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みそっかす
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novelistID. 19254
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生まれ育つもの

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夕方。赤に黄色に橙、紫や藍の色彩が空を染め上げている。いつまでも帰ってこない子ども達を迎えに行くのも日常となっている。家々から漂ってくる夕飯の匂いに、今日の夕飯は何にしようかと考える。
(本格的に主婦の思考になってきたな、俺も)
 そんな己に内心苦笑するが、悪くないと思う。美味そうに食べる子ども達の顔を見るのは確実に自分の喜びとなっていた。まさか自分にそんな感情があるとは思ってもみなかったが。
(いや、違うな)
 あったのではなく、生まれたのだろう。赤ん坊だった子ども達を育てていく中で、おそらく自分の中でも生まれ、育ったものがあるのは確かだった。
 しかし、それがただの情なのか、親としての愛情なのかはまだ判断がしかねた。いくら自分が育てているとはいえ、祓魔師と言う立場を忘れていない。もしも燐が覚醒したら、おそらく自分は躊躇うこともせず殺せるだろう。
(可愛いと思っているのにな)
 そんな自分に嫌悪感を懐くようになったのは、いつからか。
 苦い味が口内に広がった気がして、小さく首を振る。今はそれよりも、子ども達を見つけることが先だ。早くしないと本格的に夜になってしまう。
 何処で遊んでいるんだと、耳を澄まし、辺りを見ながら歩いていると甲高い声で言い合っている声が聞こえた。
「……また、燐がやらかしてるのか」
 小さく溜め息をついて、足早に喧噪が聞こえる方へ向かう。言い争っている場所は公園だった。数人の子ども達がこちらに背を向けて、なにやら叫んでいる。おそらくその向かい側に自分の子ども達が居るのだろう。けれども、言い争う声は予想していた子どものものではなかった。
「だってホントのことだろ!」
「そんなことないっ! ぜったい、そんなことない!」
「雪男! おちつけって!」
 普段は泣きながら燐の後ろにいる雪男が肩を怒らせ、凄まじい剣幕で怒りを爆発させている。そして、いつもは真っ先に相手に向かっていく燐が、弟を後ろから羽交い絞めにして、何とか落ち着かせようと宥めている。
 滅多にない光景に驚きながらも、まずはこの場を治めることが先だ。
「おいお前達。子供はとっくに帰る時間だぞ。夕飯誰かに食われても文句は言えねぇぞ」
「っやば!」
「にげるぞっ!」
 大人に見つかったことにバツが悪くなったのか、子ども達は一目散に逃げていく。
「気をつけて帰れよー」
 彼らの背中に声を掛けながら、いまだ子ども達が逃げていった方向を睨み続けている雪男と、そんな弟の背中を撫でて落ち着かせている燐に向かい合う。
「雪男が怒るなんて珍しいな。どうした?」
 しゃがみこみ、視線を合わせながら優しく尋ねれば、雪男は昂った感情に耐え切れなくなったのか、怒りの表情から一変、大粒の涙を流しながら抱きついてくる。
「っう、ひっく、うぅ、とぉさん!」
「おいおい、どうした。泣いてちゃ分からん」
「にいさんがっ、しんじゃうって! ぼくよりさきにしんじゃうって!」
 小さな背中を宥めてやりながら尋ねれば、雪男は叫ぶように答えた。留まることのない涙と嗚咽をこぼしながらぐりぐりと胸に顔をうずめてくる。どういうことだ? と燐を見れば困ったように頬をかいていた。どう説明したらいのか考えているようだ。
「もう日が暮れる。事情は帰りながら聞くぞ」
