Ⅴ-Five
自分の症状全てに一致してしまう病気、タークス病。
それはジョン・タークスが発見した病気で、不治の病。
進行を遅らせる薬はあるものの完治することはなく、発病して約7年で命を落とす。
症状としてはまず味覚消失。
この段階で進行を遅らせる薬を服用しつづけた場合、寿命は約1年ほど延ばせる。
だが、厄介なことに味覚消失以外に異常はなく健康体であるために発見しにくく、
ストレスによる味覚消失との区別がつかない。
そのため進行を遅らせる薬が使われるケースは少ない。
味覚消失後は安定し、食事以外では普通に暮らせるのも1つの要因だろう。
そして最後の1年と呼ばれる1年でめまぐるしく症状が悪化する。
味覚だけでなく、痛覚、聴覚、視覚…感覚器官という名の全てが奪われていく。
内臓機能も一気に低下し、寝たきりとなる。
そうして感覚を失った暗闇の中死んでしまう。
まさかと思った。
体の震えがしばらくとまらなかった。
調べていた全ての資料を机の上から投げ飛ばしても恐怖は消えなかった。
信じない。
ありえない。
嘘に決まってる。
でも何処かで感じる確信めいたもの。
そんなの吹っ飛ばしてほしかった。
誰かに違うと言ってほしかった。
「現実ってどうしてこんなに厳しいんだろな。」
診察室に悲しげに響くエドワードの声に医師もイズミも何も返せなかった。
自分で調べた結果だけなら、なんとでも自分を騙そう。
だけど、第三者にそう言われてしまったら…
また恐ろしい結果に1歩近づいた。
「エド、詳しく調べてもらうんだ。」
「…これ以上近づきたくねぇ。」
エドワードの本音だった。
気づいてしまわなければよかったのに、
調べてみなきゃよかったのに、
ただ、ただ前だけを見ていたかった…
足元なんか見なきゃ良かった・・。
そんなエドワードにイズミは容赦なく怒鳴りつける。
「逃げるんじゃないっ!!!!!」
「・・・」
「エド…お前は一人じゃないんだ。」
「…分かってる。」
イズミはそっとエドワードを抱きしめた。
その温もりにエドワードは涙を堪えることが出来なかった。
「・・・っ・・・」
声を押し殺し、気づかれないように静かに泣いた。
医師からタークス病を専門にしている病院の紹介状を受け取り、その場を後にした。
紹介された病院はセントラルにあったので、
イズミは同行すると言ったが、エドワードはそれを断った。
アルフォンスにも話すべきだと言ったのだが、それだけは頑なにエドワードは拒んだ。
イズミも簡単に折れたわけではない。
だが―――
先生、俺は何処かで確信があるだ。
俺は…俺達は間違いを、罪を犯した。
許されないことをしちゃったんだ。
手足を失って…これは警告だったんだ。
全てを奪われたアル、
力を残された俺、
きっと真理は俺を試したんだ。
だけど、俺は貪欲に前に進んだ。
進んじまった。
その事に後悔は無い。
でもきっと、これはその罰なんだ。
それでも俺は諦めない。
やり遂げたいこと、
やりたいことも…あるから。
このままじゃ死なない、死ねない。
先生、俺・・好きな人が出来たんです。
だから大丈夫。
もっと強くなります。
もっと強く。
絶対にアルの体は取り戻す。
でも、もし俺が間違ったやり方をしても、
きっとその時はそれしか無いと判断したんだと思うから。
…どうしても破門するってんなら俺だけにして下さい。
こんな秘密を抱えさせてごめん、先生。
どうか最後まで見守って下さい。
深く頭を下げたエドワードが、ぐにゃりと歪んで見えていた。
エドワードの言葉から悲しみや苦しみや悔しさ…決意。
それが伝わってきてイズミは頷くほかなかった。
「ありがと先生。」
見ているこっちが泣きたくなるような笑顔だった。