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【シンジャ】甘い運命【千夜一夜サンプル】

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(始まり部分略)

第一章 Manggis

 焚火の周りでは、楽師が奏でている太鼓【タブラ】や弦楽器【ウード】などにあわせて、派手な衣装に身を包んだ女性が踊っている。しなやかな動きで踊っているそんな彼女たちを酒を片手にシンドバッドが見ているのは、美しい模様が織り込まれている絨毯の上である。体を預ける為の座布団が並んでいるそんな絨毯の上には、豪華な料理や酒などだけで無く水煙草まで並んでいる。
 去年は自分だという事が一目瞭然である金属器を外し、平均的なシンドリアの民が着ている服を着て、シンドリアの民と同じ視線で祭りを楽しんだ。今年も去年と同じようにシンドリアの民と同じ視線で祭りを楽しんでも良かったのだが、今年はこの国の王として祭りを楽しむ事にした。
「もう一杯如何ですか?」
 盃に入っている香辛料【アニス】で香り付けがされている蒸留酒【ラク】を飲み終えると、直ぐに隣からそんな声が聞こえて来た。草花模様の美しい七宝焼きの容器を手にそう自分に対して言って来たのは、先程から隣に座っている美しく着飾った女官である。
 自分の側にいるのは、執務室を共に離れたシャルルカンとマスルールだけでは無い。シャルルカンがここに来る途中一緒に飲みに行こうと誘ったスパルトスと、美しく着飾った女官たちがいた。祭を見に行くのでその用意をしてくれという事を廊下で会った臣下に告げたが、酒の席の花となる女官を用意してくれという事は言っていない。言っていないというのに彼女たちがここへとやって来たのは、誰かが気を利かせて彼女たちを呼んだからなのだろう。
 酒の席に呼ばれるような女官だけあって、やって来ている女官は皆華やかな美人であった。
「そうだな」
 自分の返事を聞き、銀色の長い髪を後ろで一つに纏めている女官が、手に持っている器に入っている酒を空になっている盃に注いでいった。彼女の酒を注ぐ仕草は慣れた物であったので、酒の席によく出ているのだろう。彼女ほどの美人であれば、酒の席に呼ばれるのは当然だろう。
 そんな彼女の姿を見てまず思った事は、ジャーファルと同じ髪の色をしているという事であった。自分の周りにいる銀髪の者はジャーファルだけでは無い。今ここにいるシャルルカンも同じ銀髪をしている。それにも拘わらず、銀髪の者を見た時は必ずジャーファルと同じ髪の色をしているという事を思っていた。
 銀髪の者を見た時他の者では無くジャーファルの事を思い出してしまうのは、彼との付き合いが十年以上にも及ぶ物だからだろう。ジャーファルの事を思い出した事によって、彼が今何処で何をしているのかという事が気になって来た。
 早く仕事を終わらせたというのに、祭に行かず王宮に籠もっているという事は無いだろう。この近くにいるかもしれない。この近くにいた場合、仕事を放り出して祭にやって来ている事を彼に知られてしまう事になってしまう。そう思いながらも、焦りは一切感じていなかった。
 見つかってしまった時はその時であるという事を思っていた。
「王サマ。私にも注いで下さりませんか?」
 ジャーファルの事を考えていると、横から媚びた甘い声が聞こえて来た。酒を注いでくれた女性がいる方向と反対の方向にやって来た女性の方を見ると、整った顔立ちをした彼女から微笑み掛けられた。美しい女性に微笑み掛けられて目尻が下がらない男はいないだろう。
「勿論だ」
「狡いですわ。私にも注いで下さい」
 斜め前に置いてあった酒の入った器を手に取ると、反対側から僻むような声が聞こえて来た。
「後で君にも注いであげるから安心したまえ」
 つむじを曲げた様子へとなっている彼女の肩を抱きながらそう言い、手に持ったままとなっている器を先程やって来た女性へと向かって差し出す。それを見て盃をこちらへと向けた彼女の盃に酒を注いだ後、今度は肩を抱いたままとなっている女官の方へと器の口を向ける。
「ほら」
「有り難うございます」
 既に盃を手に持っていた彼女は、酒を注がれるとそれを一息で飲んでしまった。
「もう一杯いただけますか?」
「私にももう一杯注いで下さい」
 一息に盃に注がれている酒を飲んだというのに全く顔色を変えていない女官が甘えた声で言った後、もう片方の女官が背中に片手を回して来ながらそう言った。そんな彼女の行動に負けていられないと思ったのか、自分に肩を抱かれている女官も背中へと手を回して来た。
「相変わらずモテモテですね」
 羨ましそうな声で言って来たシャルルカンの方を見る事によって、先程まで彼の側にいた女官がこちらへとやって来ている事を知った。
「モテるんだから仕方なかろう」
「何で王サマだけ! 一人だけ狡いですよ」
 態と余裕のある態度で言うと、不満そうにしてシャルルカンがそう言った。そんな彼の発言を聞いて横に座っているスパルトスが呆れたような様子へとなったのだが、その事へとシャルルカンは全く気が付いていない様子であった。それを見て、一層シャルルカンをからかいたくなった。
「そう思うならお前もモテるように努力しろ」
「これでも努力してるんですがね……。何が足り無いんですかね? 包容力ですかね?」
 真面目な様子で彼がそう言った事から、本気で努力しているのだという事が分かり笑いがこみ上げて来た。頬が自然に緩んでしまった事により自分が笑いを堪えている事に気が付いたのか、急に不服そうな様子へとシャルルカンがなった。
 シャルルカンの事であるので、この後溜まっている鬱憤を晴らそうと先程から自分たちの会話に一切入って来ようとしていないマスルールに絡むに違いない。最初は大人しくそんなシャルルカンの話しを聞いているマスルールなのだが、これ以上相手にしていられないという所まで来ると反撃に出るに違いない。いつもそうなので今日もそうなるに違いない。その時の様子を考えながら手に持ったままとなっていた器を置き、酒の入っている盃を手に取る。
 シャルルカンと話しをしている間に自分から体を離した女官たちは、大人しく自分の横へと座りいつ話し掛けられても良いように待機していた。話しが終わったというのに彼女たちが自分に話しかけて来なかったのは、今は話し掛けるべきでは無いと判断したからだろう。酒の相手は、容色が優れているだけでは出来無い仕事である。明晰な頭脳を持っていなければ出来無い仕事である。その為、酒の席に出て来る女官は、皆容姿が整っているだけで無く聡い女性であった。
 心を穏やかにして高価な蒸留酒を飲んでいると、絶え間なく聞こえて来ていた音楽が急に止んだ。その事から、もうそんな時間になったのかという事を思った。
 音楽が止んだのは儀式が全て終わったからでは無い。最後の儀式がこれから始まるからだ。先程まで女性たちの姿があった焚火の方を見ると、そこには誰もいなくなっていた。
 去年民に紛れて見た素晴らしい舞踏を思い出しながら最後の儀式が始まるのを待っていると、先程までそこにいた女性たちよりも更に露出の多い格好をした女性が姿を現す。今年もこの祭りを締めくくる舞踏を披露するのは彼女のようだ。