 泣き付かれてすでに腕の中でぐったりとしている雪男を背負い、右腕で支えながら、左手を燐に伸ばす。
「さぁ、帰るぞ」
「…うん」
 皮膚が硬くなり骨張った手を、まろやかな小さな手がそっと握り返した。

 帰り道。背中の雪男は泣き疲れて眠ってしまった。意識がなくなってもまだ軽く、こんなに小さいのに、よくあんな激情が秘められていたものだと感心する。
(いや。雪男はいつだって燐が一番だからな)
 だからこそ、祓魔師になることを決めたのだから。
『燐を守る』
 この言葉に嘘はない。けれども他の思惑がないわけでもなかった。
(もしも燐が覚醒してしまったとき、少しでもこちらの戦闘力があった方が良い)
 確実に、青い炎を消し去るために。
 そんな心の内を綺麗な言葉で包んで、一途に兄を慕う雪男に与えた。そして、雪男は疑うこともせず、飲み込んだ。
 罪悪感はなかった。
 雪男が祓魔師になることを決意し、学び始めたのはつい先日のことだ。前よりはマシになったもののまだまだ泣き虫で、身体も丈夫だとは言い難い。それでも雪男のなかで何かが変わったのだろう。だからこそ、今日は珍しく喧嘩をしていたのかもしれない。
 そして、雪男を止めようとしていた燐にも驚いた。まだ断片的なことしか知らないが、おそらく燐のことで口論になっていただろうに、怒って相手に立ち向かうのではなく、なんとか弟を宥めようとしていた。
「今日はどうしたんだ? いつもはお前が相手に食って掛かるのに、雪男を止めてるなんて珍しいじゃないか」
「んー…。あいつらが、しぬのはとしうえからじゅんばんだっていったんだ。雪男はからだがよわいからすぐしんじゃうけど、おれは雪男のにいちゃんだから、もっともっとはやくしんじゃうんだって」
「なんだそりゃ」
 子どもの解釈とは随分事実を捻じ曲げて頭に入れるようだ。どこから突っ込んでいいものか。とりあえずは間違った知識を直さねばなるまい。
「あのなぁ、子どもが身体が弱いってのはよくあることだ。でっかくなるにつれて段々丈夫になってくるから、そう易々と死にやしない」
「じゃあ、雪男はすぐしんじゃわない?」
「死んじゃわない死んじゃわない」
「よかったぁ。あとで雪男にもおしえてやろ!」
 安心した声で笑う燐を見ながら、ふと浮かんだ疑問から尋ねる。
「お前、よく自分が早く死ぬって言われて怒らなかったな」
「雪男がはやくしんじゃうっていわれたのにはムカついたけど、おれがおこるよりさきに、雪男がさきにおこっちゃったんだ」
 びっくりしたと、くたびれたように溜め息をつく燐に苦笑した。怒る原因は自分のことではなく、あくまでも弟に関してで、こいつはそういう奴だよなと思う。それに、雪男が怒ったのも自分のことではなく、燐のことを言われたから怒ったのだ。
 自分のことはそっちのけで、大切な誰かを貶されて怒る。似ていない兄弟は妙な所でそっくりだ。胸の辺りがじんわりと暖かくなりながら小さなつむじを見下ろしていると、ふいに大きな青い目がこちらを見上げてきた。
「なぁ、とうさん。雪男はおれよりももっとつよくなるよな?」
「あぁ? いきなりどうした」
「だって、おれのほうが雪男よりさきにしんじゃうのはほんとうだろ?」
 さも当然だという風に首を傾げる燐はどこまでもあどけなく、その子ども特有の鈴のような声で『死』を語っているのが奇妙だ。
「何でそう思うんだ? ってかお前、死ぬってこと分かってんのか?」
「しぬっていうのは、いなくなっちゃうことだろ? もう、とうさんや雪男やほかのやつらにもあえないってことだろ?」
 違うのか? と聞いてくる燐に大体合っていると答える。
「このまえ、きょうかいにきてたひげのじいちゃんもいってた。としよりからさきにしぬもんだって。わかいのがさきにしぬのは、わるいことだって」
作品名:生まれ育つもの 作家名:みそっかす