つかんで、はなすな
俺の問いから空はすすーっと目を逸らす。
「別に。私気にしないもん」
「だから、俺が気にするんだ」
そのあとに続く「バカ」の台詞まで、ヤマトと俺の声はきれいにかぶった。
妙な空気。妙な迫力。きょとんとしていた空が、そのままの表情で謝った。
「……ごめんなさい」
「ま、でもさ、誰にもとられずにそこにあるんだったら、結果オーライだろ?」
俺は笑って、ヤマトが手のひらに持て余しているそれを奪い取ってみた。
「あ」
ふたりの視線を集めたら、子供っぽい思いつきが浮かび上がってきて俺を動かした。にやりと笑って自分の荷物を引きよせて、立ち上がるより前に走り出す。ヤマトが伸ばした手をすり抜けて。日陰から日向へ。
「太一!」
俺を呼ぶ声。ちょっとだけ振り向いた。
怒るでもなく慌てるでもなくただ呆れている一組のカップルがそこにいる。なんだかひたすら愉快な気持ちが湧いてきて、笑いだしたら止まらなくなりそうだ。
右手を掲げて宣言する。
「石田ヤマトの第二ボタンはいただいた! 返してほしかったら俺を捕まえてみろっ!」
カップルの表情が慌て出したのは、俺の背後で生まれた女子たちのどよめきのせいだろう。
鬼ごっこはたぶん、大勢のほうが楽しい。
とりあえず俺は味方を探さないと。光子郎とか、呼び出したら来てくれるだろうか。