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【シンジャ】甘い運命【千夜一夜サンプル】

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 丈の短い上着【チョリ】から胸の直ぐ下から腰の辺りまでを晒し、横に深い切れ目がある腰より下を覆う筒状の衣服【ガグラ】を着た彼女は、目から下を隠す為のフェイスベールをしている。その為彼女の顔は不明瞭な物であった。しかし、彼女が去年と同じ人物である自信があった。それは、金色の髪飾りによって飾られた髪の色が去年見た彼女の髪の色と同じ物であったからだけでは無い。貨幣を模した物が裾に付いた美麗な衣装から覗いている体が、去年見た彼女と同じであったからだ。
 彼女の姿を黙って見ていると、止んでいた音楽が鳴り始め手に持っている大きなベールを使いながら彼女が舞い始めた。音楽に合わせて舞っている彼女の腰には、貨幣を模した物が付いたヒップスカーフが巻かれている。硬貨を模した物がぶつかる音がここまで聞こえて来る事は無いという事は分かっているのだが、舞っている彼女の姿を見ているとその音が聞こえて来ているように感じる。そんな風に感じてしまったのは、彼女の踊りがそう感じさせるほど巧みなものであるからだろう。
「巧いですね。簡単に踊ってるように見えますけど、かなり激しい踊りですね」
 ベールだけで無く指に付けたジルと呼ばれる楽器を使いながら踊っている彼女の姿を見ていると、シャルルカンのそんな言葉が聞こえて来た。シャルルカンも彼女の踊りを見て巧いと思ったようだ。
「細いがかなり筋肉が付いてる筈だ」
「その割には胸はありますよね」
 シャルルカンのその言葉を聞き彼の方を見ると、全身を隈なく使い踊っている彼女の胸へと注目しているシャルルカンの姿があった。
 シャルルカンの先程の台詞は、普通の男の台詞である。それにも拘わらず彼の発言を聞き驚いたのは、胸に全く興味が無い事を知っていたからだ。シャルルカンが胸に全く興味が無いのは、彼の国では胸は性的な物を感じる部分では無いからだ。彼の国で性的な物を感じる部分は、臍だそうだ。腹部を露出した格好を彼女がしているというのに、シャルルカンが彼女の姿を平然と見る事が出来ているのは、臍の部分に装飾品を付けている為臍が見え無くなっているからだろう。
「お前が胸に注目するなんて珍しいな」
「あれだけ細いのに、あれだけ胸がある女の子は珍しいですからね」
 あそこまでの細さであれだけ胸がある相手が珍しかったので、シャルルカンが珍しく胸に注目しているのだという事がその台詞から分かった。
 休む事無く焚火の側に敷いてある絨毯の上で神に捧げる舞踊を踊っている彼女は、胸に興味が無いシャルルカンが注目してしまうほど細いというのに胸が大きかった。
「あれは詰めてるだけだ」
「何で分かるんですか!」
 聞こえて来たシャルルカンの声は驚いたものだった。
「あれだけ細くてあれだけの胸を保ってる事ができる筈が無いだろ。あれだけ細くてあれだけ胸がある相手と今度会った時は、本物かどうか疑った方が良いぞ。何か詰めてる者が殆どな筈だぞ」
「へー流石、七海の女ったらしですね」
「誰が七海の女ったらしだ」
 七つの海を攻略している自分は、七海の覇王と人から呼ばれている。それを捩り自分の事を七海の女誑しと最初に言ったのは、先程から全く自分たちの会話に入らず黙々と酒を飲んでいるマスルールである。マスルールが自分に対してそう言っているのを聞いて、シャルルカンまで自分の事を七海の女誑しと言うようになってしまった。
 そんな風に言われるほど女遊びはしてない。失礼だと思いながら素晴らしいだけで無く扇情的な踊りを見ていると、踊り子と不意に視線があった。王として祭りを見ているので、自分の存在に彼女が気が付いても何も不思議な事では無い。王である自分が見に来ている事に気が付いたのだと思いながら見ていると、彼女はこちらを見ながら踊るようになった。
 彼女の姿は自分を誘っているかのようなものであった。そんな彼女の姿に目を細めていると、何事も無かったかのように、彼女はこちらを見るのを止めて先程までのように踊り始めた。
 やがて舞踏が終わり、音楽が止まり踊るのを止めた彼女がその場から立ち去る。そんな彼女に向かって贈られている拍手を聞きながら、近くにいる女官に声を掛けた。
「閨に来て欲しいと俺が言ってると、彼女に伝えてくれないか」
「王サマ! 職権乱用ですよ!」
 自分の言葉を聞き透かさずシャルルカンがそう言って来た。
「職権乱用して何が悪い。それに、俺は強制はするつもりは無いぞ。来たく無いのならば来なくても良い。来なくとも、彼女が誰なのかわざわざ調べて何かするつもりは無い。そこまで暴君では無いからな」
 シャルルカンに対してだけそう言ったのでは無かったので、言った後踊り子に伝言を頼んだ女官に視線を移した。
「彼女にそう伝えておいてくれ」
「分かりました」
 姿勢を正し顔の前で両手を組み頭を下げながらそう言った女官は、すっとその場から立ち上がるとその場を離れていった。
「それじゃあ、俺も行くか」
 彼女が自分の誘いに乗るか乗らないかという事は分からなかったが、王宮へと戻り彼女を待つ事にした。
 絨毯から腰を上げその場から立ち上がりそのままその場を離れるつもりであったのだが、その場を離れる前に二人へと言っておかなければいけない事がある事に気が付いた。
「ジャーファルにはこの事は黙っておいてくれ。あいつに知られると、何を言われるか分かったもんじゃ無いからな」
「確実に説教コースですね」
「……分かりました」
「分かりました」
 シャルルカンの言葉の後、マスルールとスパルトスが呟くような声でそう言った。
「そういう事だから黙っておいてくれ。三人もほどほどにして帰って来いよ」
「分かってます」
「はい」
「……はい」
 三人の答えを聞いて、今度こそその場を離れた。
 三人に先程ああ言ったのは、妻帯者以外の八人将には王宮に部屋を与えており、皆王宮で生活しているからだ。勿論、その中にはジャーファルも含まれている。部屋へと戻る途中ジャーファルと遭ってしまうような事になれば、仕事を放り出し外へと飲みに行っていた事を知られてしまう事になってしまう。ジャーファルと遭ってしまうような事にならなければ良いのだがという事を思いながら、王宮へと戻って行った。



 賑やかな声や音楽が窓の外から聞こえて来ている。祭り最後の儀式は終わったのだが、随所で催されている宴は毎年朝まで続く。その為、祭りの翌日は青い顔をしている者の姿を多く見る事が出来る。去年は自分もそんな顔になっていた為、王宮を抜け出し朝まで飲んでいた事をジャーファルに知られ彼から説教をされる事になってしまった。女官に運んで来て貰った酒を飲みながら、去年の事を思い出し溜息を吐いた。
 王宮へと戻った後、廊下を歩いていた女官に部屋へと酒を運んで来て欲しいという事を言ってからこの私室へと戻った。頼んでいた酒を持って女官がやって来たのは、邪魔になる金属器を外し楽な格好になった時であった。酒を私室の一番奥にある手入れが施された庭が見える部屋へと運んで貰い、閨へと誘った彼女を待ちながら先程から酒を飲んでいた。
 こんな時までジャーファルの事を考える必用は無い。今はジャーファルの事は忘れて彼女の事だけを考える事にした。