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愛と友、その関係式 第18,19,20話

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「……ごめん。何でもない」
「そっか。んじゃあよ、マジで気にすんなよ」
 爽やかに言って、鈴鹿が雑草を踏む音がした。
 姫条は咄嗟に手近な体育館の壁へ身体を張りつかして、鈴鹿が通り過ぎていくのをやり過ごす。
 完全に鈴鹿の足音が消えたのを見計らって、姫条は紺野をうかがった。
 紺野は肩を落とし、自分のつま先をじっと見つめていた。しばらくして、小さく肩が震えているのに気がついた。紺野は顔を覆う。
「いえない。まだ、いえないよ」
 女の子が泣いている。慰めなければ男がすたる。それに、紺野は姫条の知らない何かを知っているのは確かだ。
 が――姫条は動けなかった。
 紺野に訊くのが怖かった。たまらず、踵を返す。駆けてきた道を走って戻る。階段をかけあがり、屋上の扉を蹴り開けた。
 屋上には誰もいない。姫条は安心してフェンスに歩みよると、鉄線に指を絡ませて前めりに体重をかけた。ぎしりと軋んだ音がして、鉄線が指に食いこむ。
「――何で」
 チリチリと痛む。
 進路指導があった日、人目もはばからず抱きついてきた美奈子。
 ここ最近、ずっと避け続けている場所。
 紺野が言いたかった事。
 言葉の意味。
 全部が全部、一つの点に繋がれている。ここ最近、ずっと靄がかかっていた思考が次第とはっきりしていった。
 美奈子の心が揺れている。無意識だとしても。
「無理、してたんやろか……。今、苦しい?」
 目を細めて遠くを見つめ、静かに瞼を閉じる。
「鈍いからな。……自分でも解らんのちゃうか」
 暗闇のなかで瞼の裏に浮かぶのは美奈子の笑顔だ。
 もし、このまま姫条が知らないふりをしたとしても、美奈子はいつか気づくのだろう。そして、そのとき美奈子は今よりもずっと深く傷つくに違いない。
 どうしたら、美奈子が幸せになるのか?
 考えて、ふと悲しそうな顔をする美奈子が浮かんだ。
「せやかて……俺」
 終わりにしたくない自分と、美奈子を幸せにしたい自分。
 ――気のない女を追いかけてなんになるんや。
 言い聞かせたところで納得できる筈もない。
「あかん」
 姫条は鉄線から指を離し、屋上の床へ座り込むとフェンスに背を預けて空を見上げた。
 空は雲ひとつなく、何処までも高くみえた。
 
21話へ続く