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花曇り

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桜が咲き始めると空はどんよりと薄暗く翳ってゆく。今日もまたそうだ花曇りだ。あたらしい場所に足を踏み入れたばかりのこどもたちが緊張に顔をはりつめながらでもきらきらと輝かせて満開の桜並木の下を歩いている。俺にもあんなころがあったのかなと疲れて曇った眼で彼らを見る。ずっと輝き続けるのはしんどいことだ。輝きは段々にうすれて、まわりに埋もれて、曇り空の下に咲く桜のようにうすぼんやりとした存在になっていく。俺もきっとそうだ。教師なんて職を選んだ理由も今じゃよくわからない。たぶんあのころはそれがいいと思ったんだろう。こどもが好きなわけでもないくせに。


こどもを見るのはきらいだ。
心の奥底に眠らせていた嫌なきもちを思い出す。
こどもがきらいなわけじゃない、ただ自分が幼かったころのことを思い出して胸が痛むんだ。今の俺はこれでいいのか、そんなばかげた不安ばかりが頭をよぎって仕方ない。こんな俺にこどもを指導する資格なんてものはないんだろう。けれど資格なんてなくても今日も俺は教壇に立ってこどもたちに明日を教える。生き方を定義する。つまらない人間が、つまらないことを垂れ流しているだけだ。寝ている生徒はとてもかしこい。こんなこと頭に入れるだけ無駄だ。そう教えてやりたいくらいだ。
鬱々とした気分で伏せた瞼をあげると、しろく輝く頭が目に入った。きれいだ、そう思った。その頭は春の曇り空の下でもきらきらと瞬くように輝いていた。ふいにその頭が動いて目が合った。その瞳は何も考えていないように見えて、何もかもを見透かしているようにも見えた。その瞳が俺を見据えていた時間、それはとても長いものに思えた。赤い瞳はしばらくのあいだ俺を見ていたようだったがそのうち興味がなくなったようにすいと目をそらしていった。俺は、自分のくだらない思考を読み取られ諦められたような気がして軽い絶望感を感じた。今になって思えばおかしな話だ、見詰めるだけで思考を読めるはずがない、それも初対面の人間だ、俺のことなんかわかるはずがないしそんな興味を持って見たわけでもないだろう。だが俺は自分のすべてを見透かされたような気がした。それが、12も年下の、坂田銀時とのはじめての出会いだった。



「てめー俺のことばかにしてんだろ、そうだろそうなんだろそうなのはわかってんだよなんだこのテスト。なんだこの課題。『はなくそほじくってる土方先生の図』じゃねえんだよ、他の先生の科目でこれ出すっておまえ、俺のことばかにしてんだろ」
「せんせー被害妄想激しいんじゃないですか」
「被害妄想じゃねーよおまえ、だってこれ描いてんじゃん!バッチリ描いちゃってんじゃん!!『土方先生はなくそをほじるの図』!!」
「せんせーちがいまーす『土方先生はなくそをほじるの図』じゃなくて『はなくそほじくってる土方先生の図』でーす」
「どっちでもいいわ!!!!…とにかくおまえ居残りな。これ決定だから。決定事項だから」
「えー」
「えーじゃねえよ、決定事項です。放課後教室でひとり残っといてください」
「…せんせーアレじゃねえの、そんなこと言って放課後ふたりっきりの教室で俺にえっちいことするつもりなんじゃねえの」
「んなッ…!なわけねえだろ!!」
「あッ動揺した!ウワーウワーせんせーやーらしー。ひくわー。セクハラ反対!!」
「…てめーな、覚えてろよ。俺はてめーのンなうすっぺらい体なんかに興味ねえんだよ」
「んなこと言ってせんせー貧乳好きじゃん。筋浮いてる足とか好きじゃん」
「適当抜かしてんなよ殴んぞ」
「つかさ、」
俺の顔好きじゃん。ぐいっと身を乗り出した坂田は俺に耳元でそうささやき、それじゃまた気が向いたら放課後にーとか言って職員室から出て行った。



しろく輝く髪を持った赤い瞳の少年は俺の受け持つクラスの生徒だった。名前は坂田銀時。銀時って。ヘンだろ。いや言わねえけど。こどもの名前は、親が有無を言わさずにできる最初で最後のお願い事だ。しかしそれにしてももうちょっとなんかなかったのか。や、まあそれはいい。それはいいとしてだ。
坂田は不思議な少年だった。どっか飄々としているというか、纏う空気が違うとでもいうのか。他の生徒とふざけあったり笑いあったりはしている、クラスに馴染めないというわけではない。が、休み時間になるとフラリとどこかに出て行ったりする。俺はなんとなくそれを目で追ってしまっているわけだが、それは担任として受け持ちの生徒のことが気になるからであって断じて他意はない。ないと言いたい。坂田は授業中は大概寝ている。寝ているからくがきをしている。もしくはマンガを読んでいる。要するに授業をマトモに受ける気は全くないということだ。他の先生方にも話を聞いたがどこでもそんなに変わりはないようだ。つまるところの問題児。だが成績だけは妙にいい。テストの点がよすぎるのだ。平均が96点みたいな、そんな感じ。しかもテストの時間に見ていると(これも他意あってのことではない)、大体最初の30分程度で済ませてしまってあとはらくがきに精を出しているというところだ。これでまともな絵が描けるんならちょっとはアレだがひどい出来な上に内容が上で話した内容なので俺としてはもう最低だ。担任として非常に微妙なきもちだとかそんな話ではなくもう正直むかついてくる。他の生徒ならこんな一々尖ったりしないのだが。ああちくしょう。


「せんせーおっ待たー」
待っとけっつたのに、放課後、坂田は俺が職員室から必要な資料とかとってきて教室に入ってから短く見積もって1時間は経ってからやってきた。何様のつもりなんだ。はあ、と思わずためいきを吐く。
「せんせ、ためいき吐いたらしあわせが逃げていきますよ」ただでさえ薄幸そうな顔してんのに、と坂田が何の感情もこもらないような顔でなんでもなさそうに言うので、こちらも「余計なお世話だ」となげやりな気分で返す。
「おまえ、HRのあとどこ行ってたんだよ。雲隠れしやがって」
「んー長谷川さんが自転車ぶっ壊れたから直してって言うから直しに行ってた」
これだ。こういうところがあるから余計にむかつくのだ。何の他意もない人のよさみたいな。俺がどうやっても持てなかったそれが。
「…ねーせんせー」
「…なんだ」
「なんでせんせーは俺のことそんなふうににらむの」
「…そんなふうってなんだよ」
「俺のこと嫌い?」
俺の顔好きなくせに。そう言って坂田がすねるような顔をしてみせるから、俺はむっつりとした顔を崩さぬまま、「きらいだよ」と言ってやった。
「なんで?俺なんかした?」
「あのな坂田、いいこと教えてやるよ。人ってのは訳もなく人を嫌いになることがあるんだ。訳もなく人を好きになることがあるのとおんなじようにな。世界の比率っていうのはうまくできてる。この世界のうちの2割は、おまえが何をやってもおまえのことを嫌いになる人間だ。んで6割はおまえの行動によって好き嫌いが分かれる人間。そして残りの2割がおまえが何をしてもおまえのことを好きでいてくれる人間。素敵な話だろ?」
「で、せんせーは俺が何しても俺のことを嫌いになる人間だって言いたいわけ?」
「そういうことだな」
「でも俺はせんせーのこと好きだよ」
作品名:花曇り 作家名:坂下から