに。これに限る。