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愛と友、その関係式 第18,19,20話

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愛と友(ゆう)、その関係式
<下>終始

第十八章 遠い過去、近い未来

 新学期に至って進級するまで、美奈子は紺野とも鈴鹿とも会うことはなかった。
 その事実に美奈子は内心ほっとしていた。もし会ったとしても何を話していいか解らなかったからだ。しかしながら、紺野と目が合って、あんな風に逃げるように帰って無反応という訳にもいかないだろう。
 紺野は鈴鹿に話したのだろうか? 鈴鹿はどう思っているのだろうか――。
 気にしてはいけないと思うほど、鈴鹿と紺野が気になっていった。公園でたたずむ二人が繰りかえし蘇り、胸がチクチクと痛む。その感情は決して幸せと言えないもので、そうでないことが悪事であるように美奈子は感じた。
 実際、そうだろう。紺野が嫌いなわけじゃない。鈴鹿には幸せになってもらいたいと思っている。なのに、鈴鹿と紺野の関係が上手くいっているとして、美奈子が負の感情を抱くのはあまりにも理不尽だ。
 他人の幸せを妬んでいるのだろうか?
 それこそ、なんという浅はかさ。
 ”姉ちゃん、顔が真っ青だぞ。姫条となにかあったのか?”
 言葉が蘇る。自分の感情をかき乱すのが姫条以外であることに罪を感じた。

