虫の息.3
「窓を開けてもいいかな」
「構わんが、いいのか?」
「?……ああ、もういいよ。何だって、どうだっていい」
どうせあんたはもうすぐいなくなるんだから。
歌うように妙な抑揚でアカギは言う。いなくなって、俺の目の前からは消えるのに、ここからはきっと消えないんだ。
「どうしてくれる?それとも、ここは俺がどうしてくれようかなんて言ってみようかな」
「アカギ……?」
「……ああ、もうあれが開くよ。窓を開けて……あんたにも見せてあげる」
あんたの最後の桜だよ。
そして俺には最初で最後になるのかな。
言うなり、アカギの腕が大きく振るわれ、はめ殺しになって不揃いな板で覆われていた窓が壊された。
あんたを連れて行く、最後の桜だ。
何の感情のにおいもさせず、聞かせる気もないようなアカギの言葉に惹かれるように、市川は立ち上がり、記憶の中にある窓の方へ歩を進めた。
まだ立てる。
まだ歩ける。
まだ間に合うなら、お前に言っておきたいことがある。
見えない目に感じる薄ら明るさに向かって、市川は口を開いた。