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キネマトグラフ【大正パロ】

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 美しい時代は儚い。
決して声に出せるものではなくて、仙蔵はその代わりにふうと冷たいため息を冬の空気にのせて吐き出した。
寒気は凍てついた道路を這い上がり、道行く人を芯から凍らせる。一角の、人々が見向きもせずに素通りする喫茶店の前で仙蔵は足を止めた。
 見た目には悪くない店なのに、と仙蔵はハイカラな煉瓦造りに目を細めつつ独りごちる。煤煙で壁が真っ黒に煤けたこの喫茶店はその怪しい胡散臭さが洒落た雰囲気を醸し出していて面白い。
しかし。仙蔵は一歩店に入って、西洋菓子の甘ったるい匂いにむせ返りそうになる。所詮この店の良いところは外装のみで、雰囲気は場末の喫茶店そのものである。心もとない灯りの揺れる下には、貧弱な椅子と机が窮屈そうにひしめきあっていて、そこには一人二人の客が乾いた日差しに照らされているのみ。こうも寒々しいと、自動車や飛行機という想像付かないほど早い乗り物と一緒にやってきた大正という時代に取り残された、この田舎町を象徴しているように思えた。
 静まりかえった店の中でただ一つ音を奏でるのは薄汚れた蓄音機。流れてくる曲のその調べは使い古しで安っぽいのに、歌手の悲痛な声と執念の染み入るような詞はどこか惹き付けられる。新しい時代と共に颯爽と流行している、悲恋を嘆いた男女の心中を計った歌だと仙蔵は思い出した。