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キネマトグラフ【大正パロ】

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文次郎が言った。
「前も言ったろ、親父も薦めてくれたんだ」
「うちの学校のほうが名門だ」
 遮ってぴしゃりと言った一言に、ぼんやりとしまったかな、と思った。
文次郎のしかめられた眉がますます寄って、彼はそのまま沈黙してしまったのだ。顔には出さずに、失敗したとも、元々お前が悪いんだと内心で私は文次郎を責めていた。
 今、仙蔵はひき止めたかった。何としてでも彼と一緒にこの孤独にして美しい時代を過ごしたい、でも声高にそんなことを言うのは天より高い己のプライドが許さない。
 空虚の眼中に、ふと指の宝石が目についた。べったりと指紋だらけの黒に映っている仙蔵の顔は能面のようなのにこの石の中の自分は切り刻まれて身体中から血を流している。
 欲しくない。いらない。
こんなもの、どうだっていい。
 自分を飾り立てるのは世界のどこを探しても他に無い。焦がれるように熱く、しかし触れても硬いばかりの、滑らかな光沢を持った、この黒に他ならない。
欲しいのは、目の前の彼だけだというのに。
 蓄音機から流れる男の歌声が耳に痛い。騒がしいのに寂しくて、それでいてとても美しい、まるでこの時代そっくりの歌。
歌詞の男女のように恋を失うよりは何もかもを投げ打ってでも結ばれたいと、一度でもどちらかが口にしたなら果たして叶ったのだろうか。
仙蔵の冷ややかで機械的な理性は愚かな男女を嘲笑ってもいたし、そして同時に泣いて喚いてしまいたいような衝動を堪えながら、何か言いたそうな文次郎をじっと見つめていた。紅茶の湯気の向こうにいる彼は、確かに目の前にいるのにまるで夢の中で見ているようなぼやけたものと映った。