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サルベージ短編三本

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掌にはじっとりと汗をかき、指先は震えてしまっている。恋心とは人をここまで情けなくさせるのかと、自嘲しつつもゆっくりと開いていった。

「…なんだ?これは……。」

中に入っていたのは手触りの良い綿でできた布の塊。
巾着を横にあったソファの背凭れに置き、改めて持ち直し広げた。

「…………パンティ?」

裏返してみたり、電球にかざして見たり、ありとあらゆる角度から検分してみる。
可愛らしい純白のそれはどう見ても女性用のショーツだった。
パンティと口からは出たものの、そこまで大人びてはいない、お腹まですっぽりと包み込んでくれそうな小さな布切れは妙に子供子供していて、街中を巡回している時に水浴びをしている幼児がつけていたから知っているという程度のあり意味希少価値が高いシロモノ。
臀部にひよこの模様が来るらしい。
実際ロイが触れた事があるのは高価な素材でできた、つける意味があるのか無いのか解らないレースだらけのものばかりだったので、ちょっとしたカルチャーショックだ。

これの持ち主は間違いなく少女なのだろう。
エドワードの初体験の相手だろうか。
早過ぎやしないかと言いたくもなったが、ロイ自身初体験は現在のエドワードの年齢より若く済ませてしまっていたために余計苦々しい表情になる。
大人びたものでなくて良かったような、悪かったような。それでも目の前に突き付けられた事実に胸が酷く痛むのだけは間違いなかった。

まるで自分を誤魔化すように足を苛々と揺する。
これが嫉妬から来るものなのだと解るからこそ、自分とエドワードとの間には超えるには高すぎるハードルがあるからこそ、ロイはその感情を違うものに変換しようとしたのだ。

「ふん、こんなものを男に持たせる女の気が知れん。」

いや、そんな事する馬鹿がこの世にいるのか?
いるかもしれないが、それは10代の子供ではないはずだ。せいぜい遊びすぎて嗜好が偏った年増か商売女…。

「まさか…。」

そっと布の表裏を逆にしてみる。
使用済みかそうでないかを確認する為だ。
馬鹿な事をしている自覚はあったのだが止められなかった。
「わからんな…。」

使用時間が短いのか、体質なのか、クロッチの部分は未使用のようで。
恋に狂った男は、思わずそれを鼻先まで持ち上げた。

「ぎゃああああああああああああ!!!!」
「!!!」

突然耳を劈いた叫び声に慌ててショーツから顔を離し、その方向に顔を向けると、怒りと衝撃と羞恥が綯い交ぜになった複雑な表情で顔を真っ青にしているエドワード。

「ちが…鋼のっ!これは…」
「大佐が俺のぱんつの匂い嗅いでる~!うわぁぁぁん!!」
「は?」

女性用下着の匂いを嗅いでいる現場を愛する子供に目撃されたとか、今はソレより何か重要なことを言われた気がする。

俺のぱんつ…俺のぱんつ??

「ちょっと待ちたまえ!君女装癖でもあったのかね?!」
「ある訳ねぇだろ、俺は女だ!っざけんなぁぁぁっ!!」

騒ぎを聞き付け、執務室の外から慌しく足音が聞こえてきた。
しかし一つの思考に脳の働きを奪われた男は微動だにしなかった。
遠くで叫び声は聞こえ続けるが、それより先程ほんの僅かな時間に嗅いだ甘い匂いが忘れられない。

そう、あれは確かに使用済みだったのだ。

エドワードは女、それだけで壁など無くなったも同然で、心の中は正に花畑。
蝶が舞い飛ぶ原色の世界だった。
ここで告白しなくていつするのだろうか。

「鋼のっ!実は…っ!!!」
「そこまでです。現行犯逮捕…でよろしいですか?」

絶対零度の声色が脳の隅々まで伝達され、我に返ると、ロイの周囲には銃を構えた部下達の姿。
ホークアイなどは目前まで迫り、眉間に銃口を押し当てている。
これみよがしにセイフティを外す、ガツンという衝撃が全身に響き、漸く己の現状に気付いたのだった。


その後一命を取り留めたロイが、エドワードに何度と無く告白をするが、全て「どっか行け変態!」と邪険に扱われ、その反動で隠れて使用済み下着を物色するようになったのはここだけの話し。




おわり
作品名:サルベージ短編三本 作家名:pana