ラ・ピュセル
「今なら、君の言ったことが少し分かる気がするよ。」
あれから随分と時間がたって、時代は変わった。異端者と呼ばれた彼女は聖女となり、俺は王国から共和国へ。
「未だに、これは自分の意思なのか、って考えることがない訳じゃないんだ。でも、俺は俺だ、って思えるようになったんだ。」
あの時、彼女を助けたいと俺は思ったけれど、それは国王の望みではなかった。
皮肉なことに、それが “自分の意思”を意識したきっかけだった。
「悪友と悪ふざけしたり、腐れ縁とバカみたいなケンカしたり、能天気な弟分の頭撫でてやったり…ああこれは俺がやりたいからやってるんだな、って思うことが増えたんだ。」
彼女は、自分の意思で戦うことを決めたと言っていた。彼女はあれで満足だったのだろうか。
彼女には、もっと別の、もっと幸せな生き方があったのではないか、そう思うことがある。
様々な人に出会い、様々な人を見送り、別れには慣れているつもりだ。それでも、自分の隣にいた人を見送る時に感じるのは、どうしようもない寂寥と喪失だった。
「悪友がいて、腐れ縁の昔馴染みがいて、仲間がいて、俺を慕ってくれる国民がいて…たぶん、俺は幸せなんだと思うよ…。」
「………ねぇ、君は幸せだったの?」
ぽつり、と漏れた俺のつぶやきに答える声はなかった。
ただ、ただ―――キラキラと水面に光を反射させて、河はゆっくりと流れるだけだった。
「もし、もしも、また生まれてきてくれるなら……どこの国でもいいよ。俺のところじゃなくたって構わないから…―――どうか、どうか、幸せに…」