 そんな折、四月の進路相談として担任の氷室教諭に放課後残るように言いわたされた。理由はかんばしくない成績と白紙の進路希望書のせいだろう。
 向かう先は進路指導室で、高校三年生はこれから約一年ほどお世話になり続ける場所だ。
「失礼します」
 美奈子が一礼して入室すると、すでに先客が一人いた。今、もっとも合わせずらい顔だ。
「和馬」
 名を呼ぶと、部屋の中央におかれた長机とセットのパイプ椅子にふんぞりかえって座る鈴鹿と目が合う。
「よぉ」
 鈴鹿が軽く片手をあげる。美奈子も片手をあげ返した。
 ――多少はむくれているが、鈴鹿の態度と雰囲気は至っていつも通りだ。
 紺野が話さなかったのだろうか?
 美奈子は少々の疑問を抱きつつも、やぶ蛇になりかねないので口を噤んだ。
「氷室先生は? ていうか、和馬も?」
「ん、まあな。来る前に氷室とちっと話したんだけど、俺とお前にスイセンが来てるらしいぜ。んで監督が今から来て詳しい話をすんだとよ」
「へぇ」
「つーかよ、何で立ったまんまなんだよ。すわんねぇのか?」
 扉の前から一向に動こうとしない美奈子をいぶかしんで、鈴鹿は眉をひそめた。
「あ、うん。そうだね」
 美奈子はぎこちなく微笑んで、鈴鹿と椅子を二つ挟んだ隣へ座る。
「やけに遠いな」
「そう?」
 ますます不信そうに呻く鈴鹿に、美奈子は誤魔化すようにふふと笑った。
「失礼する」
 と、声がして扉が開く音がした。二人が同時に視線を向けると、そこには紙の束を脇へかけた氷室がいた。眼鏡の奥の瞳が美奈子の姿をとらえると冷たく光った――気がした。
「揃ったようだな。結構」
 眼鏡の真ん中を押しあげて、二人の間へ歩み寄ると抱えていた資料を長机に置く。
「監督はどうしたんだよ」
「――本田先生はいま手が放せる状況ではないらしくてな。もう少ししてから来られるそうだ」
「ふぅン」
 鈴鹿はそれ以上の興味を失ったようだ。くるりと氷室に背を向ける。
「ときに小波」
「はい!」
 美奈子は脱力していた背筋を伸ばした。
「君にはまだ話をしていなかった。肝心の君の進路だが――」
 氷室は積まれた紙の束の一番上から一枚だけ手に取る。難しい顔をして、氷室は紙と美奈子を交互に見比べた。
「絶望的だ。進学するにしても、就職するにしても」
「……はぁ」
 今までの成績を考えると、氷室の言葉は妥当なので美奈子は驚く仕草を見せずに頷いた。代わりに、小さく噴きだしたのは鈴鹿だった。
「あ、何わらってるの!?」
 美奈子はめざとく見つけると口を尖らせる。鈴鹿は頭の後ろで両手を組むと、悪びれないで笑った。
「わりぃ、つい」
「そんなこといって、和馬だって私と同じでしょ?」
「俺はいいんだよ。バスケ留学するからな」
 氷室を挟んで言い合っていると、コホンと大きな咳払いで止められた。氷室は鈴鹿と美奈子、双方をギロリと睨みつける。
「君たちは五十歩百歩という言葉を知っているか?」
 すかさず美奈子が鈴鹿を指さす。
「和馬が百歩ー」
「はァ!?」
 がたんと鈴鹿が勢いあまって立ち上がると、いよいよ氷室は鬼の形相に変わった。
「不毛な言い争いは止めなさい。いいな」
 ゆっくりと噛み砕くように氷室が言うと、場の空気が凍りつく。
「……はい」
 鈴鹿がしぶしぶと座って、美奈子は肩を竦めて小さくした。
「君の成績では何もかも絶望的だ。が、部活での功績は目をみはるものがある――」
 語る氷室の眼光がほんの少しだけ優しくなる。
「少し時期は早いが一流体育大学から推薦の話がきているらしい」
 入学してから氷室の悩みの種であった問題児”小波美奈子”の栄誉ある推薦は、担任としての安堵、そして喜ばしいことなのだろう。
 美奈子にとっても、実のところ推薦の話は寝耳に水の出来事だった。
 バスケという競技、女子の部門はお世辞にもメジャーとは言いがたく特化している大学もなければオリンピックの競技でもない。そして、日本にプロリーグは存在しないのだ。そんな世相のなか、高校のバスケでめざましい結果を残したとしても、推薦に大学側のメリットはないに等しい。美奈子だって入った当初から期待していなかった。
 ――何故? 疑問はつきないが、こんな良い話を美奈子が蹴る道理はない。
「もちろん、インターハイ出場。ひいては全国制覇が条件であるらしいが」
「――はい」
 美奈子は深く頷いた。挑戦する価値が大いにある未来だ。
「そうか。――頑張りなさい」
 氷室も何処か嬉しそうに頷いた。紙の束の中から、また数枚の紙を取り出して美奈子へ渡す。
「これが資料だ。あとの詳しい話はバスケ部顧問の本田先生が話してくれる。……と」
 氷室は腕の時計を見咎めて表情を曇らせた。
「もうこんな時間か。もう一人の問題児が心配だな」
 氷室は素早く机の上を片付けると踵を返して扉へ向かった。扉へ着くと、再び鈴鹿と美奈子へ向きなおる。
「君たちの将来の話だ。――しっかりと訊き、考え、結論を出しなさい。以上」
 そして、氷室は失礼すると呟いて扉を閉めた。コツコツと規則的な足音が遠ざかっていく。
 美奈子と鈴鹿は顔を見合わせた。
「もう一人の問題児って姫条くんかな」
「だな。それ以外かんがえられねぇ」
 くくっと鈴鹿は楽しそうに喉を鳴らした。
 
 その後、数分と待たずにバスケ部顧問の本田教諭が進路指導室へ到着した。大まかな話は氷室から聞いていたものとほぼ同じだった。
 一流体育大学への推薦には、インターハイ出場及び全国制覇が条件であること。裏をかえせば、すべきことは優勝ただ一つということだ。
 ただ、鈴鹿は首を縦にふることはなかった。もちろん、インターハイで優勝するのは当たり前で、そのうえで推薦の話を蹴るということだ。
 本田教諭はしきりに鈴鹿の説得を試みてはいたが、結局は実ることがなく進路相談は終わった。
「失礼しました」