良い人
良い人
ほら、よく言うだろ?
『好きな人に良い人って言われたら、脈なしだって』
なら、好きな人を見て、『良い人』だと思う場合はどうしたらいいんだろうか?
「ほんと、どうしたらいいんでしょうね~??」
「どうかしたのか??イクミ」
「んにゃ?ん~別にコレといってどうもしてないですよ昴治君!」
「そうか?なら良いけど、お前ってすぐに無理するからな・・・ほどほどにして休めよ?」
「は~いい。」
そうそう、こうやって、誰にでも細かく心配してくれる所なんて、本当に『良い人』だよね?
でもさ、俺は、誰にでも優しい良い人が欲しいんじゃないんだ・・。
誰にでも平等に優しい昴治。
君の一番になれる人は一体誰なんだろう?
悔しいけれど、それが自分ではない事ぐらいは分かる。
例えば、『弟』
例えば、『幼馴染の女の子』
例えば、『一目ぼれした子』
例えば、『一番心を許している、この艦のスフィクス』
例えば、『以外に憧れているらしいあの男とか・・・。』
たとえば・・・・
誰がなってもおかしくないのに・・・
誰がなってもおかしいと思う。
これ以上無い位の『良い人』を好きになった時点で、この思いの結末は決まってるのかもしれない。
特別な人を作らないで下さい。
□■□
「俺って本当にわがままなんですね~。」
ふ~っと、わざとらしくため息をつきつつ、イクミは窓の外を眺めた。
窓といっても、このリヴァイアス艦は当然宇宙にいるわけで、何時もと代わり映えの無い、空間が広がっているだけだ。
「まあ、そうそう昴治に特別な人は出来ないだろうけど・・。」
成り行き上付き合いだした、幼馴染の女の子と別れたのはつい最近のことだから、そうそう彼女なんて者は作らないだろう。
昴治の性格上、そんなことはしないと思う。
まあ、思うだけで、実際には一度前科があるだけに断言は出来ないのだが・・・それでも、イクミとしてはそう願いたかった。
「失礼な・・・。お前一体人を何だと思ってるんだ?」
「・・・あれ?昴治君??」
「ったく、こんな夜中までこんな所で何やってるんだよ?」
「いや、ね~??人生についてちょこっと??」
「何で疑問系・・ってか、俺に聞くなよ・・・。」
「まあまあ、で?昴治君は何でこんな所にいるんです?」
「ん?ああ。さっきそこで女の子にこれ渡して欲しいって頼まれてさ・・・。」
ばつが悪そうに、そっぽを向きながら、昴治はちょうど手の甲に乗るほどの大きさの包みをイクミの方へと差し出した。
「??なんですか?これは・・・。」
「しらん。てか、イクミに渡してくれって頼まれたんだよ。」
「ああ・・・。そう言う事ね。別に断っても良かったのに。」
「・・・・・。」
昴治が沈黙する時は大抵言い訳を考えている時。
っと言うことは、断ったが、押し切られた・・・っととるのが妥当だろう。
『良い人』な昴治には頼まれると断る事が出来ないから・・。
たとえ断っても、本当に頼られていると感じたら、手伝うくらいなら・・と、最後には協力してしまうのだ。
「君・・・もう少し押しに強くなった方がいいんでない?」
「ほっとけ!って、誰のせいだと思ってるんだよイクミ!」
「ええ~?まあ、今回は俺のせい??」
「・・・・もういいよ・・。」
は~と疲れたようにため息を又一つ吐いた昴治はそのままイクミの座っている窓際までよってきて隣に座る。
「何か見えるのか?」
「ん~?まあ、なんと言うかゲドルト・・?」
「いや・・・そんなもん見てて楽しいか?イクミ。」
「・・・・楽しいと思う?」
又一つ昴治は飽きれた様にため息をついてそのままその背をソファーに預けた。
「最近お前なんか考え事してる・・・。」
「・・・・。」
「何か有ったのか?」
「・・・何でもないですよ・・。」
「嘘だろ?イクミは嘘つくとき下向くから分かりやすい。」
「あはは~。昴治君ったら、そんなに俺の事見てくれてるんですか~?イクミ君感激!」
「茶化すな・・・。で?さっきのあれはなんだったんだ?
あえて『あれ』という辺り少し根に持っているようだ。
「ああ・・・あれね・・・。」
別に昴治に特別な人が出来て欲しいわけじゃない。
むしろ、自分でない奴が昴治の特別になるなんて考えるのも嫌だった。
「別に深い意味はありませんよ~。」
「深い意味もないのに人に大切な者がないみたいに言ったのかよ!」
予想道理、ふくれながら拗ねた様に少し口を尖らせて講義する昴治を他所に、『だって居ないじゃん・・・』なんて心の中で考えつつイクミは少し昴治から視線をそらせた。
「・・・・居たらどうするんだよ?俺に特別な奴。」
「え~?居るの?なら~昴治の特別な人はイクミ君でしょう??」
冗談めかして言ってみる。
自分でない事なんか百も承知で、優しくていい人な昴治は優しい嘘はつくけど、後々人が傷つくような嘘は言わないから、自分のそんな冗談のような会話にもまじめに返答をくれる事がわかっていた。
昴治なら本当に冗談で言っているのか冗談のフリをしているのか位わかるから・・・
それがわかっていて、冗談のように言う俺は本当に昴治に甘えていると思う。
たとえ昴治に本当に特別な人が居てもそれはきっと自分じゃない。
基恋人の幼馴染・一見仲の悪そうな弟・殺されかけてもまだ気にかけている少女・昴治に懐く不思議なこの艦のスフィクス
その誰か・・・。
って・・・あれ?
まてよ・・・?
殺されかけたのにまだ気にかけている・・・・・
あれ??
それって・・・・・・
俺にも当てはまる・・・のか?
でも、そんな都合のいい解釈して良いのか??
ファイナがそうだからって・・・俺もそうとは限らないよな・・?
誰か一人・・・この中で昴治の特別な人がって考えていたけど・・・誰がなっても違和感があって、誰がなっても違和感がない・・・なら・・・俺がなっても違和感がない?
無いわけないけど・・・・・
昴治の中じゃ・・・
「うん。正解。」
「え・・?」
「だから正解。」
「俺の特別は・・・・イクミだよ?」
「え・・あれ?え??えええ?」
「何だよ・・・///悪いのか?それとも・・嫌だった?」
「そんな!嫌だなんてそんなこと有るわけないっしょ!」
「本当か?」
「本当です!」
「そっか・・よかった。」
安心したように笑う昴治の笑顔が今まで見たどれよりもまぶしく見えるのは目の錯覚だろうか?
ってか、そんな上手い話って本当にあるのか!?
「・・・・イクミは?」
「は・・はい!って・・え??」
「だから・・・イクミはどうなんだよ!ずるいぞ!自分は冗談っぽく済ませるの!大体、何だよお前最近悩んでたのこんなことか!?」
飽きれた様な目でみてくる昴治にどう反応して良いのかわからなかった。
「こんな・・・って・・・結構俺にとっては重要な事だったんですけど・・・?」
「なら、ちゃんと告白しろ!!///」
「・・・昴治君?」