C+2
【Breakfast】
「なにコレ?」
起き抜けの不機嫌そうな宣野座がテーブルを指差した。大きな欠伸を一つして席に着く姿は、まだまだ眠そうだった。いつもの宣野座らしくはないが、低血圧らしく朝は弱いのだとよく言っている。その姿は意外だがらしくも思え、また普段見せることのない表情と仕草が新鮮で、そんな姿を見せてくれることが嬉しくも思う。
「朝食だけど……」
だが、自身が作った料理を不満そうにされるのは少し公麿には腹立たしかった。確かに、対して料理は上手くはない、宣野座に比べれば天と地ほどの差はあるが食べられない物を作っているわけではないのだからあの言いぐさは気に障る。
「それは判るけど…… なんだろうって思ってね」
テーブルの上に置かれた料理は確かに珍妙だった。一見、フレンチトーストと言えば見えなくもないが、厚切りのトーストにスクランブルエッグの出来損ないを乗せたような物体だった。
「あっ、えっと……、玉子焼きトーストかな?」
厚切りのパンの中をくり抜き、耳だけになったものをフライパンで焼く、それを囲いにして中で卵を焼くのだ。スクランブルエッグのように掻き回して、その上に切り取ったパンで蓋をして両面を焼いた物だ。今回は少し贅沢してチーズも入れてみた自信作だった。
「ものぐさ過ぎない?」
全てをフライパン一つで、そして一回の調理で済ませようと編み出した料理であるからそう言われると立つ瀬がない。
「合理的だろう」
今まで黙っていた三國の助け船がとても公麿には嬉しかった。
「目玉焼きトーストよりかは、マシだけどね」
食べにくいんだよ、あれ。と宣野座は笑っている。
三人が揃い三國が手を伸ばそうとした瞬間、公麿は声を上げた。
「待って、三國さん」
「んっ?」
顔を上げた三國の前に公麿は握ったケチャップを翳した。
「三國さんには……」
そう呟きながら玉子焼きトーストの少し焦げた玉子の上に、ケチャップでハートマークを描いていく。
「ありがとう」
ケチャップみたいに赤く染まった三國の言葉に、釣られて公麿も赤面すれば面白くなさそうに宣野座が声をあげた。
「僕にはないのー」
「あっ、悪りぃ今、やるよ……」
そうして、公麿が書き込んだマークに宣野座は少し困った表情を浮かべている。
「僕はどうしてスマイルマークなんだい?」
「似てるからいいだろう」
判らないと肩を竦める宣野座は、生真面目に応える三國をギロリと睨んだ。
「どういうことかな、まっいいけど、あっ、壮一郎」
「なんだ?」
「余賀くんのもやってあげようよ」
「そうだな」
二人はケチャップのボトルを掴むと、それを一番焦げ目が酷い公麿のトーストの前に翳した。
「せーの」
という宣野座の言葉と共に、ブチュッと音を立ててケチャップは大きな水溜をトーストの上に作っている。
「もう、壮一郎は力入れすぎなんだよ」
「すまない」
宣野座に言われたことよりも、すまなさそうに公麿に向かって三國は頭を下げている。
「その気持ちが嬉しいからいいよ」
そう笑ってから公麿は言葉を続けた。
「冷めないうちに食べてよ」
その言葉に三人は同時に声をあげた。
「いただきます」
【終】